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外に出たユリスとラウロが私のジャージを持ち帰って来た。外で兵士に渡されたという。私はドレスをジャージに替えて、前の靴は捨てることにした。ジャージに革靴という奇妙な出で立ちになったけど、靴の履き心地には変えられない。
イゼク王子はどうしてるだろう。ジャージを返してくれたのを思うと気にかかった。泣いてないと良いけど、元気にしてると良いけど、まるで親の気持ちだ。
ディキタニアを出た私たちは馬車で緩衝地帯を走っていた。目的地はメセイル。そして、
「城に行く? オレもか?」
「当面の生活費を渡してやる。礼だ」
「全っ然喜べねえ言い方……」
ユリスが王様とディキタニアの話をするのに当たってここまでの事情を全部話したそうだ。すると王様が“礼をしたいから一度全員連れてきて欲しい”と言ったらしい。というわけで私たちはみんなでメセイルのお城に向かっていた。
私は馬車に揺られながら自分の行く先を考える。まずどこに暮らそうかな。もし農業をさせてもらえなかったら大きな街に住みたい。仕事がありそうなところ。生活が落ち着いてきたら、たまにシルフィに会いに行ったりして……と突然酷い耳鳴りに襲われた。
「うっ……」
耳を押さえる。頭も痛い。
「エコ、どうしたの」
シルフィが気にして声をかけてくる。私は「大丈夫」と死にそうな声で言って痛みに耐えた。段々と耳鳴りも小さくなり、やがて止んだ。
「治った」
「どこか痛い?」
「ううん、もう大丈夫。ちょっと耳鳴りがしただけ」
馬車はやがてメセイルへ入る。すっかり日も沈んだ為、国境近くの兵士の施設で一晩休ませてもらうことになった。二部屋借りて、私はユリスとシルフィと同室だった。明日は日が昇る前に出るという。
今日は一日中馬車に揺られていたので腰が痛い。あまり広くない部屋なのでベッドに腰かけたままぐっと背伸びをしたり体をひねったりした。もっとちゃんと体を動かしたいなあと考えていると、隣室のハインツがやって来た。ドアを叩いて恐る恐る顔を覗かせる、その仕草が可愛くて和んだ。
「あ、あのっ、エコさんっ」
「どうしたの?」
「俺と……外とか、行かない?」
「私はいいけど」
ちらっとユリスの反応を窺う。窓際に座っていたユリスは窓を見ながら言った。
「遠くへは行くな。目の届く範囲にいろ」
「分かりました! シルフィはどうする? って、寝てるか」
シルフィは部屋に入ってすぐベッドに寝転がり天井を見つめていた。何か考え込んでいる様子だったのでそっとしておいたら、そのまま寝てしまったようだ。寝付きが良くて羨ましい。
「じゃあ少し出てきます」
ユリスに言って部屋を出た。施設の狭い廊下を歩いて外へ。
外は明るかった。日もない夜のはずなのに。魔法? 不思議に思い首を上向けると夜空にまんまるな月が浮かんでいた。真っ白い光を見つめながら、月ってこんなに明るいものだったかとびっくりしてしまう。ずっと曇り空のディキタニアでは見られない光景だ。
「すごい綺麗だねえ」
「エコ様! どうかしましたか?」
ラウロ、ではなく兵士の人だった。駆け寄って来てへり下った態度で言う。
「不都合でもありましたか。何でも仰ってください」
「ち、違います。外の空気を吸いに来ただけです。気にしないでください」
そうだった、思い出した。保護の命令とやらが出てから兵士はこんな風なんだった。革の鎧を身に着けた兵士は、胸に手を当てハキハキした声で言った。
「暗いのでお気をつけ下さい。もし差し支えなければ私も共をしましょうか」
「いえ、ですから」
「俺がいるので、大丈夫です」
ハインツが私と兵士の間に割って入った。兵士は今初めてハインツに気付いた様子で「申し訳ございません!」と深く頭を下げ、ランプを貸してくれた。
月明かりの下をハインツと歩く。目立った障害物も無く、月明かりだけで遠くまで見渡せそうだった。
「満月のおかげで明るいね」
「うん」
「今日ずっと座ってたから体を動かしたかったんだ。ありがとうねハインツ」
「うん……」
