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白銀の北国

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「ここからは地下を行きます」
 王子はそう言うと、壁際に設えられている小屋に入った。小屋の中には地下へ続く階段がある。地下鉄みたいだ。
「他の街や城への移動、そして食料品などの荷運びにも地下道を使っています」
 地下道は広々としていた。明かりがあり、七、八人が横並びで歩けるくらい道幅がある。天井や壁、地面は透明なガラスのようなものが張られていて、むき出しの土が見えるものの崩れないよう空間がしっかり固定されていた。駅のように出口が枝分かれしているのも見える。
「この地下道も昔はあまり使われていなかったようですが、近頃は吹雪が酷いのでここを行き来するしかありません。便利に見えますが、昼頃には混み合ってよく渋滞するので困ります」
 広くても生活を補うには足りないということか。今は時間も遅いのか人通りは無くしんとしている。固い地面を叩く私たちの足音だけが響いていた。
 しばらく歩いて地上に出た。イゼク王子が雪の積もる地面を掘って蓋を開ける。蓋の下はまた別の地下道だ。今度は城の中へ直通の、王家の者しか通れない地下道だという。道幅はぎりぎり二人分と、とても狭い。
 再び地下道中の話題はディキタニアについてだ。雪に覆われたこの国では、魔力に頼らなければ生きていけないと王子は言った。
「この環境ですから、食物を生産するのにもただ息をするのにも魔力を多く使います。もう限界は近いです。どの国よりも早く滅びることでしょう」
 王子は金色の目を私に向けた。
「貴方たちがこの国へ来てくれて感謝しています。精霊が目覚めて魔力が戻れば、ぼくたちにも希望が生まれます」
 安堵した声色に私の胸は詰まった。王子も、国の人たちも少しでも早く安心させてあげたい。私は強い意思と共に王子に頷いてみせた。
 辿り着いた階段を上がっていくと、室内に出た。
「城へようこそ。寒い中お疲れさまでした」
 城の中は外よりは暖かいがそれでも寒い。密かに手を温めているとイゼク王子が言った。
「今から精霊のところへ向かいますか? それとも先に休まれますか?」
「すぐに案内しろ。終われば国も出ていく」
「そうですか……。ぼくとしては他国の方のお話も聞きたいと思ったのですが、厳しいですか?」
「何故我々の話が聞きたい?」
 ユリスが問う。私としては少しゆっくりしていきたいところだ。雪道を歩いて疲れたし、何よりイゼク王子の願いなら叶えてあげたい気持ちがあった。こんなに真面目で良い子なんだし。
「ぼくは外の国を見ることはあっても、住む方と直接話をすることはありません。皆さんの普通の話でもぼくには興味深いんです」
 私はユリスを見上げた。少しくらい、いいんじゃない? もうそんなに急ぐこともないんじゃない? 目で訴えるもユリスは全く私の方を見なかった。ちくしょう。
「ぼくは特に、シルフィさんと話をしてみたいと思っていまして」
「僕と? どうして?」
 二人の少年が向かい合う。私得な光景だった。イゼク王子は少し調子を崩して、恥ずかしそうに言った。
「王子としてではなく、その、歳が近い者同士で交流を深めたいなあ、と少し子供じみた望みなんですけど……」
 シルフィは驚いた様子で王子を見ている。照れるイゼク王子の可愛さよ。王子を可愛いとか言ったら不敬かな。二人とも抱きしめて家に連れて帰りたい。養えるくらいの財力が欲しい。私に甲斐性と財力と権力があれば。くそお。
 シルフィは返事に困ったらしく目を泳がせている。イゼク王子はバツが悪そうに俯いた。ふむ。ここは大人の出番である。
「シルフィ!」
 私は思わずシルフィの肩を叩いていた。衝動がちょっとだけ腕力になって出た。
「な、何。どうしたのエコ」
「私は二人とも仲良くなれると思います!! 私が保証します! 二人ともすごくいい子だし」
 私の子にしたいです! さすがにそれは言わずに抑えた。シルフィは戸惑った顔で私を見上げている。私は安心させようとぐっと親指を立てた。
「シルフィなら大丈夫!」
「うん……」
「シルフィさん、後でお時間があればで良いですよ。無理強いはしたくありません」
 なんて健気な! 私はすっかり王子の虜になっていた。感動のあまり口元を抑えてしまう。王子はとどめとばかりに私に笑みを向けた。
「ぼくはエコさんともお話がしたいです」
「私ともですか!? もちろんです! 何でも話します! 可愛い!」
「えー? あたしよりも可愛いわけー?」
 ミケの声がして振り返ると、首に手を回して抱き着いてきた。驚いていると「おい、ちょっと落ち着け」と耳打ちされる。一気に頭が冷えた。
「ご、ごめん……」
「ひどーい! あたし妬いちゃうかも」
「女性同士仲が良いんですね。羨ましいです」
「エコはあげないからね」
 ミケはツンと言って腕に力を込めた。肩が痛い。痛いです。もう落ち着いたので離して欲しい。イゼク王子が微笑ましそうに見ているので少し気まずかった。
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