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2 三歳の王子と「回想する」守護精霊
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「ふぁーん、うぇーん、うぇーん」
ルイの大きな泣き声を聞きつけたわたしは、大慌てで物陰から様子をうかがった。
どうやら、遊んでて転んだらしい。足をゴシゴシこすりながら泣いている。お隣りのミレーヌちゃんが、よしよしとなぐさめている。
うんうん、問題なさそうだね。ルイに見つからないように、わたしはそーっと空に飛び立った。
守護主であるルイには、わたしの姿が見えてしまうのだ。
もっと小さかった頃は、わたしを見つけたルイが、指を差して「あぅー」と突進してきたものだ。
でも、ルイが守護精霊持ちだとバレれば、敵に命を狙われる可能性がある。
わたしたちを殺そうとしたヒョロ男は、わたしのことを守護精霊だと言った。
今でも、必死に探しているかもしれない。
だから、わたしはルイに隠れて、陰ながら見守ることにした。
あっというまに三歳になったルイは、今日も元気いっぱいに走り回っている。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
かつて、わたしは赤ちゃんだったルイを連れて、山奥にあるこの村にたどり着いた。
この家に赤ちゃんをあずけることになったのは、隣りに住むミレーヌちゃんが、ちょうど生まれたばかりだったからだ。
最初は、ミレーヌちゃんの家にあずかってもらおうと、家の前に赤ちゃんを置いて、様子をうかがった。
すると、通りがかったお隣りのアロルドさんが、泣いている赤ちゃんに気がついてくれた。
どうやら、ルイという生後二ヶ月の赤ちゃんを、亡くしたばかりだったらしい。
見つけた赤ちゃんに名前を継がせ、自分たちのこどもとして育ててくれることになった。
よかったよかったと、ひと安心したわたしだったが、今度は自分のことが心配になった。
わたしって、何なんだろう? わたしたちを殺そうとした敵って、何者なんだろう?
「精霊様」って、ヒョロ男が言ってたような気がする。
「しゅごせいれい」って言ったような……。
「かぜ」とも言ってた。うん? うーん? なんだろう、それ?
人じゃないのかな、わたしって?
でも、ルイは人だ。でもって、ルイはヒョロ男に殺されかけた。
ルイが死ぬと、わたしも生きてはいられない。あのとき、それだけは、はっきりとわかった。
守らなくちゃいけない。このかわいらしい子を。この子はわたしの命で、そして、宝物だ。
そう決意したわたしは、さっそく情報収集に飛び立った。
あやしい奴がいないか。危険な奴がいないか。村中を見て回った後、さらに森を探索することにした。
――うんうん、いいところだ。のどかだし、森いっぱいに精気が満ちあふれていて、心地がいい。
村人も三百人ばかりいるようだし、しっかりしたいいところじゃないかと、ご機嫌で飛んでいると、森の奥のほうに大きな湖が見えた。
『へー、きれいな湖だねー』
わたしは湖の真上まで来て、キョロキョロとあたりを見渡した。
と、その時だった。
『あらあら、風の子が来るなんてめずらしいわね』
びっくりして、そちらに目をやると、水面から水が噴き出て人の姿を形づくった。
『あらあら、あなた、守護精霊なのね。自由気ままな風の精霊がなんだって守護精霊なんかに? ああ、そんなこと、わかるわけないわよね』
まるで水晶で作られたかのような、グラマラスなボディーを波打たせながら、その人ではない何かは、あでやかにわたしに笑いかけた。
結局、その人でない何かは、水の精霊だった。ボーデ湖と呼ばれているこの湖に長年住んでいる精霊さんだそうで、何にも知らないわたしにいろいろなことを教えてくれた。
やはり、わたしは人ではなく精霊で、風の精霊らしい。なおかつ、人の赤ちゃんと魂が結ばれている状態で生まれてきた、守護精霊というものらしい。
守護精霊は自然界から湧き出ている力だけでなく、一緒に生まれてきた人の力も取り込んでいるらしく、ふつうの精霊より力が強いらしい。
ただ、守護主である人が死ねば、一緒に消えてなくなるため、寿命はふつうの精霊よりはるかに短いそうだ。
あと、ほとんどの守護精霊は、光属性か闇属性であり、次いで土属性が多いとも、教えてくれた。
水の精霊は水がないところでは暮らせないので、守護精霊になることはあまりなく、風の精霊もしばられるのを嫌うため、あまり聞いたことがないらしい。
火の精霊は守護精霊には向かないだろうねと、水の精霊さんはおかしそうに笑った。
ひょっとしたら、水の精霊さんは、火の精霊さんと仲が悪いのかもしれない。
せっかくだからと、ルイが命を狙われた理由を聞いてみたのだけど、水の精霊さんは首をすくめた。
『人の世のことはさっぱりわからないね。まあ、興味もないしね』
ただね、と水の精霊さんは付け加えた。