ハインツは少し元気が無いようだ。悩みでもあるのかな。シルフィも考え込んでたし私も色々考えてたし、考える時期なのかもしれない。
イゼク王子はどうしてるだろう。ジャージを返してくれたのを思うと気にかかった。泣いてないと良いけど、元気にしてると良いけど、まるで親の気持ちだ。
ディキタニアを出た私たちは馬車で緩衝地帯を走っていた。目的地はメセイル。そして、
「城に行く? オレもか?」
「当面の生活費を渡してやる。礼だ」
「全っ然喜べねえ言い方……」
ユリスが王様とディキタニアの話をするのに当たってここまでの事情を全部話したそうだ。すると王様が“礼をしたいから一度全員連れてきて欲しい”と言ったらしい。というわけで私たちはみんなでメセイルのお城に向かっていた。
私は馬車に揺られながら自分の行く先を考える。まずどこに暮らそうかな。もし農業をさせてもらえなかったら大きな街に住みたい。仕事がありそうなところ。生活が落ち着いてきたら、たまにシルフィに会いに行ったりして……と突然酷い耳鳴りに襲われた。
「うっ……」
耳を押さえる。頭も痛い。
「エコ、どうしたの」
シルフィが気にして声をかけてくる。私は「大丈夫」と死にそうな声で言って痛みに耐えた。段々と耳鳴りも小さくなり、やがて止んだ。
「治った」
「どこか痛い?」
「ううん、もう大丈夫。ちょっと耳鳴りがしただけ」
馬車はやがてメセイルへ入る。すっかり日も沈んだ為、国境近くの兵士の施設で一晩休ませてもらうことになった。二部屋借りて、私はユリスとシルフィと同室だった。明日は日が昇る前に出るという。
今日は一日中馬車に揺られていたので腰が痛い。あまり広くない部屋なのでベッドに腰かけたままぐっと背伸びをしたり体をひねったりした。もっとちゃんと体を動かしたいなあと考えていると、隣室のハインツがやって来た。ドアを叩いて恐る恐る顔を覗かせる、その仕草が可愛くて和んだ。
「あ、あのっ、エコさんっ」
「どうしたの?」
「俺と……外とか、行かない?」
「私はいいけど」
ちらっとユリスの反応を窺う。窓際に座っていたユリスは窓を見ながら言った。
「遠くへは行くな。目の届く範囲にいろ」
「分かりました! シルフィはどうする? って、寝てるか」
シルフィは部屋に入ってすぐベッドに寝転がり天井を見つめていた。何か考え込んでいる様子だったのでそっとしておいたら、そのまま寝てしまったようだ。寝付きが良くて羨ましい。
「じゃあ少し出てきます」
ユリスに言って部屋を出た。施設の狭い廊下を歩いて外へ。
外は明るかった。日もない夜のはずなのに。魔法? 不思議に思い首を上向けると夜空にまんまるな月が浮かんでいた。真っ白い光を見つめながら、月ってこんなに明るいものだったかとびっくりしてしまう。ずっと曇り空のディキタニアでは見られない光景だ。
「すごい綺麗だねえ」
「エコ様! どうかしましたか?」
ラウロ、ではなく兵士の人だった。駆け寄って来てへり下った態度で言う。
「不都合でもありましたか。何でも仰ってください」
「ち、違います。外の空気を吸いに来ただけです。気にしないでください」
そうだった、思い出した。保護の命令とやらが出てから兵士はこんな風なんだった。革の鎧を身に着けた兵士は、胸に手を当てハキハキした声で言った。
「暗いのでお気をつけ下さい。もし差し支えなければ私も共をしましょうか」
「いえ、ですから」
「俺がいるので、大丈夫です」
ハインツが私と兵士の間に割って入った。兵士は今初めてハインツに気付いた様子で「申し訳ございません!」と深く頭を下げ、ランプを貸してくれた。
月明かりの下をハインツと歩く。目立った障害物も無く、月明かりだけで遠くまで見渡せそうだった。
「満月のおかげで明るいね」
「うん」
「今日ずっと座ってたから体を動かしたかったんだ。ありがとうねハインツ」
「うん……」
ハインツは少し元気が無いようだ。悩みでもあるのかな。シルフィも考え込んでたし私も色々考えてたし、考える時期なのかもしれない。
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