上 下
139 / 252
南国の道のり

137

しおりを挟む
「ハインツは今何してるの?」
「今は、えっと、体を解してる? ところ。あの、何て言うか、体を伸ばして、楽にするっていうか」
「そっか」
 ストレッチかな。今日働いたみたいだし、筋肉も解さないと痛くなるのかも。ってそうじゃない。行動はまともだけど格好がまともじゃない。
 ハインツは少しして隣のベッドに入ったようだった。私は彼のいる方に背を向け、この事態をどうしようか頭を抱えた。
 ベッドにいるなら布団を被ってしまえば問題ない。ないかな、いいのかな。分からない。この世界では裸でいるのも普通だったりするのだろうか。常識が分からない。
「エコさん、な、何か、悩みとか、あるの?」
「え? あるけど」
 私が頭を抱えてうんうん唸っていたからか、ハインツは気になったようだった。私の今の悩みはハインツが全裸ということだけだ。さっき思い切り視界に入って来た逞しい背中だの太ももだのはもう、忘れたくともそうそう忘れられないのである。ハインツは私の心境などまるで知らないので、心配そうな声色で言った。
「お、俺で良ければ、話とか聞くよ」
「うん……ありがとう。でも今はハインツのことが悩みっていうか」
「え、そっ、そうなの、俺の?」
 ぎい、と私のベッドが軋む。ハインツがこちらに身を乗り出したらしい。すぐに振り返ろうとして、駄目だったと思い直す。私は自分の目を隠しつつ背後のハインツを手で制した。
「待って待って! 待って、一旦待って!」
「うん、ま、待つ」
 どうする。せめて下だけでも穿いてくれればいいものを、って、ひらめいた! 私が下のズボンを脱いで渡せばいいんだ! いつものジャージならサイズ的に無理だけど、今穿いているのはダリアさんの借り物である。ハインツでも穿けるはずだ。
 しかし。そうすると私は下着一枚になってしまう。どうする、私。そこまでしなくてもただ布団を被っていてもらえば……とはいえハインツが大人しくするとも思えない。結局動き回ってしまう気がする。
「ラウロは帰ってこないし」彼がいればこの事態を何とかしてくれるだろうに。仕方ない、このままでは私の目のやり場がないのだ。
 私は意を決して、布団を腰に巻くとその中でズボンを脱いだ。恥ずかしかったらやめようと思ったけど大丈夫そうだ。しかし。
「ハインツ、あの、これを……」
 いざ脱いだズボンを渡そうとした途端、急にものすごく恥ずかしくなってきた。よく考えたら脱ぎたての服を人に渡すってどうなの!? 私はハインツに背を向けたまま、必死で後ろに手を伸ばした。ズボンを早く受け取って欲しい。
「え? えっと?」ハインツは困惑している。
「と、とにかく! 早く何とかして!」
 やっぱりやめとけば良かった! 全力で後悔しながらヤケクソでズボンを提示し続けた。どうなのこれ、私馬鹿みたいじゃない? もう馬鹿でいいや、いっそ馬鹿にして笑い飛ばしてください……。
 私が悲しみに打ちひしがれる中、ようやくハインツはズボンを受け取ってくれた。私の心情を察して気を使ってくれたのかな。ごめんね、本当に申し訳ない。私も人のことを言えないくらいに暴走してしまっている。ちゃんと説明すればハインツだって分かってくれたはずなのに、私が勝手に突っ走ってしまったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。 アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて…… 表紙 チルヲさん 出てくる料理は架空のものです 造語もあります11/9 参考にしている本 中世ヨーロッパの農村の生活 中世ヨーロッパを生きる 中世ヨーロッパの都市の生活 中世ヨーロッパの暮らし 中世ヨーロッパのレシピ wikipediaなど

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜

望月かれん
ファンタジー
 中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。 戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。 暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。  疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。 なんと、ぬいぐるみが喋っていた。 しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。     天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。  ※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。

刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。

木山楽斗
ファンタジー
宿屋で働くフェリナは、ある日森で卵を見つけた。 その卵からかえったのは、彼女が見たことがない生物だった。その生物は、生まれて初めて見たフェリナのことを母親だと思ったらしく、彼女にとても懐いていた。 本物の母親も見当たらず、見捨てることも忍びないことから、フェリナは謎の生物を育てることにした。 リルフと名付けられた生物と、フェリナはしばらく平和な日常を過ごしていた。 しかし、ある日彼女達の元に国王から通達があった。 なんでも、リルフは竜という生物であり、国を繁栄にも破滅にも導く特別な存在であるようだ。 竜がどちらの道を辿るかは、その母親にかかっているらしい。知らない内に、フェリナは国の運命を握っていたのだ。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。 ※2021/09/03 改題しました。(旧題:刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。)

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

処理中です...