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城と王子と従者と精霊

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「えー。じゃあどうすればいいの?」
「シルフィは今の時点でもう大人に近いから、色々行動には気を付けていただきたい! お酒にも気を付けてください!」
「な、なんかエコ変だよ」
 私の勢いにシルフィが引いている。私は一度深呼吸をして改めて恐ろしい大人について説明した。
「あのね、正しい大人ばっかりじゃないからね。自分でもちゃんと考えるようにしてください。ちゅーだけでは大人になれません」
「そうなんだ」
「そうなんだよ……はあびっくりした寿命縮んだ完全に社会的に死んだと思った」
 やっと混乱が収まってきた。そもそもちゅーで大人になるなら私はまだ子供ということになるんですが。私こそ大人になりたいよ……。
 シルフィは納得した様子でいながら何か惜しそうに足をぶらぶらさせた。
「でもさ、ちゅーって好きな人とするんでしょ? 僕エコのこと好きだし、良いと思ったんだけどなあ」
「そう言って頂けるのは大変嬉しいんですけどね。私が牢屋に入ることになるので勘弁してください」
 好いてくれているのは本当に嬉しい。しかし世間の目とか法律とかがあるし、彼の好意は友情的なものであって確実にキスを伴うようなものではないことも私は知っているので大人の対応をした。シルフィにはまだその辺の区別がついていないのだろう。その為の青少年保護うんたらである。
「ふーん。早く大人になりたいな~」
「シルフィは十分大人だよ。立派だよ」
 口先ではなく本当にそう思う。これからももっと大きくなっていくのだ。こういうところはまだ子供だけど。今みたいに可愛く首を傾げるところとか。
「ちゅーは?」
「駄目。ちゅーはもっと未来の為にとっといて」
「じゃあ未来ならエコにちゅーしてもいいの?」
 何でそうなる!? いやどうすればいいのこの場合の回答は!? 駄目ではないけど駄目なような、良いよと言うのも違うし……! 私が手をもだつかせて回答に困っていると、
「シルフィ様、あまりエコ様を困らせてはいけません。大人の男性は女性を尊重するものですよ」
 助け船が現れた。私にとってはまさに渡りに船で、さも分かっている風に頷いて同意した。シルフィは聞き慣れない単語を拙く繰り返す。
「尊重?」
「大事にするということです。人間は口を塞がれると息が出来なくなってしまいますので、そういったことはもっとたくさん勉強して、きちんとした理由ややり方を知ってからの方が宜しいですよ。危険ですからね。たくさん勉強をするほど立派な大人になれますから、シルフィ様もたくさん勉強しましょう」
「勉強嫌いなんだけどー……分かった! ねえエコ、ラウロの言うことは嘘じゃないよね?」
「はい。ラウロの言うことはとても正しいです」
 片言に言葉を吐いてベッドに倒れる。どっと疲れた。ラウロ様様だ。もう彼無しでこの世界を生きていける気がしない。雇えるものなら雇いたい。私にはそんな甲斐性も金も無いけど。
 ラウロは私に微笑みを向けながら言った。
「そろそろ休みましょうか。エコ様、横になっているところを覗き込んでしまって申し訳ないのですが、あまり顔色が良くないですね。どこか痛んだり気分が悪かったりはしますか?」
「ううん、大丈夫。急に疲れが出たみたい」
 眩暈みたいだ。シルフィのあれこれに振り回されたのもあるけれど、さっき一瞬見た、見慣れた我が家の幻がずっと頭の端に張り付いている。まるで呪いみたいだ。お前のいるべき場所を忘れるなと。
 部屋の明かりが消され、暗い部屋の中、窓から月明かりが差してくる。この世界にも月はあるんだ。って太陽もあったもんね。あるよね。何となくセンチメンタルな気分になっている。
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