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白の裏は
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「やはりイゼク王子は怪しいですか」
「怪しいな。エコにはすんなり会わせてくれたが、まるで自分のものみたいに、誰にも触らせたくないって態度だ。あれじゃ何聞いてもはぐらかされる」
オレがエコに触れようとした時、王子の態度が変だったのを思い出す。明らかに異常な反応だった。『ぼくが起こしますから、座っていてもらえますか?』という発言も変だ。別に誰が起こしたって問題は無いはずなのに。
「エコ様に触れられたくない理由があるんでしょうね」
「だろうな。エコの状態を確認するには王子が邪魔だ。エコと上手く会う方法があればいいんだが……」
オレのぼやきでユリスが立ち上がった。もしかして。
「……城に行くとか言うんじゃないだろうな」
「他にどうする」
オレを押し退けて外に出ようとするのを止めた。長髪の上に長身とかタチが悪い。オレは見上げながら言った。
「待て待て。あんた立場があるんだろ。下手すりゃ国同士の争いになる。オレはそんなのに巻き込まれたくないぜ」
ユリスの性格からすると殴り込むに決まってる。敵国の王子が武器を手に城へ、なんて宣戦布告と取られかねない。ユリスと睨み合っていると今度はハインツが声を上げた。
「じゃあ俺が行く! もうじっとしていられない!」
「ハインツはじっとしててくれ」
「でっ、でも、もしエコさんが怪我をしてたらどうするんだよ! 誰がエコさんを守るんだよ……やっぱり離れたのが間違いだったんだ、俺がちゃんとしていれば」
「気持ちは分かるが、まず話を決めてからだな……」
「いえ。ハインツ様には好きに動いてもらいましょう」
ラウロがオレの説得を無に帰すような発言をした。オレは澄まし顔の従者を呆れて見ていたが、気付く。
「囮にするつもりか?」
ラウロは肯定も否定もせず答えた。
「ハインツ様は魔法が使えませんが、体が丈夫で力が強く、更には話が通じません」
「さらっと酷いこと言ったな」
「注目を集めてもらい、その隙に侵入します」
侵入ね。良くない響きだ。全く言い訳のしようもない。
ハインツを囮にして侵入はいいが(良くないが)、オレは再び「待った」をかけた。現実的に考えて問題が多い。
「城に入るには兵士の案内が無いと無理だ。地下道の出入り口は特殊な魔法がかかってる、オレたちだけじゃ入れない。地上を行くにしても吹雪が酷いし、まず道が分からないだろ。どうするんだよ」
「いくらでもやりようはある。行くぞ」
「はい」
主従が阿吽の呼吸で空き家を出て行った。二人ともオレの話聞いてないだろ。慎重に動くってことを知らないのか。まあ、いざとなったらユリスの王子的な権力で何とかしてもらおう……。オレは大きめの不安を抱えながらユリスたちについて行った。
**
地下道を通る為には兵士の協力が必須だが、王子にバレないように城へ侵入しなければならない。さてどうするか。答えは、
「大きい声!」
シルフィの手にした本からキーンと金切り声が響く。兵士がざわつきながら詰め所らしき建物から出て来た。もうちょい派手にするか。オレは口元に手を添えて叫ぶ。
「ま、魔物がいるー! 大変!」
「何!?」
兵士がオレたちに注目して走り寄って来た。
「魔物がいたって本当か!?」
慌てた様子の兵士にラウロが丁寧に嘘の説明をする。深刻そうな表情も忘れずに。
「はい。向こうも私たちを見て驚いたのか、走って逃げて行ってしまいました。まだ街の中にいるかもしれません」
「そうか、分かった。探してみる。あんたたちは大丈夫か?」
オレは目に涙を浮かべて兵士を見上げた。
「こ、怖かったぁ~……あたし、死んじゃうかと思った……」
「そうか……可哀想に。本当に申し訳ない」
