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女王様の言うことは

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 体が引っ張られる感覚とユリスの温もりとに耐えていると、突然ビュウと強い風が吹いた。
「シルフィ、大丈夫!?」
 つい振り返って、ユリスと危うく頬が触れかけた。思わず身を引、けなかった。慌てて顔を逸らす。
 びっくりした。青い目に吸い込まれるかと思った。距離が近いと色々気持ちがおかしくなりそうだ。遅れて顔が熱くなる。
「人の心配をしている場合か?」
 ユリスは平然としている。私のこの緊張とか居たたまれなさとか恥ずかしさのこの一ミリだけでも移してやりたい。
 先の強風から、絶え間なく風が吹きつけ始めた。風向きは崖に向かっている。気を抜くと落ちてしまいそうで怖い。
「ゆ、ユリスさん、大丈夫なんですかこれ……わっ!」
 また一際風が強くなった。悲鳴のような音が聞こえる。
 私は石碑の後ろ、崖の上空に透明なヴェールを見た。前回と同じなら、あれが精霊だ! しかし風が強すぎて何も聞こえない。前みたいな精霊の声すらも聞こえなかった。風の音が甲高く耳につく。
「うわわわユリスさん大丈夫ですか」
「くっ……」
 喋る余裕もなさそうだ。ユリスは背後から吹き付ける風に対し石碑に手を突いて耐えているのである。力の無い彼がどこまで耐えられるか分からない。一方、私はユリスに庇われている格好なので何の苦もなかった。申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「多分精霊はもう起きてます。そこに姿が……っ、え?!」
 更に風が強くなる。いよいよまずい。さすがに私も足元が覚束なくなってきた。魔力を引っ張られていく寒気と風の冷たさで体が凍える。踏ん張るどころか立っているのも辛かった。
 魔力を引っ張られる感覚が消える。ユリスは悔しそうに吐き捨てた。
「ちっ。駄目だ、通らない。召喚士!」
「シルフィ様、動けますか?」
「む、難しい、かも」
 ラウロが地面に透明な刃を立てて支えにし、シルフィはラウロにしがみつく形で風に耐えている。私たちと同じような格好だ。
 シルフィたちとは少し距離がある。無理矢理手を伸ばせば届くものの、例えシルフィの手を掴んだところでこの強風では身動きが取れない。どうしよう、このままじゃみんな危ない。
「エコ」ユリスが固く言った。「使うぞ。耐えろ」
「へ、はい。耐えま、す」
 また引っ張られる。気持ち悪くなってきた。ジェットコースターでずっと上下を繰り返されている感じ、酔いそうだ。
 ユリスが何かぶつぶつ呟いている。すると、石碑が横に長く広がり、崖っぷちに壁が出来た。これなら落ちる心配はない。ユリスが叫ぶ。
「走れ!」
「うん!」
 シルフィがすぐに飛び込んでくる。私はほとんど朦朧としながらシルフィの体にしがみついた。
「精霊様、僕の声を聞いてください……!」
 そこからは前回と同じく、精霊とシルフィが一時的に契約をし、シルフィが魔力を送った。私は上も下も分からないくらいに頭がシェイクされ、気付いた時には風が静かになっていた。どうやら上手くいったらしい。
 ユリスが石碑に触れる。横に伸びた部分がボロボロと崩れ、谷底へと落ちていった。もう少し遅ければ私たちも同じ目に遭っていたかもしれない。本当にほっとした。
 背後のトンネルから爽やかな風が、崖のずっと向こうまで吹き抜けていく。来た時は無風だったはずなのに。これが本来の形なのかもしれないと私は思った。
「エコ、大丈夫?」
「何とか大丈夫。でもちょっと、立てないや。ごめん」
 シルフィが蹲った私を心配そうに見下ろしている。背中を擦ってくれているけど、あまり楽にはならない。とにかく気持ち悪かった。平衡感覚が狂っていて体が勝手にふらついてしまう。
「私が背負います。早く戻りましょう」
 ラウロが焦った様子で私に背を向けた。大丈夫、と言いたいところだけどここは甘えさせてもらう。
「ごめんねラウロ……迷惑かける」
「エコ様、喋らなくていいですから」
 背負われると視界が高くなる。ユリスと目が合って、自分が情けなくて申し訳なくなってしまった。
「ごめん、なさい」
 ユリスの表情は上手く見えなかったけれど、少し怒っているように見えた。やっぱり、上手くいかないなあ。終わって安堵した所為か、私の意識は勝手に落ちていった。
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