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私はまだ夢見心地で、ゆっくり息を吸った。
「ええと、これって……夢?」
「寝ぼけてんのか?」
「目を開けて現実を見ろ」
「エコさん! 元気そうで良かった!」
「エコ、お帰り!」
次々と言葉を投げかけられ、私は感情が追い付かないまま頷いた。
「……ただいま~……はっくしょん!」
風にくすぐられてくしゃみが出た。場に微妙な空気が流れる。
「おいラウロ、ちゃんと説明したのか?」
疑いの眼差しでラウロを見ているのはミケだ。黙っていれば美少女に見えるところは変わらない。
「していません。面倒だったので。行きたくないと言われても困りますから無理矢理連れてきました」
「よくやった」
長い黒髪の、ユリス。前よりも顔つきが凛々しくて、態度も頼もしくなったように思える。
「貴方の為じゃありませんけどね」
しれっと言ったラウロは前とあまり変わっていないような気がする。いや、ちょっと物言いが正直になった?
「エコさんっ、俺、今は剣の扱い方を習ってるところなんだ。エコさんは家にいる間、どうだった? 向こうは楽しかった?」
ハインツの顔には小さな傷がいくつも見えた。剣と盾を携えた格好が様になっている。私の記憶にある気弱な雰囲気はすっかり薄くなっていた。
「僕、身長伸びたんだよ、分かる?」
立っていると分かる。シルフィは見るからに大きくなっている。会ったばかりの時は小学生みたいだったのに、今は中学生になった感じだ。成長してる。
会話をするにつれ段々と現実を受け止められるようになってきた。みんなが黙った間に言う。
「つまり、これは現実ってことだね? 分かってきた。でもどうやって世界を飛び越えたの? 無理じゃなかったの?」
「ほとんどシルフィ様のお陰です」
あの日、帰って来た精霊が私と召喚陣との繋がりが切れないようにしてくれたのだという。そこでシルフィは召喚魔法の研究を重ねて、私を引っ張って来るのは不可能でも、誰かを向こうの世界へ送り出すことは可能だと気付いた。無事で済む保証もなく失敗したらどうなるか分からない、それでも一か八かに賭けてまずラウロを送り出した。もしラウロが失敗したら次は方法を変えてミケが出る予定だったらしい。ミケが失敗したら次、と。その為にみんな集まってくれたのだ。私一人を連れて帰って来る為に。
私は話を聞いて胸が詰まった。みんな諦めないでいてくれた。私のことを忘れないでいてくれたのだ。
「みんな、ありがとう。私、もうみんなには会えないまま生きていくんだろうなって、思ってて。抱き枕買おうか悩んでたくらいで……」
涙が滲む。夢みたいだ。みんながいる。夢じゃなくて、良かった。
「言っておくが帰れんぞ」
ユリスが冷静に言う。シルフィも同意して頷いた。
「繋がりが切れてる。この召喚陣ももう使えないね。こんなデタラメでよく召喚出来たなーって、今見ると不思議だよ」
床の召喚陣を見下ろす。床板の端の方は腐っていて経った年月の長さを思う。私はまた始まりの場所に戻って来たんだ。ここで終わった物語は、また始まっていく。
「帰れないのは別にいいけど、じゃあ私はずっとここで生きていけるってことだよね?」
「帰れるか試してみますか?」
ラウロが私の肩を掴んだ。真剣に見つめられると恥ずかしい。半年も離れていたから見つめられ耐性がすっかり無くなっている。
「あの、ええと~……今はいいです」
ずるずると後退った。エビのように。ラウロが一歩近付く。私は下がる。困っているとユリスが鋭く言った。
「エコ、腕輪はあるか。国を出た方がいい。どうやら相変わらずの魔力量のようだ」
「ええ! 精霊に全部渡したと思ってたんだけど!?」
「エコの体質は相当ってことか。んじゃ、しばらくはオレと二人暮らしだな」
ミケが機嫌良く私の肩をぽんぽん叩いた。ミケと二人暮らしということは、
「緩衝地帯に行くの?」
「そ。どこかの国にいるとマズいからな」
「相変わらず仲が悪いの……?」
「以前よりは良くなった。僅かだが交流もある」
ユリスが言うなら確かだろう。少しずつでも仲良くなれたらいいな。そうしたら私も気軽に他の国へ遊びに行ける。会いたい人がたくさんいるから。
「そうだ、世界の魔力は元に戻った?」
肝心なことを忘れていた。一番大事なことだ。シルフィが笑顔で答える。
「戻ったよ。エコのお陰で。今はたくさんある」
「そっか、そうなんだ、良かった……!」
感動しているとユリスが「急ぐぞ」と声を上げた。そうだった、国を出るんだった。ラウロから腕輪を受け取って腕に通す。またお世話になります。ニースにも散々振り回されたけど、この腕輪には助けられっぱなしだ。ニースには他にも助けられたことがあるような。上手く思い出せなかった。神出鬼没な人だし、またいずれ会うこともあるだろう。
「ええと、これって……夢?」
「寝ぼけてんのか?」
「目を開けて現実を見ろ」
「エコさん! 元気そうで良かった!」
「エコ、お帰り!」
次々と言葉を投げかけられ、私は感情が追い付かないまま頷いた。
「……ただいま~……はっくしょん!」
風にくすぐられてくしゃみが出た。場に微妙な空気が流れる。
「おいラウロ、ちゃんと説明したのか?」
疑いの眼差しでラウロを見ているのはミケだ。黙っていれば美少女に見えるところは変わらない。
「していません。面倒だったので。行きたくないと言われても困りますから無理矢理連れてきました」
「よくやった」
長い黒髪の、ユリス。前よりも顔つきが凛々しくて、態度も頼もしくなったように思える。
「貴方の為じゃありませんけどね」
しれっと言ったラウロは前とあまり変わっていないような気がする。いや、ちょっと物言いが正直になった?