兵士は同情するような目つきをした。もう一押し、抱き着くか? と考えていると、
「僕も怖かった。まだ死にたくないよ」
シルフィが手をぎゅっと握りしめ声を震わせた。なんて呑み込みの早い奴! 兵士は哀れな少年少女を見て言葉を失くしていた。そこへ別の兵士が現れる。
「あれ、貴方たちは確か王子の客人の……? こんなところで何を?」
「魔物を見かけたらしい。とても怯えている。この辺りの魔物は特に凶暴だからな、無理もない」
「不運だったね。そうだ、城へ連れて行くのはどうだ? 王子の客人であれば快く入れてくださるはずだ」
「そうしよう。城なら安全だ」
兵士二人の会話を聞きながらオレはくすんくすんと鼻を啜っていた。よし。これで地下道を通れる。
一人は去って行き、残った兵士はオレたちに向かって言った。
「皆さん、また魔物が出ては危険ですから城へ案内します」
「ありがとうございます。日も暮れて困っていたものですから、助かります」
ラウロが丁寧に礼を言った。兵士について地下道を歩く。狭くて暗い道を進み、突き当たりの階段を上がる。先頭の兵士が天井に手を当てた。
「開け」
と呟く声が聞こえ、天井が音もなく持ち上がる。魔法なのは分かるが仕組みがさっぱり分からない。開いた天井から雪の地面が見える。地上だ。
「上はすぐ城ですか? 私たちは本当に中に入れてもらえるのでしょうか……」
不安げなラウロの声に兵士は振り返った。
「城門の前に出ます。城の人たちには俺がきちんと事情を話すので、心配はいりませんよ」
「そうか。助かる」
ユリスが労うように兵士の肩に手を置いた。兵士は首を振り「いえいえ」と言いかけてドサッと倒れる。その体を傍らに寄せると、ユリスはさっさと地上へ上がって行ってしまった。ラウロも続く。ここまで一瞬の出来事だ。
「うわ、すげえ、しっかり気絶してる」
倒れた兵士をつついてみるも無反応だ。魔法怖いな。ってかユリスが怖い。あの性格でこの魔法の腕前って、敵に回したくねえ。仲間とも言いきれないが。
「怪しいな。エコにはすんなり会わせてくれたが、まるで自分のものみたいに、誰にも触らせたくないって態度だ。あれじゃ何聞いてもはぐらかされる」
オレがエコに触れようとした時、王子の態度が変だったのを思い出す。明らかに異常な反応だった。『ぼくが起こしますから、座っていてもらえますか?』という発言も変だ。別に誰が起こしたって問題は無いはずなのに。
「エコ様に触れられたくない理由があるんでしょうね」
「だろうな。エコの状態を確認するには王子が邪魔だ。エコと上手く会う方法があればいいんだが……」
オレのぼやきでユリスが立ち上がった。もしかして。
「……城に行くとか言うんじゃないだろうな」
「他にどうする」
オレを押し退けて外に出ようとするのを止めた。長髪の上に長身とかタチが悪い。オレは見上げながら言った。
「待て待て。あんた立場があるんだろ。下手すりゃ国同士の争いになる。オレはそんなのに巻き込まれたくないぜ」
ユリスの性格からすると殴り込むに決まってる。敵国の王子が武器を手に城へ、なんて宣戦布告と取られかねない。ユリスと睨み合っていると今度はハインツが声を上げた。
「じゃあ俺が行く! もうじっとしていられない!」
「ハインツはじっとしててくれ」
「でっ、でも、もしエコさんが怪我をしてたらどうするんだよ! 誰がエコさんを守るんだよ……やっぱり離れたのが間違いだったんだ、俺がちゃんとしていれば」
「気持ちは分かるが、まず話を決めてからだな……」
「いえ。ハインツ様には好きに動いてもらいましょう」
ラウロがオレの説得を無に帰すような発言をした。オレは澄まし顔の従者を呆れて見ていたが、気付く。
「囮にするつもりか?」
ラウロは肯定も否定もせず答えた。
「ハインツ様は魔法が使えませんが、体が丈夫で力が強く、更には話が通じません」
「さらっと酷いこと言ったな」
「注目を集めてもらい、その隙に侵入します」
