上 下
127 / 252
南国の道のり

125

しおりを挟む
 私とシルフィはのんびりと砂浜まで歩く。
「何だか面白い話だったねえ」
「僕も欲しいな、セレン」
「いつか貰えるといいね」
 シルフィは足を止め、じっと私を見上げた。私も見返す。大きい目が海みたいにきらきらしてて可愛いぞ。
「エコは……」
「何?」
「やっぱり何でもない! ねえ、海って何でずっとうねうねしてるの?」
「波のこと? うーん。何で? 何でって……何で?」
 そういえば何でだろう。学生時代に勉強したような気がしないでもない。私がうんうん唸っているのでシルフィが先に歩き出した。私も付いて行く。
 倉庫をぐるっと回り込んで、砂浜に到着。シルフィは早速波打ち際に駆け寄るとしゃがんだ。すぐに声を上げる。
「うぇっ、しょっぱい! エコー! この水飲めない!」
「飲めないよ! 海の水はしょっぱいの」
「えーそうなの? 何で?」
「何で? ……何で……え、塩分が含まれてるから……? でも何で塩分が?」
 まずい。私、何も分かってない! シルフィはこの世界に来たばかりの私に色々教えてくれたというのに、私は海のことすら教えられない。な、情けない。
「海って変なんだね」
「そ、そうだね。本当、変なんだよね……ごめんシルフィ……」
 不出来な大人で申し訳ない。その後は海を眺めて、大きな波が立つ度にお互い教え合っていると、
「あの波大きいよ! ねっ、あっちの」
「エコ様」
「わっ! びっくりした!?」
 すっかり気が抜けていて後ろにラウロがいたのに気付かなかった。振り向くと、ラウロは困った顔をしていた。
「驚かせてすみません」
「いいよいいよ、私こそごめん。それでどうしたの? 何かあった?」
「実は少し相談がありまして。まず、精霊の居場所が分かりました」
「え、いいことじゃん!」
「ですが。少し特殊な場所にあるらしく海流が複雑で、普通の手段で行くのは難しいそうです」
 しかし。この国の王様は年に一回は精霊のところへ訪れて儀式をするのだという。その為、恐らく王様なら行く手段を知っている。
「じゃ、じゃあ結局またお城へ行かなきゃいけないと」
「そうなります。ここから大分離れた場所だそうです」
 気が遠くなってきた。ラウロも眉間に皴が寄っている。そう簡単にいかないとは思っていたけどやっぱり簡単じゃない。
「はは……ところで相談って? これが相談?」
「いいえ。相談はですね、買った船がとても小さいんです」
「あーそうなんだ」
 ダリアさんたちの使っている船を売ってもらったわけだから文句は言えない。
「数日間に及ぶ航行などは想定されていないらしく、城のある場所までこの船で行くのは不可能だそうです。そこで、二つ選択肢があります」
「悩みが多いね……」
「まだ未完成品だという船が完成するまで待つか、もしくは、今の小さな船で先へ進み、道中で大きな船を購入するか。どちらがいいと思いますか? ちなみにダリア様の話では、船を買う人は滅多にいない為、作る人間もほぼいないだろうということですが」
 ダリアさんは貴重な船大工らしい。
 未完成の船というのは、一週間ほど待って欲しいと言われた船のことだろう。完成まで一週間か、それ以上かかるかもしれないと。その間私たちは動けずひたすら待つことになる。
 そして道中で船を買うなら、時間は無駄にならないけど、代わりに船を買える確実な保証がない。そうなると。
「私はダリアさんから買った方がいいと思うけどな」
「ええ。ですが、道中で買う船の方が物が良いかもしれません。それに、ダリア様の船が本当に完成するかどうかも不明です。完成品が見えない以上、貴族相手だからと高価で貧相な物を売りつけられる可能性もあります」
「そ、それは無いと思うけど。でも私は、ダリアさんの船が良いかな。ダリアさん、船を作るのが好きなんだろうし、そういう人が作る船って良さそう」
 未完成の船も、趣味で作ってる、とか言ってたはずだ。趣味で船を作るくらいだからきっと好きなのだろう。
「でも最終的にはユリスが決めるんだよね。私の意見じゃ参考にならないんじゃない?」
「いいえ、そんなことはありませんよ。……それでは行きましょうか。ユリス様を迎えに」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。 アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて…… 表紙 チルヲさん 出てくる料理は架空のものです 造語もあります11/9 参考にしている本 中世ヨーロッパの農村の生活 中世ヨーロッパを生きる 中世ヨーロッパの都市の生活 中世ヨーロッパの暮らし 中世ヨーロッパのレシピ wikipediaなど

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜

望月かれん
ファンタジー
 中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。 戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。 暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。  疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。 なんと、ぬいぐるみが喋っていた。 しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。     天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。  ※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。

刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。

木山楽斗
ファンタジー
宿屋で働くフェリナは、ある日森で卵を見つけた。 その卵からかえったのは、彼女が見たことがない生物だった。その生物は、生まれて初めて見たフェリナのことを母親だと思ったらしく、彼女にとても懐いていた。 本物の母親も見当たらず、見捨てることも忍びないことから、フェリナは謎の生物を育てることにした。 リルフと名付けられた生物と、フェリナはしばらく平和な日常を過ごしていた。 しかし、ある日彼女達の元に国王から通達があった。 なんでも、リルフは竜という生物であり、国を繁栄にも破滅にも導く特別な存在であるようだ。 竜がどちらの道を辿るかは、その母親にかかっているらしい。知らない内に、フェリナは国の運命を握っていたのだ。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。 ※2021/09/03 改題しました。(旧題:刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。)

処理中です...