上 下
7 / 16

6.5 おまけ 忘れられないこと

しおりを挟む
 あれは一体何だったんだ? 猫の耳と尻尾を持った人の娘……。自分でも何を言っているのか分からないが、確かに見た。猫と人のハーフのような娘がいたのだ。

「妖精……?」

 尾を振り髪を乱して走り去っていく後ろ姿がとても可憐かれんだった。しかし見失ってしまった。仕方なくパーティー会場へ戻る。頭は先の娘のことでいっぱいだった。
 猫と人の間の娘。人の言葉を喋るのだろうか。それとも猫のように鳴くのだろうか。そんなことばかり考えている。

 猫は追いかければ逃げると知っていたのに、俺としたことが咄嗟とっさに追いかけてしまった。そっと近付けば良かった、遠目から眺めていれば良かった、どんなに悔やんでも時は戻らない。

 パーティーの参加客が帰っていくのを、俺は呆けたまま見届けていた。

「ロベルト様。どうなさいました?」
「え?」

 婚約者であるシャーリーが俺を心配そうに見つめていた。彼女は最後まで残っていたらしい。俺は何を考えていたんだ。こんな非の打ちどころもない女性と婚約しておいて、なんて男だ。

 しかし今も、シャーリーの頭に猫耳が生えていたらと考えてしまっている。このふわふわの金髪に猫の……。いや、彼女が猫に近付いたところであの衝撃は味わえないだろう。
 俺はきちんと挨拶をしてシャーリーを見送った。容姿も仕草も美しく、内面も素晴らしい人だ。だが俺の頭の中は猫娘でいっぱいだ。振り切ろうとしても振り切れない。

 自分で自分が信じられなかった。まさか俺が、こんなにも心奪われることがあるだなんて。

 何度も後ろ姿を思い浮かべながら眠りについた。夢の中でも彼女を追いかけていて、やっと肩を掴んだ。振り返ったその顔を見る前に目が覚める。

「困ったな、これは……」

 飼い猫が近付いてきたので撫でてやる。可愛い声で鳴くのを聞いて息を吐いた。


 しばらくは忘れられそうにない……。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

攻略対象の王子様は放置されました

白生荼汰
恋愛
……前回と違う。 お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。 今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。 小説家になろうにも投稿してます。

【完結】巻き戻りを望みましたが、それでもあなたは遠い人

白雨 音
恋愛
14歳のリリアーヌは、淡い恋をしていた。相手は家同士付き合いのある、幼馴染みのレーニエ。 だが、その年、彼はリリアーヌを庇い酷い傷を負ってしまった。その所為で、二人の運命は狂い始める。 罪悪感に苛まれるリリアーヌは、時が戻れば良いと切に願うのだった。 そして、それは現実になったのだが…短編、全6話。 切ないですが、最後はハッピーエンドです☆《完結しました》

婚約破棄なんてどうでもいい脇役だし。この肉うめぇ

ゼロ
恋愛
婚約破棄を傍観する主人公の話。傍観出来てないが。 42話の“私の婚約者”を“俺の婚約者”に変更いたしました。 43話のセオの発言に一部追加しました。 40話のメイド長の名前をメリアに直します。 ご迷惑おかけしてすみません。 牢屋と思い出、順番間違え間違えて公開にしていたので一旦さげます。代わりに明日公開する予定だった101話を公開させてもらいます。ご迷惑をおかけしてすいませんでした。 説明1と2を追加しました。

悪役令嬢ライザと悪役令息の婚約者

マロン株式
恋愛
前世でやる気のない銀行員(28歳)をやっていたが、歩きスマホにより前方不注意で事故死した。 歩きスマホの罰なのか、生まれ変わったら死ぬ直前までやっていたスマホアプリの恋愛シミュレーションゲームの悪役令嬢ライザに転生していた。 ふと日付を確認してみると、異世界転生に愕然としている場合では無い。 今日は悪役令息が誕生する日――公爵家惨殺事件の日の当日だったのだ。 闇落ちした彼は将来、犯罪卿とも言われ、邪魔になったライザを破滅させるかもしれない。 悪役令息を誕生させまいと無我夢中で助けに向かったけれど、彼の一家は彼以外全員殺された後だった。 しかもこの後、婚約予定でなかった悪役令息と何故か婚約を結ぶ事に。 これは前世で罪を犯した罰なのか、それとも―― ブラックファンタジー 悪役令嬢×悪役令息の運命はー… ※物語は完結まで書いてありますが、修正をしながら掲載していきます ※ご都合主義もあります。  ※主人公が不真面目なので真面目な人は閲覧注意。 ※全体的にシュールです

嘘つきな私が貴方に贈らなかった言葉

海林檎
恋愛
※1月4日12時完結 全てが嘘でした。 貴方に嫌われる為に悪役をうって出ました。 婚約破棄できるように。 人ってやろうと思えば残酷になれるのですね。 貴方と仲のいいあの子にわざと肩をぶつけたり、教科書を隠したり、面と向かって文句を言ったり。 貴方とあの子の仲を取り持ったり···· 私に出来る事は貴方に新しい伴侶を作る事だけでした。

王太子から婚約破棄され、嫌がらせのようにオジサンと結婚させられました 結婚したオジサンがカッコいいので満足です!

榎夜
恋愛
王太子からの婚約破棄。 理由は私が男爵令嬢を虐めたからですって。 そんなことはしていませんし、大体その令嬢は色んな男性と恋仲になっていると噂ですわよ? まぁ、辺境に送られて無理やり結婚させられることになりましたが、とってもカッコいい人だったので感謝しますわね

死んで巻き戻りましたが、婚約者の王太子が追いかけて来ます。

拓海のり
恋愛
侯爵令嬢のアリゼは夜会の時に血を吐いて死んだ。しかし、朝起きると時間が巻き戻っていた。二度目は自分に冷たかった婚約者の王太子フランソワや、王太子にべったりだった侯爵令嬢ジャニーヌのいない隣国に留学したが──。 一万字ちょいの短編です。他サイトにも投稿しています。 残酷表現がありますのでR15にいたしました。タイトル変更しました。

どうして私にこだわるんですか!?

風見ゆうみ
恋愛
「手柄をたてて君に似合う男になって帰ってくる」そう言って旅立って行った婚約者は三年後、伯爵の爵位をいただくのですが、それと同時に旅先で出会った令嬢との結婚が決まったそうです。 それを知った伯爵令嬢である私、リノア・ブルーミングは悲しい気持ちなんて全くわいてきませんでした。だって、そんな事になるだろうなってわかってましたから! 婚約破棄されて捨てられたという噂が広まり、もう結婚は無理かな、と諦めていたら、なんと辺境伯から結婚の申し出が! その方は冷酷、無口で有名な方。おっとりした私なんて、すぐに捨てられてしまう、そう思ったので、うまーくお断りして田舎でゆっくり過ごそうと思ったら、なぜか結婚のお断りを断られてしまう。 え!? そんな事ってあるんですか? しかもなぜか、元婚約者とその彼女が田舎に引っ越した私を追いかけてきて!? おっとりマイペースなヒロインとヒロインに恋をしている辺境伯とのラブコメです。ざまぁは後半です。 ※独自の世界観ですので、設定はゆるめ、ご都合主義です。

処理中です...