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番外編 ~過去話~

レドとシルフィの出会いの話(前編)

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 人が生きるために必要なものは、魔力だ。それと食べ物とか飲み物とか。住む場所とか。そしてお金だ。

「また頼むね」
 俺は無言で賃金を受け取り、今日の雇い主に軽く頭を下げた。仕事が終われば帰るだけ。
 今の俺の住処は森の中だった。トゥーリエで暮らしていた頃はもっと良い暮らしをしていたが、俺にはあんな暮らしは向いていなかった。俺は国の為に生きているわけじゃない。俺が生きているのは、俺の為だ。俺が生きて、俺が死ぬ為だ。
 荷運びの仕事は割が良い。魔物を召喚して、運ばせるだけ。ただ厄介なのは街中まで運ばされることだ。さすがに街中まで魔物は使えないので、俺が自力で往復することになる。メセイルでは魔物は恐怖の対象だから。まあ、それが普通だ。首に縄付けて扱おうだなんて無理がある。
 ついでに食料を買って行こうと出店を覗いていると、視線に気付いた。下だ。子供がいる。じっと俺の顔を見ている。
「あ? ガキ、あっち行け」
 凄んで睨みつけた。しかし鈍い子供には無意味で、小さな指先を俺の頭に向けた。
「変な色!」
「うるせぇな……」
 フードを深く被り直す。召喚士は体内の魔力を多く使うせいか、髪の色が変色する。俺の髪も例に漏れず緑色だ。トゥーリエでは良かったが、メセイルではとても目立つ。この国ではそもそも召喚士の存在自体があまり周知されていないらしい。いつも、いつでも好奇の目で見られる。国に保護されたり何とかいう立場を付与されないだけマシだが。ああ嫌だ。俺はただ生きているだけなのに。
 子供が頭を見せろとうるさいのを無視して、適当に食料を買い込んだ。人の目から逃げるように街を出る。
 歩いて、歩いて、ひたすら歩く。途中で食料を口にしつつ歩く。帰りは徒歩だ。魔力が無い。足りない。生きる為の力が足りない。

 日が沈み始めた。森に足を踏み入れる。薄暗いが見えないほどじゃない。魔物に気を付ければ問題なく家に辿り着ける、と、俺は足を止めた。視界の先に何かがいる。魔物にしては動きが変だった。当て所なく彷徨うような動き。
 木に身を隠して、動く何かの正体を見極める。どうやら、人だ。それも子供だった。
「またか」
 乾いた笑いが零れる。この子供も捨てられたのだろう。森は魔力が多いから生きていけるはず、と本気で思っているのか或いはそうやって自分を慰めているのか、親は平気で子供を捨てていく。どんな理由があったかは知らないが何も珍しいことじゃない。よくあることだ。
 当然、捨てられた子供は生きていけるわけもなく魔物の餌になる。鋭い牙も爪も無く、無力な癖に魔力ばかり蓄えた生き物なんて、魔物が放っておくわけがない。
 トゥーリエでは魔物を扱い損ねて死ぬやつばかり見たが、この国に来てからは子供の泣き声が消えていくのを何度も聞いた。来たばかりの頃はなかなか眠れなかったが、もう慣れた。例え助けたところで世話をする余裕などあるわけがない。俺は俺が生きるだけで精いっぱいだ。
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