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王子様と目覚めの○○

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「女」
「何ですか」
 相変わらず雑な呼び方だ。それで返事する私も私だけど。ユリスはベッドの脇で立って私を見下ろしている。暗くて表情もよく見えないし、長い髪は幽霊みたいだし、影になって怖いから普通に座って欲しい。ユリスはいつも通りの尊大な口調で言った。
「お前、私の言うことを聞く気はあるか」
「ありますよ」
「嘘を吐け……。まあいい。魔力が要る」
「私はどうすればいいですか」
 魔力を提供するくらいなら私は痛くも痒くも無いので全然問題ない。ちょっと恥ずかしいだけだ。
 ユリスは少し考えるような間を空けてから、私のいるベッドに乗ってきた。思わず身構えてしまう。いや、身構えるようなものは何も無いんだけど。
「動くな」
「動いてないです」
「いちいちうるさいやつだ」
「どっちが……」
 文句を言いかけた私はユリスに真正面から抱きすくめられて思わず黙ってしまった。びっくりした。今までになく優しい腕が私の背に回っている。
 しかしこの格好、普通に恥ずかしいし、手のやり場が無い。ユリスの顔が私の肩に乗っている。うおぉ……でもお互い顔が見えないからむしろいいのかも。
 ユリスの体はとても冷たい。以前一度密着した時もここまで冷たくは無かった。寒くはないはずだし、体内の魔力が少ない所為かもしれない。それで疲れていたのか、疲れていた所為で魔力が少ないのかは不明だけど、とにかく私の力が役に立つようで良かった。
 私は大分、いやかなりドキドキしている。困る。こういう時、どういう顔をすればいいか分からない。向こうにそのつもりが無くても私は変に意識してしまう。暗いし、夜だし、静かだし。良い匂いするし。
「腕」
「え、はい?」
「腕を貸せ」
「なん、何でですか」
 低い声が心臓に悪い。私はさっぱり頭が働いておらず何を言われたのかもよく分かっていない。と、いきなり右腕を掴まれ驚きで飛び上がりかけた。
「邪魔だ」
 ユリスは鬱陶しそうに言うと私の腕から腕輪を引き抜く。あ、ああ、そういうことね。びっくりした。
「フッ。何を緊張している? わけが分からないな……」
 おかしそうに独り言染みたことを呟いて、それきりユリスも私も何も言わなかった。ただ息遣いだけが聞こえる。
 しばらくして。一体いつまでこうしていればいいのか、声をかけようとして気付いた。ユリス、寝落ちです。道理で重いと思った。穏やかな寝息がはっきり聞こえる。どうやら休まったらしい。良かった。良かったけど、私動けないぞこれ。
 果たして私は寝れるのだろうか。しかもこの格好では彼の寝顔を拝むことも出来ない。くっ。なんか悔しい。私は超ドキドキものだったというのに向こうはまるで何の意識もしていなかったのだ。ぐっすり寝てるくらいだし。ふーんだ。別にいいけど。
 最初より温かくなっているユリスの体温を感じながら、私はどうやって寝る体勢になろうかと一人悩んだ。
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