「エコさんっ、俺、今は剣の扱い方を習ってるところなんだ。エコさんは家にいる間、どうだった? 向こうは楽しかった?」
ハインツの顔には小さな傷がいくつも見えた。剣と盾を携えた格好が様になっている。私の記憶にある気弱な雰囲気はすっかり薄くなっていた。
「僕、身長伸びたんだよ、分かる?」
立っていると分かる。シルフィは見るからに大きくなっている。会ったばかりの時は小学生みたいだったのに、今は中学生になった感じだ。成長してる。
会話をするにつれ段々と現実を受け止められるようになってきた。みんなが黙った間に言う。
「つまり、これは現実ってことだね? 分かってきた。でもどうやって世界を飛び越えたの? 無理じゃなかったの?」
「ほとんどシルフィ様のお陰です」
あの日、帰って来た精霊が私と召喚陣との繋がりが切れないようにしてくれたのだという。そこでシルフィは召喚魔法の研究を重ねて、私を引っ張って来るのは不可能でも、誰かを向こうの世界へ送り出すことは可能だと気付いた。無事で済む保証もなく失敗したらどうなるか分からない、それでも一か八かに賭けてまずラウロを送り出した。もしラウロが失敗したら次は方法を変えてミケが出る予定だったらしい。ミケが失敗したら次、と。その為にみんな集まってくれたのだ。私一人を連れて帰って来る為に。
私は話を聞いて胸が詰まった。みんな諦めないでいてくれた。私のことを忘れないでいてくれたのだ。
「みんな、ありがとう。私、もうみんなには会えないまま生きていくんだろうなって、思ってて。抱き枕買おうか悩んでたくらいで……」
涙が滲む。夢みたいだ。みんながいる。夢じゃなくて、良かった。
「言っておくが帰れんぞ」
ユリスが冷静に言う。シルフィも同意して頷いた。
「繋がりが切れてる。この召喚陣ももう使えないね。こんなデタラメでよく召喚出来たなーって、今見ると不思議だよ」
床の召喚陣を見下ろす。床板の端の方は腐っていて経った年月の長さを思う。私はまた始まりの場所に戻って来たんだ。ここで終わった物語は、また始まっていく。
「帰れないのは別にいいけど、じゃあ私はずっとここで生きていけるってことだよね?」
「帰れるか試してみますか?」
ラウロが私の肩を掴んだ。真剣に見つめられると恥ずかしい。半年も離れていたから見つめられ耐性がすっかり無くなっている。
「あの、ええと~……今はいいです」
ずるずると後退った。エビのように。ラウロが一歩近付く。私は下がる。困っているとユリスが鋭く言った。
「エコ、腕輪はあるか。国を出た方がいい。どうやら相変わらずの魔力量のようだ」
「ええ! 精霊に全部渡したと思ってたんだけど!?」
「エコの体質は相当ってことか。んじゃ、しばらくはオレと二人暮らしだな」
ミケが機嫌良く私の肩をぽんぽん叩いた。ミケと二人暮らしということは、
「緩衝地帯に行くの?」
「そ。どこかの国にいるとマズいからな」
「相変わらず仲が悪いの……?」
「以前よりは良くなった。僅かだが交流もある」
ユリスが言うなら確かだろう。少しずつでも仲良くなれたらいいな。そうしたら私も気軽に他の国へ遊びに行ける。会いたい人がたくさんいるから。
「そうだ、世界の魔力は元に戻った?」
肝心なことを忘れていた。一番大事なことだ。シルフィが笑顔で答える。
「戻ったよ。エコのお陰で。今はたくさんある」
「そっか、そうなんだ、良かった……!」
感動しているとユリスが「急ぐぞ」と声を上げた。そうだった、国を出るんだった。ラウロから腕輪を受け取って腕に通す。またお世話になります。ニースにも散々振り回されたけど、この腕輪には助けられっぱなしだ。ニースには他にも助けられたことがあるような。上手く思い出せなかった。神出鬼没な人だし、またいずれ会うこともあるだろう。
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