侵入ね。良くない響きだ。全く言い訳のしようもない。
ハインツを囮にして侵入はいいが(良くないが)、オレは再び「待った」をかけた。現実的に考えて問題が多い。
「城に入るには兵士の案内が無いと無理だ。地下道の出入り口は特殊な魔法がかかってる、オレたちだけじゃ入れない。地上を行くにしても吹雪が酷いし、まず道が分からないだろ。どうするんだよ」
「いくらでもやりようはある。行くぞ」
「はい」
主従が阿吽の呼吸で空き家を出て行った。二人ともオレの話聞いてないだろ。慎重に動くってことを知らないのか。まあ、いざとなったらユリスの王子的な権力で何とかしてもらおう……。オレは大きめの不安を抱えながらユリスたちについて行った。
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地下道を通る為には兵士の協力が必須だが、王子にバレないように城へ侵入しなければならない。さてどうするか。答えは、
「大きい声!」
シルフィの手にした本からキーンと金切り声が響く。兵士がざわつきながら詰め所らしき建物から出て来た。もうちょい派手にするか。オレは口元に手を添えて叫ぶ。
「ま、魔物がいるー! 大変!」
「何!?」
兵士がオレたちに注目して走り寄って来た。
「魔物がいたって本当か!?」
慌てた様子の兵士にラウロが丁寧に嘘の説明をする。深刻そうな表情も忘れずに。
「はい。向こうも私たちを見て驚いたのか、走って逃げて行ってしまいました。まだ街の中にいるかもしれません」
「そうか、分かった。探してみる。あんたたちは大丈夫か?」
オレは目に涙を浮かべて兵士を見上げた。
「こ、怖かったぁ~……あたし、死んじゃうかと思った……」
「そうか……可哀想に。本当に申し訳ない」
兵士は同情するような目つきをした。もう一押し、抱き着くか? と考えていると、
「僕も怖かった。まだ死にたくないよ」
シルフィが手をぎゅっと握りしめ声を震わせた。なんて呑み込みの早い奴! 兵士は哀れな少年少女を見て言葉を失くしていた。そこへ別の兵士が現れる。
「あれ、貴方たちは確か王子の客人の……? こんなところで何を?」
「魔物を見かけたらしい。とても怯えている。この辺りの魔物は特に凶暴だからな、無理もない」
「不運だったね。そうだ、城へ連れて行くのはどうだ? 王子の客人であれば快く入れてくださるはずだ」
「そうしよう。城なら安全だ」
兵士二人の会話を聞きながらオレはくすんくすんと鼻を啜っていた。よし。これで地下道を通れる。
一人は去って行き、残った兵士はオレたちに向かって言った。
「皆さん、また魔物が出ては危険ですから城へ案内します」
「ありがとうございます。日も暮れて困っていたものですから、助かります」
ラウロが丁寧に礼を言った。兵士について地下道を歩く。狭くて暗い道を進み、突き当たりの階段を上がる。先頭の兵士が天井に手を当てた。
「開け」
と呟く声が聞こえ、天井が音もなく持ち上がる。魔法なのは分かるが仕組みがさっぱり分からない。開いた天井から雪の地面が見える。地上だ。
「上はすぐ城ですか? 私たちは本当に中に入れてもらえるのでしょうか……」
不安げなラウロの声に兵士は振り返った。
「城門の前に出ます。城の人たちには俺がきちんと事情を話すので、心配はいりませんよ」
「そうか。助かる」
ユリスが労うように兵士の肩に手を置いた。兵士は首を振り「いえいえ」と言いかけてドサッと倒れる。その体を傍らに寄せると、ユリスはさっさと地上へ上がって行ってしまった。ラウロも続く。ここまで一瞬の出来事だ。
「うわ、すげえ、しっかり気絶してる」
倒れた兵士をつついてみるも無反応だ。魔法怖いな。ってかユリスが怖い。あの性格でこの魔法の腕前って、敵に回したくねえ。仲間とも言いきれないが。
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