142 / 252
南国の道のり
140
しおりを挟む
はっ。今一瞬、眠ってしまったみたいだ。瞼を持ち上げると、目の前にシルフィの顔があった。
「うぇ!?」
「あ、起きたー」
「あれ、え、あれ!?」
ユリスは!? というか何故シルフィが!?
私は一瞬どころか長く眠っていたらしい。体は自由になっていて、隣にはシルフィがいる。添い寝してくれてた? 一緒に? くそぉ! 何で寝てたんだ私は!? てそうじゃないそうじゃない。私が混乱していると、シルフィはにこにこ笑いながら言った。
「エコ寝ながら喋ってたよ」
「え! な、何言ってた?」
「僕の名前呼んでた」
「そうなんだ~……」
名前呼んでただけだよね、変なことは言ってないよね? 不安に襲われていると、
「変なことは言ってないから安心しろ」
ミケが横から補足してくれた。私は安堵する。
どれくらい時間が経ったんだろうか。シルフィがいて、ミケは隣のベッドでごろごろしていて、ユリスは窓の外を見つめている。外は暗い。もう夜なのか。
「じゃあ、私、戻りますね」
ちらとユリスの方を見るも、向こうはこっちを見向きもしない。体調が良くなったなら良いんですがちょっとくらい何か無いんですかね! いいんですけどね!
私は三人に頭を下げつつ自分の部屋へ戻った。ラウロが微妙な顔で私を出迎えてくれた。ハインツと二人きりで気まずかったのかもしれない。
食事を済ませ、後片付けを終えたラウロが言った。
「既に聞いたかもしれませんが、明日には船が完成するそうですよ」
「本当! 良かったー! 楽しみだね」
どんな船なんだろう。私が期待に胸を膨らませていると、ラウロは小さく頷いた。
「そうですね。出立は明後日になりそうです。しばらくは船で生活することになりますから、何か欲しい物があれば仰ってください」
「うん、分かった」
と言っても特にないんだけど。私は全く眠気もないのにベッドに横になった。
「眠れそうですか?」
ラウロが苦笑しながら言った。私は曖昧に答える。
「まあ、何とかします」
「今まで眠っていたんでしょう? 私が話し相手になりましょうか」
「大丈夫。ラウロは休んでよ。その方が私も休まるから」
ハインツも部屋の隅から気遣わし気な視線を寄越してくる。私は頷いて、二人に「大丈夫」と繰り返した。
いざ二人が寝静まってしまうと、あまり大丈夫ではなかった。目を閉じても嫌なことばかり考えてしまう。ユリスの腕の中にいた時はあんなにすんなり眠れたのに、と、意味の無いことを考えながら一晩過ごした。
**
次の日。完成するという船を見に、シルフィと共に来ていた。倉庫の前でダリアさんが伸びをしているのが見えて声をかける。
「ダリアさん! おはようございます!」
「ん! お、おお、驚いた……」
ダリアさんは体を変に仰け反らせた後、腰を曲げて、変な格好で私たちを順番に見た。
「船が完成するって聞いたので見に来たんです」
「そうか。こっちだ」
ダリアさんに案内されて倉庫の中に足を踏み入れる。大きな船がそこにあった。漫画やアニメで見るような、木でできた帆船だった。
「わー! すごーい!」
シルフィがはしゃいでいる。私は思わず言葉を失っていた。迫力に気圧されている。これが水の上に浮くなんて信じられない。
「す、すごいですね」
「部屋もあるから寝泊まりも出来るぞ」
「この中で寝るの!? 家みたい!」
シルフィは船に近付いてうろうろしている。すると、親父さんが裏の方から顔を出して「小僧、ちょっと手伝え」とシルフィを手招きした。シルフィが頷いて駆けていくのを私は目で追った。
「明日には行くのか」
ダリアさんが改まって言った。私は「はい」と返事をしてダリアさんを見上げる。彼は船をじっと見つめていた。
「寂しくなるな」
「私たちうるさかったですからね……色々お世話になりました」
今思うと、手伝うつもりが却って邪魔ばかりしていた気がする。私は苦笑するしかない。しかしダリアさんは愉快そうに声を上げて笑った。
「ははは! いやあ賑やかで良かったよ。島の外からの客なんて本当に久々だったしな。……王様に会いに行くんだろ?」
「はい。色々と、用事があるので」
ダリアさんはそうか、と頭を掻いた。そしてちらっと私を横目に見る。
「気を付けろよ。うちの国の王様は女好きで有名だからな」
「そうなんですか。へえ」
情報ゲット。と思ったものの、これくらいの情報ならユリスたちは既に掴んでいそうだ。
「あんた、どうも危機感が薄いよな。警戒心が無いというか」
ダリアさんが顎を擦りながら言った。私は既に何度も聞いた台詞である。やはり私はのんびりぼんやりして見えるらしい。実際そうなんだけど。
「よ、よく言われます」
「そうか。ちゃんと守ってもらえよ」
「守ってもらってばかりですよ。申し訳ないことに……」
もっとしっかりしたいです、と希望を込めて言うと、ダリアさんは困ったように笑って「そうか」と頷いた。
「うぇ!?」
「あ、起きたー」
「あれ、え、あれ!?」
ユリスは!? というか何故シルフィが!?
