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魔法使いは人さらい

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 食事を終えて頭が覚めてきたシルフィと共にレドへ送る手紙の話をして、ラウロに用紙を用意してもらったりして身支度を整えた後で城を出た。
 門の外で待っていると、ユリスがずんずんと淀みない足取りで現れた。当然例の如く街の人たちはどこかへと消えていく。モーゼよろしく人波を割る……どころか消している。ここまで避けられていることに本人は気付いているのだろうか?
 と、いきなりユリスに肩を掴まれた。私は驚きと痛みで動揺した。
「何!? 何事!?」
「魔力の量が減っていないか? ……ああ、これか」
 ユリスは私の腕輪に触れる。今朝のラウロとのことを思い出して咄嗟に腕を引いてしまった。ユリスは特に頓着なくラウロを振り向いて問う。
「お前の仕業か」
「昨夜侵入者の襲撃に遭いましたので、念の為です」
「何? 侵入者だと? あり得ない! 寝ぼけてたんじゃないのか?」
 寝ぼけて従者を攻撃した話を思い出した私は、寝ぼけてたのは貴方もですよね、と言ってやりたかったのを呑み込んだ。
「本当に、いきなり目の前に男がいたんですよ」
「お前も見たのか?」ユリスはラウロに聞く。私の言葉ガン無視かよ。別にいいけどねっ!
 ラウロは昨夜のことをかいつまんで話した。その間、シルフィが「僕気付かなかった」と肩を落としたのを慰める。シルフィには魔法がかけられていたのだから仕方ないことだ。
 ユリスは腕を組んで渋い顔をした。
「信じられない話だ。しかし警戒するに越したことはないだろう。道のりは長いからな」
「あー、隣の国に行くんでしたっけ?」
「まずは向かいの東の国へ向かいます。我が国は南とは特に仲が悪く、北の方は環境が厳しいですからね。国へ入る手段も後々考えなければなりませんが、その前に中央の緩衝地帯を抜けることも容易ではありませんから……課題は山積みですね」
 この世界には四つの国があって、その真ん中にある緩衝地帯はお互いの不可侵領域で、お陰で国同士衝突せずに済んでいるという話だけど。うーん。日本から出たことない私からすると国境だの何だのはいまいちピンと来ない。
「なんか大変そうだね」
「僕、国から出たことないんだけど、国の外ってどういう感じなの?」
 シルフィが興味津々で問う。ラウロはにこやかに答えた。
「私もお付きで出たことがある程度ですが、緩衝地帯は非常に荒れています。無法地帯ですね。安全に通れる手段があればいいのですが」
「フン。さっさと行くぞ。日が暮れる前に街でも村でも見つけねばならん」
 ユリスが先導して歩き出す。私たちも続いて歩きながら、ふと疑問を覚えた。
「あのさラウロ、今更なんだけど、王子様がうろうろ自由に歩き回って大丈夫なの?」
「……ユリス様が良いと言うのなら良いのでしょう。ユリス様はあまり公にも出ていませんから顔を知る者も少ないですし」
「大丈夫なのかな……」
 うっかり大怪我でもしたら国としては大問題なのでは。まあ本人たちが良いと言うなら良いか。王様になるってのも大変なんだな。
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