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南国の道のり

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 はっ。今一瞬、眠ってしまったみたいだ。瞼を持ち上げると、目の前にシルフィの顔があった。
「うぇ!?」
「あ、起きたー」
「あれ、え、あれ!?」
 ユリスは!? というか何故シルフィが!?
 私は一瞬どころか長く眠っていたらしい。体は自由になっていて、隣にはシルフィがいる。添い寝してくれてた? 一緒に? くそぉ! 何で寝てたんだ私は!? てそうじゃないそうじゃない。私が混乱していると、シルフィはにこにこ笑いながら言った。
「エコ寝ながら喋ってたよ」
「え! な、何言ってた?」
「僕の名前呼んでた」
「そうなんだ~……」
 名前呼んでただけだよね、変なことは言ってないよね? 不安に襲われていると、
「変なことは言ってないから安心しろ」
 ミケが横から補足してくれた。私は安堵する。
 どれくらい時間が経ったんだろうか。シルフィがいて、ミケは隣のベッドでごろごろしていて、ユリスは窓の外を見つめている。外は暗い。もう夜なのか。
「じゃあ、私、戻りますね」
 ちらとユリスの方を見るも、向こうはこっちを見向きもしない。体調が良くなったなら良いんですがちょっとくらい何か無いんですかね! いいんですけどね!
 私は三人に頭を下げつつ自分の部屋へ戻った。ラウロが微妙な顔で私を出迎えてくれた。ハインツと二人きりで気まずかったのかもしれない。
 食事を済ませ、後片付けを終えたラウロが言った。
「既に聞いたかもしれませんが、明日には船が完成するそうですよ」
「本当! 良かったー! 楽しみだね」
 どんな船なんだろう。私が期待に胸を膨らませていると、ラウロは小さく頷いた。
「そうですね。出立は明後日になりそうです。しばらくは船で生活することになりますから、何か欲しい物があれば仰ってください」
「うん、分かった」
 と言っても特にないんだけど。私は全く眠気もないのにベッドに横になった。
「眠れそうですか?」
 ラウロが苦笑しながら言った。私は曖昧に答える。
「まあ、何とかします」
「今まで眠っていたんでしょう? 私が話し相手になりましょうか」
「大丈夫。ラウロは休んでよ。その方が私も休まるから」
 ハインツも部屋の隅から気遣わし気な視線を寄越してくる。私は頷いて、二人に「大丈夫」と繰り返した。

 いざ二人が寝静まってしまうと、あまり大丈夫ではなかった。目を閉じても嫌なことばかり考えてしまう。ユリスの腕の中にいた時はあんなにすんなり眠れたのに、と、意味の無いことを考えながら一晩過ごした。


**


 次の日。完成するという船を見に、シルフィと共に来ていた。倉庫の前でダリアさんが伸びをしているのが見えて声をかける。
「ダリアさん! おはようございます!」
「ん! お、おお、驚いた……」
 ダリアさんは体を変に仰け反らせた後、腰を曲げて、変な格好で私たちを順番に見た。
「船が完成するって聞いたので見に来たんです」
「そうか。こっちだ」
 ダリアさんに案内されて倉庫の中に足を踏み入れる。大きな船がそこにあった。漫画やアニメで見るような、木でできた帆船だった。
「わー! すごーい!」
 シルフィがはしゃいでいる。私は思わず言葉を失っていた。迫力に気圧されている。これが水の上に浮くなんて信じられない。
「す、すごいですね」
「部屋もあるから寝泊まりも出来るぞ」
「この中で寝るの!? 家みたい!」
 シルフィは船に近付いてうろうろしている。すると、親父さんが裏の方から顔を出して「小僧、ちょっと手伝え」とシルフィを手招きした。シルフィが頷いて駆けていくのを私は目で追った。
「明日には行くのか」
 ダリアさんが改まって言った。私は「はい」と返事をしてダリアさんを見上げる。彼は船をじっと見つめていた。
「寂しくなるな」
「私たちうるさかったですからね……色々お世話になりました」
 今思うと、手伝うつもりが却って邪魔ばかりしていた気がする。私は苦笑するしかない。しかしダリアさんは愉快そうに声を上げて笑った。
「ははは! いやあ賑やかで良かったよ。島の外からの客なんて本当に久々だったしな。……王様に会いに行くんだろ?」
「はい。色々と、用事があるので」
 ダリアさんはそうか、と頭を掻いた。そしてちらっと私を横目に見る。
「気を付けろよ。うちの国の王様は女好きで有名だからな」
「そうなんですか。へえ」
 情報ゲット。と思ったものの、これくらいの情報ならユリスたちは既に掴んでいそうだ。
「あんた、どうも危機感が薄いよな。警戒心が無いというか」
 ダリアさんが顎を擦りながら言った。私は既に何度も聞いた台詞である。やはり私はのんびりぼんやりして見えるらしい。実際そうなんだけど。
「よ、よく言われます」
「そうか。ちゃんと守ってもらえよ」
「守ってもらってばかりですよ。申し訳ないことに……」
 もっとしっかりしたいです、と希望を込めて言うと、ダリアさんは困ったように笑って「そうか」と頷いた。
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