『守護精霊持ちってのは、人の世では大事にされるって聞いたことがあるよ。人が使う魔法なんかより、精霊のほうがはるかに強いからね』
ルイの大きな泣き声を聞きつけたわたしは、大慌てで物陰から様子をうかがった。
どうやら、遊んでて転んだらしい。足をゴシゴシこすりながら泣いている。お隣りのミレーヌちゃんが、よしよしとなぐさめている。
うんうん、問題なさそうだね。ルイに見つからないように、わたしはそーっと空に飛び立った。
守護主であるルイには、わたしの姿が見えてしまうのだ。
もっと小さかった頃は、わたしを見つけたルイが、指を差して「あぅー」と突進してきたものだ。
でも、ルイが守護精霊持ちだとバレれば、敵に命を狙われる可能性がある。
わたしたちを殺そうとしたヒョロ男は、わたしのことを守護精霊だと言った。
今でも、必死に探しているかもしれない。
だから、わたしはルイに隠れて、陰ながら見守ることにした。
あっというまに三歳になったルイは、今日も元気いっぱいに走り回っている。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
かつて、わたしは赤ちゃんだったルイを連れて、山奥にあるこの村にたどり着いた。
この家に赤ちゃんをあずけることになったのは、隣りに住むミレーヌちゃんが、ちょうど生まれたばかりだったからだ。
最初は、ミレーヌちゃんの家にあずかってもらおうと、家の前に赤ちゃんを置いて、様子をうかがった。
すると、通りがかったお隣りのアロルドさんが、泣いている赤ちゃんに気がついてくれた。
どうやら、ルイという生後二ヶ月の赤ちゃんを、亡くしたばかりだったらしい。
見つけた赤ちゃんに名前を継がせ、自分たちのこどもとして育ててくれることになった。
よかったよかったと、ひと安心したわたしだったが、今度は自分のことが心配になった。
わたしって、何なんだろう? わたしたちを殺そうとした敵って、何者なんだろう?
「精霊様」って、ヒョロ男が言ってたような気がする。
「しゅごせいれい」って言ったような……。
「かぜ」とも言ってた。うん? うーん? なんだろう、それ?
人じゃないのかな、わたしって?
でも、ルイは人だ。でもって、ルイはヒョロ男に殺されかけた。
ルイが死ぬと、わたしも生きてはいられない。あのとき、それだけは、はっきりとわかった。
守らなくちゃいけない。このかわいらしい子を。この子はわたしの命で、そして、宝物だ。
そう決意したわたしは、さっそく情報収集に飛び立った。
あやしい奴がいないか。危険な奴がいないか。村中を見て回った後、さらに森を探索することにした。
――うんうん、いいところだ。のどかだし、森いっぱいに精気が満ちあふれていて、心地がいい。
村人も三百人ばかりいるようだし、しっかりしたいいところじゃないかと、ご機嫌で飛んでいると、森の奥のほうに大きな湖が見えた。
『へー、きれいな湖だねー』
わたしは湖の真上まで来て、キョロキョロとあたりを見渡した。
と、その時だった。
『あらあら、風の子が来るなんてめずらしいわね』
びっくりして、そちらに目をやると、水面から水が噴き出て人の姿を形づくった。
『あらあら、あなた、守護精霊なのね。自由気ままな風の精霊がなんだって守護精霊なんかに? ああ、そんなこと、わかるわけないわよね』
まるで水晶で作られたかのような、グラマラスなボディーを波打たせながら、その人ではない何かは、あでやかにわたしに笑いかけた。
結局、その人でない何かは、水の精霊だった。ボーデ湖と呼ばれているこの湖に長年住んでいる精霊さんだそうで、何にも知らないわたしにいろいろなことを教えてくれた。
やはり、わたしは人ではなく精霊で、風の精霊らしい。なおかつ、人の赤ちゃんと魂が結ばれている状態で生まれてきた、守護精霊というものらしい。
守護精霊は自然界から湧き出ている力だけでなく、一緒に生まれてきた人の力も取り込んでいるらしく、ふつうの精霊より力が強いらしい。
ただ、守護主である人が死ねば、一緒に消えてなくなるため、寿命はふつうの精霊よりはるかに短いそうだ。
あと、ほとんどの守護精霊は、光属性か闇属性であり、次いで土属性が多いとも、教えてくれた。
水の精霊は水がないところでは暮らせないので、守護精霊になることはあまりなく、風の精霊もしばられるのを嫌うため、あまり聞いたことがないらしい。
火の精霊は守護精霊には向かないだろうねと、水の精霊さんはおかしそうに笑った。
ひょっとしたら、水の精霊さんは、火の精霊さんと仲が悪いのかもしれない。
せっかくだからと、ルイが命を狙われた理由を聞いてみたのだけど、水の精霊さんは首をすくめた。
『人の世のことはさっぱりわからないね。まあ、興味もないしね』
ただね、と水の精霊さんは付け加えた。
『守護精霊持ちってのは、人の世では大事にされるって聞いたことがあるよ。人が使う魔法なんかより、精霊のほうがはるかに強いからね』
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