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船上

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 夜中に目が覚めた。みんなの寝息が聞こえる。私はみんなの顔を見て、ここにラウロがいないことに気付いた。
 見張りかな。昼間あんなに大変だったのに。
 私は寝室を出て、甲板に続く扉を開けた。夜風が吹き込んできて一気に体が冷えた。慌てて扉を閉める。
「ユリス様でしたらお休みですよ」
 すぐに声がした。
「……知ってるよ」
 ラウロは私に背を向けている。私は近付いて、その背に問いかけた。
「まだ怒ってる?」
「怒っていますよ。ユリス様も大変お怒りでした」
 でしょうね。随分と時間が経ったのにまだ怒っているということは、私がしたことはラウロたちにとって相当良くないことだったのだろう。
「そっか。でも私、自分の考えを曲げる気はないよ」
「この世界で生きていくつもりなら、馴染んだ方が宜しいかと」
「絶対に嫌」
 即答すると、ラウロは振り向いた。真面目な顔をしている。
「言うと思いました。貴方はそういう人ですよね」
「ずっと向こうの世界で生きて来たんだから、そう簡単に考えは変えられないよ」
「でしたら、やはり元の世界に帰った方が良いでしょうね。今すぐというわけにもいきませんが」
 やっぱりそうなんだ。ラウロはそう言うと思った。私は胸がちくちく痛んだ。ラウロは、私がいなくなっても寂しくないのかな、なんていらないことを考えた。
「そんな顔をしないでください。今夜は月が明るいですから、嫌なくらいによく見えますよ」
 私は空を見た。細い月が光っている。ラウロが言うほど、私には明るく感じられなかった。
「部屋にお戻りください。体が冷えますよ」
 私はラウロの言うことを無視して、近付くと軽く腕をつねった。反応を窺う。
「怒っていいよ。痛いでしょ」
「いいえ。怒りません」
 今度は平手で軽く体を叩いた。
「怒っていいよ」
「怒りません」
 それなら、と私は拳を作って構えた。
「じゃあ殴る」
「いいですよ。構いません」
 ラウロは少し腕を広げて、避けるそぶりも無かった。私は拳を下ろす。
「怒って。嫌がってよ。ラウロは嫌でしょ? 何もしてないのに叩かれたりするのは」
「いいえ。私は殴られようが刺されようが全く構いませんよ」
「何で?」
「何でと言われましても、そういうものですから」
 冗談にも嘘にも聞こえなかった。私は駄々をこねる子供のようにラウロの顔を見上げる。表情は変わらない。思えば、出会ったばかりの頃からラウロはこんな風だった。自分の体が、まるで自分の体じゃないみたいに振る舞っていた。
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