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村と魔物と泣き虫戦士

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 部屋は確かに狭かった。ベッドが二つと、窓際に椅子が置いてあるだけでいっぱいいっぱいという風だ。
 簡単な食事を終え、無言のまま私とユリスはベッドへ入った。疲労のお陰で気まずいだとかを考えている暇もないくらいあっさりと私は寝落ちた。
 何か気配を感じたのか、私の意識はゆっくり浮上した。夢の中なのか現実なのか、遠くで翼の羽ばたくような音が聞こえる。また鳥か、と私は再び意識を落とそうとした。しかし。
「起きろ」
 ユリスの静かな声が私の耳から脳へ指示を送る。考えるより先に体が起きていた。すぐそこにいたユリスは私の腕を掴んで腕輪を抜く。
「え、何、何ですか?」
 まだ眠気が残っている脳では状況が呑み込めない。ユリスはろくに説明もしないまま私から離れると、窓を開いてその向こうを見つめた。
 さっき聞いた翼の音が段々近付いてくる。何か来てる?! ここで私は気付いた。私の魔力量は魔物を引き付ける、それを隠す為の腕輪を取った。つまりユリスは私を囮にしたのだ。魔物を誘き寄せる為に。
 バン! とすごい音がして窓に黒い塊がぶつかってきた。窓が小さすぎてぶつかってきたものの全容が見えない。ああ、もしかして! これが青年の言っていた巨大コウモリ?
 コウモリは中へ入ろうとしているのか、大きさ的にどう考えても不可能なのにしつこく窓の外に張り付いている。ユリスはコウモリの体へ何かを投げる仕草をした後で、
「女、付けろ」
 今度は私へ腕輪を投げて来たので慌てて腕に通した。コウモリの動きが明らかに鈍くなる。ユリスは懐から武器を取り出すと黒い体へ向かって二、三発魔力の弾を発射した。コウモリは悲鳴を上げるでもなく、悠々と弾を受け止めた後、窓から離れて行った。
 翼の音が遠くなり、聞こえなくなる。私はほっと胸を撫で下ろした。
「フン。まあこれで良いだろう」
 ユリスは満足げに窓を閉じた。私は文句を言いたい気持ちでいっぱいである。
「私は何も良くないんですけど……?」
「後は明日だ。休め」
「あ、はい」
 有無を言わさずだ。大人しくベッドに潜り込む。私が役に立ったなら良いんだけど、複雑。ろくな説明も無いしただ便利に使われただけって感じ。
 私のこの魔力製造機みたいな体質、厄介事ばかり引き寄せている気がする。もちろん救世主とも言われる良い力ではあるんだろうけど、危険物の側面が大きすぎる。本当にこのまま旅を続けていいのか不安だ。
 それに。この力は必要だけど、そこに“私”は必要ないわけで。なんて今更だ。今までも何度も考えたけど結局仕方ないって割り切って来た。今回もそうやって割り切ろう。仕方ないんだ。私は救世主の力があったからこの異世界に呼ばれたのであって、それ以外に理由なんて無いんだから。

**

 朝、ラウロが部屋を訪ねて来た。昨日の青年が指示通り人を集めてくれたのだという。ユリスは頷いて昨晩の話をした。魔物を誘き寄せ、自分の魔力を込めた針を付けた、だから近くに来れば察知出来るのだと。あの時何か投げてたのは針だったらしい。
「あの魔物、昼の間はどこかで身を休めてわざわざここまで飛んできているようだな」
 今は距離が遠くて察知出来ないと。私は黙って二人の会話を聞いていた。どうせラウロには説明しても私には説明してくれないんだろうし……ちょっと拗ねた気分だった。
「村人たちの話はどうしますか。私だけでも話は聞けますが」
「いや。私も行く。女、お前は召喚士と部屋にいろ」
 急に振られ、頷くのも癪だったので「シルフィも話を聞きたいんじゃないですか」と返した。
「シルフィ様にはまた私から話をしますよ」
 ラウロがにこやかに言う。もちろん部屋にいることには異論はない。でもまた籠り続けるのも面白くなかった。
「私とシルフィ、外に散歩に行っても良いですか? 村の外には出ませんから」
 ダメ元で聞いてみる。人も多くないし、はぐれることもまずないし良いと思うんだけど。
 ユリスが少し難色を示したものの、腕輪もあるから良いだろうということで外出の許可が出た。私は機嫌よくユリスたちを見送ると隣室のシルフィへ声をかけに行った。
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