私は一瞬どころか長く眠っていたらしい。体は自由になっていて、隣にはシルフィがいる。添い寝してくれてた? 一緒に? くそぉ! 何で寝てたんだ私は!? てそうじゃないそうじゃない。私が混乱していると、シルフィはにこにこ笑いながら言った。
「エコ寝ながら喋ってたよ」
「え! な、何言ってた?」
「僕の名前呼んでた」
「そうなんだ~……」
名前呼んでただけだよね、変なことは言ってないよね? 不安に襲われていると、
「変なことは言ってないから安心しろ」
ミケが横から補足してくれた。私は安堵する。
どれくらい時間が経ったんだろうか。シルフィがいて、ミケは隣のベッドでごろごろしていて、ユリスは窓の外を見つめている。外は暗い。もう夜なのか。
「じゃあ、私、戻りますね」
ちらとユリスの方を見るも、向こうはこっちを見向きもしない。体調が良くなったなら良いんですがちょっとくらい何か無いんですかね! いいんですけどね!
私は三人に頭を下げつつ自分の部屋へ戻った。ラウロが微妙な顔で私を出迎えてくれた。ハインツと二人きりで気まずかったのかもしれない。
食事を済ませ、後片付けを終えたラウロが言った。
「既に聞いたかもしれませんが、明日には船が完成するそうですよ」
「本当! 良かったー! 楽しみだね」
どんな船なんだろう。私が期待に胸を膨らませていると、ラウロは小さく頷いた。
「そうですね。出立は明後日になりそうです。しばらくは船で生活することになりますから、何か欲しい物があれば仰ってください」
「うん、分かった」
と言っても特にないんだけど。私は全く眠気もないのにベッドに横になった。
「眠れそうですか?」
ラウロが苦笑しながら言った。私は曖昧に答える。
「まあ、何とかします」
「今まで眠っていたんでしょう? 私が話し相手になりましょうか」
「大丈夫。ラウロは休んでよ。その方が私も休まるから」
ハインツも部屋の隅から気遣わし気な視線を寄越してくる。私は頷いて、二人に「大丈夫」と繰り返した。
いざ二人が寝静まってしまうと、あまり大丈夫ではなかった。目を閉じても嫌なことばかり考えてしまう。ユリスの腕の中にいた時はあんなにすんなり眠れたのに、と、意味の無いことを考えながら一晩過ごした。
**
次の日。完成するという船を見に、シルフィと共に来ていた。倉庫の前でダリアさんが伸びをしているのが見えて声をかける。
「ダリアさん! おはようございます!」
「ん! お、おお、驚いた……」
ダリアさんは体を変に仰け反らせた後、腰を曲げて、変な格好で私たちを順番に見た。
「船が完成するって聞いたので見に来たんです」
「そうか。こっちだ」
ダリアさんに案内されて倉庫の中に足を踏み入れる。大きな船がそこにあった。漫画やアニメで見るような、木でできた帆船だった。
「わー! すごーい!」
シルフィがはしゃいでいる。私は思わず言葉を失っていた。迫力に気圧されている。これが水の上に浮くなんて信じられない。
「す、すごいですね」
「部屋もあるから寝泊まりも出来るぞ」
「この中で寝るの!? 家みたい!」
シルフィは船に近付いてうろうろしている。すると、親父さんが裏の方から顔を出して「小僧、ちょっと手伝え」とシルフィを手招きした。シルフィが頷いて駆けていくのを私は目で追った。
「明日には行くのか」
ダリアさんが改まって言った。私は「はい」と返事をしてダリアさんを見上げる。彼は船をじっと見つめていた。
「寂しくなるな」
「私たちうるさかったですからね……色々お世話になりました」
今思うと、手伝うつもりが却って邪魔ばかりしていた気がする。私は苦笑するしかない。しかしダリアさんは愉快そうに声を上げて笑った。
「ははは! いやあ賑やかで良かったよ。島の外からの客なんて本当に久々だったしな。……王様に会いに行くんだろ?」
「はい。色々と、用事があるので」
ダリアさんはそうか、と頭を掻いた。そしてちらっと私を横目に見る。
「気を付けろよ。うちの国の王様は女好きで有名だからな」
「そうなんですか。へえ」
情報ゲット。と思ったものの、これくらいの情報ならユリスたちは既に掴んでいそうだ。
「あんた、どうも危機感が薄いよな。警戒心が無いというか」
ダリアさんが顎を擦りながら言った。私は既に何度も聞いた台詞である。やはり私はのんびりぼんやりして見えるらしい。実際そうなんだけど。
「よ、よく言われます」
「そうか。ちゃんと守ってもらえよ」
「守ってもらってばかりですよ。申し訳ないことに……」
もっとしっかりしたいです、と希望を込めて言うと、ダリアさんは困ったように笑って「そうか」と頷いた。
0
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます
今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。
アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて……
表紙 チルヲさん
出てくる料理は架空のものです
造語もあります11/9
参考にしている本
中世ヨーロッパの農村の生活
中世ヨーロッパを生きる
中世ヨーロッパの都市の生活
中世ヨーロッパの暮らし
中世ヨーロッパのレシピ
wikipediaなど
転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜
望月かれん
ファンタジー
中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。
戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。
暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。
疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。
なんと、ぬいぐるみが喋っていた。
しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。
天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。
※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。
刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。
木山楽斗
ファンタジー
宿屋で働くフェリナは、ある日森で卵を見つけた。
その卵からかえったのは、彼女が見たことがない生物だった。その生物は、生まれて初めて見たフェリナのことを母親だと思ったらしく、彼女にとても懐いていた。
本物の母親も見当たらず、見捨てることも忍びないことから、フェリナは謎の生物を育てることにした。
リルフと名付けられた生物と、フェリナはしばらく平和な日常を過ごしていた。
しかし、ある日彼女達の元に国王から通達があった。
なんでも、リルフは竜という生物であり、国を繁栄にも破滅にも導く特別な存在であるようだ。
竜がどちらの道を辿るかは、その母親にかかっているらしい。知らない内に、フェリナは国の運命を握っていたのだ。
※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。
※2021/09/03 改題しました。(旧題:刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。)
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる