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影の王様
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船は少しずつスピードを上げて、沖の方を漂っていた。王様から距離を取った後はあちこちの島で情報を集めるということになったのだが。
「どうしたのシルフィ」
シルフィがじっと同じ方を見ているので気になった。私が声をかけても、目をそらさないままで言う。
「何か来てる」
「え。まさか魔物!?」
「違う……と思う」
傾きかけた太陽、眩しく日を照り返す水平線。私が目を凝らしても何も見えなかった。シルフィは目が良いんだっけ。私は少し迷ったものの、ラウロに声をかけた。
「ごめんラウロ、あのさ」ラウロは私に顔を向けた。安堵して続きを言う。「シルフィが、あっちから何か来てるって言ってるんだけど、分かる?」
「いえ、何も」
とラウロは不自然に言葉を切った。険しい顔で海を見つめている。私も一緒になって見ていると、少しずつ黒い影が捉えられるようになってくる。一体何なのか。
「何? 魔物じゃないの?」
「……エコ様」
ラウロはすっと退いて、足元のハッチを開けた。この下には船の動力である、魔力を溜めた魔法石がある。私は察して言った。
「魔力が欲しいの?」
「はい。お願いします。シルフィ様と下にいてください。私はここにいますから……」
「ラウロ! 船の速度を上げられるか!」
ユリスの声だった。隣にはシルフィがいる。
「あまり無理は出来ません! 大きいですから、速度を上げると船が壊れます」
ラウロが答える中、私は状況が理解出来ずにおろおろしていた。
「何、どういうこと?」
「エコ様は下に。急いでください」
「分かったけど、一体何が……」
その時シルフィが駆け寄ってきて、ラウロは再び「お二人はこの下にある魔法石に魔力を補充してください」と言った。シルフィは頷いて、狭い階段を下りていく。シルフィも事態を理解しているのに、私は何も分かっていない。不安になってラウロの顔を見ると、彼は深刻な声色で、
「いいですか。例え何があっても、絶対に出てこないでください。私かユリス様が良いと言うまでは、絶対に」
念を押すように言った。何かは分からないが危険が迫っているらしい。私は怖くなって問いかけてしまう。
「みんなは大丈夫、なんだよね?」
「我々は自分の身くらいは守れます。貴方は何も気にせずに、シルフィ様と一緒にいてください。そうすれば何事もなく終わりますから」
ラウロの真剣な訴えに、頷くしかなかった。私が心配しなくてもユリスもラウロも強い。私は足を引っ張らないように大人しくしているのが一番だ。
「分かった。気を付けてね」
「はい」
その返事を背に私は階段を下りた。シルフィの手を借りて、魔法石に魔力を入れていく。
少しして、船が大きく揺れた。私とシルフィは壁に手を突く。途端、ぞわっと寒気のようなものが背筋を這った。
「な、何今のは」
「どうしたの?」
「背中がぞわっとした……」
シルフィはよく分からないようで考え込んでいる。感じたのは私だけのようだ。
上が騒がしい。どたばたと、派手な物音だ。何かが起こっている。不安に襲われる私の手を、シルフィが握った。
「エコ、大丈夫だよ」
「うん。分かってる。分かってる、けど」
何が起きているのか分からない。怖い。シルフィの手を握り返しながらも、気持ちは落ち着かなかった。
「そこにいるんだろう」
はっきりと低い声が聞こえた。私は咄嗟に息を止める。心臓が止まった気分だった。
「いたらどうするんです」
ラウロの声だ。ちょうどハッチの上で会話をしているらしい。低い声が答えた。
「連れ帰る」
「貴方たちが欲しいのは盗人でしょう? ここにはいませんよ」
「まだ分からんか。女を出せ。あんな男はどうでもいい……言い逃れは出来んぞ。魔法で船内は全て見たからな」
さっきのぞわっとしたのは魔法だったのか。狙いは私。王様からの追手だろうか。この体質が王様にばれたのか、或いは単に私に腹を立てたのかもしれない。手を叩いたし、逃げてきちゃったし。とにかく今は大人しく、見つからないようにしないと……。
「何故そう執着するんですか。ここまで追いかけてくる意味が分かりません」
「俺がその問いに答えられるとでも? いいから早く女を出せ。あの男と同じ目に遭う前に」
あの男? 誰のことだろう。私の頭に浮かんだのはユリスだった。すぐに手が出るユリスが、この状況で何もせず見ているだけとは思いにくい。何もしないのではなく、何も出来ない状態になっているのではないか。嫌な想像が沸き上がる。
「どうしたのシルフィ」
シルフィがじっと同じ方を見ているので気になった。私が声をかけても、目をそらさないままで言う。
「何か来てる」
「え。まさか魔物!?」
「違う……と思う」
傾きかけた太陽、眩しく日を照り返す水平線。私が目を凝らしても何も見えなかった。シルフィは目が良いんだっけ。私は少し迷ったものの、ラウロに声をかけた。
「ごめんラウロ、あのさ」ラウロは私に顔を向けた。安堵して続きを言う。「シルフィが、あっちから何か来てるって言ってるんだけど、分かる?」
「いえ、何も」
とラウロは不自然に言葉を切った。険しい顔で海を見つめている。私も一緒になって見ていると、少しずつ黒い影が捉えられるようになってくる。一体何なのか。
「何? 魔物じゃないの?」
「……エコ様」
ラウロはすっと退いて、足元のハッチを開けた。この下には船の動力である、魔力を溜めた魔法石がある。私は察して言った。
「魔力が欲しいの?」
「はい。お願いします。シルフィ様と下にいてください。私はここにいますから……」
「ラウロ! 船の速度を上げられるか!」
ユリスの声だった。隣にはシルフィがいる。
「あまり無理は出来ません! 大きいですから、速度を上げると船が壊れます」
ラウロが答える中、私は状況が理解出来ずにおろおろしていた。
「何、どういうこと?」
「エコ様は下に。急いでください」
「分かったけど、一体何が……」
その時シルフィが駆け寄ってきて、ラウロは再び「お二人はこの下にある魔法石に魔力を補充してください」と言った。シルフィは頷いて、狭い階段を下りていく。シルフィも事態を理解しているのに、私は何も分かっていない。不安になってラウロの顔を見ると、彼は深刻な声色で、
「いいですか。例え何があっても、絶対に出てこないでください。私かユリス様が良いと言うまでは、絶対に」
念を押すように言った。何かは分からないが危険が迫っているらしい。私は怖くなって問いかけてしまう。
「みんなは大丈夫、なんだよね?」
「我々は自分の身くらいは守れます。貴方は何も気にせずに、シルフィ様と一緒にいてください。そうすれば何事もなく終わりますから」
ラウロの真剣な訴えに、頷くしかなかった。私が心配しなくてもユリスもラウロも強い。私は足を引っ張らないように大人しくしているのが一番だ。
「分かった。気を付けてね」
「はい」
その返事を背に私は階段を下りた。シルフィの手を借りて、魔法石に魔力を入れていく。
少しして、船が大きく揺れた。私とシルフィは壁に手を突く。途端、ぞわっと寒気のようなものが背筋を這った。
「な、何今のは」
「どうしたの?」
「背中がぞわっとした……」
シルフィはよく分からないようで考え込んでいる。感じたのは私だけのようだ。
上が騒がしい。どたばたと、派手な物音だ。何かが起こっている。不安に襲われる私の手を、シルフィが握った。
「エコ、大丈夫だよ」
「うん。分かってる。分かってる、けど」
何が起きているのか分からない。怖い。シルフィの手を握り返しながらも、気持ちは落ち着かなかった。
「そこにいるんだろう」
はっきりと低い声が聞こえた。私は咄嗟に息を止める。心臓が止まった気分だった。
「いたらどうするんです」
ラウロの声だ。ちょうどハッチの上で会話をしているらしい。低い声が答えた。
「連れ帰る」
「貴方たちが欲しいのは盗人でしょう? ここにはいませんよ」
「まだ分からんか。女を出せ。あんな男はどうでもいい……言い逃れは出来んぞ。魔法で船内は全て見たからな」
さっきのぞわっとしたのは魔法だったのか。狙いは私。王様からの追手だろうか。この体質が王様にばれたのか、或いは単に私に腹を立てたのかもしれない。手を叩いたし、逃げてきちゃったし。とにかく今は大人しく、見つからないようにしないと……。
「何故そう執着するんですか。ここまで追いかけてくる意味が分かりません」
「俺がその問いに答えられるとでも? いいから早く女を出せ。あの男と同じ目に遭う前に」
あの男? 誰のことだろう。私の頭に浮かんだのはユリスだった。すぐに手が出るユリスが、この状況で何もせず見ているだけとは思いにくい。何もしないのではなく、何も出来ない状態になっているのではないか。嫌な想像が沸き上がる。
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