家出少女は昔振られた幼馴染と瓜二つ

ナックルボーラー

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屑じゃない

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―――――15分程遡る。

「たくよ……。子供じゃないんだから買い物1つでどんだけ時間が掛かってやがるんだ凛の奴。もう昼飯の時間だぞ」

 凛に10時30分頃にオオヒラに渡す用の菓子折りの買い出しを頼んだのだが、昼に差し掛かっても凛は戻っては来なかった。その事に疑心に思い2度程電話をしたのだが、アイツは出なかった。
 俺は一応は上司だし、部下に何かしらあっては責任問題になると思って、別にアイツが心配だからとかじゃなくて、そう、最近コンビニ弁当ばかりだと味気ないから外食次いでに、凛を見つけたら説教しようと思っただけで……てか、本当にアイツいないな。

 俺は一度会社の方に凛が戻って来てないカを確認したが、昼飯時にもアイツは戻って来てなかった。
 
 俺は外食と言う方便を言ったが、結局コンビニでおにぎりと惣菜を買って公園で食べる事に。

「本当に最近はコンビニばっかりだな……。凛や鈴音の作ったモノを食べた所為か、たまに人の温かさを感じるモノが恋しくなるな」

 知らなければ寂しくは感じない。だが、知ってしまえばそれが無くなった時に寂しさを感じる。
 俺はおにぎりを頬張りながら、空を仰ぐ。

「…………今回のオオヒラは凛と相手側の御曹司様の恋愛の諍いで生まれた問題……。正直、御曹司様の器の小ささにはガッカリだが、少し羨ましいと思った」

 勿論、振られたから報復として会社を巻き込んだ事じゃない。
 会って間もない癖に大平清太は、凛に告白をした。俺が何年も躊躇った事をアイツは短い間にしたんだ。俺も、それぐらいの積極性があれば、未来はもう少し違っていたのかもな。

「……俺は、今もアイツに未練がある。そして、俺は微かだが、現在もアイツとこの先の未来を生きたいと思ってしまった。俺は、アイツの事が……まだ、好きなんだな」

 この歳がアイツと再会できるなんて夢にも思わなかった。
 俺が知る姿とは大分成長しているが、アイツは俺の事を良くも悪くも変わってないと言っていたが、アイツもそうだ。凛も、昔と全然変わってない。アイツは俺が好きだった凛のままなんだ。

 本当に俺も未練たらたらな女々しい奴だったんだな、だけど、あの時叶えられなかった初恋を叶えられるなら……俺は、

「だけど、今は一旦忘れよう。まずは取引の件だ。たくよ、凛の奴は本当に何処行ったんだよ」

 昼食を食べ終えた俺は今一度凛に架電する。
 プルル、プルル、と発信音が鳴り、そしてぷつッと繋がった音が聞こえた。
 俺は繋がったことに一瞬戸惑うが、出たんだから要件を言わなければいけない。

「おい凛! お前何処に――――――」

 俺が仕事を放り投げてどこかに行った事を叱咤しようとした時、がッがッがッ!とまるで転がる様な音が鼓膜に響き、思わずスマホを耳から遠ざける。
 凛の悪戯か?と思ったが、凛がそんな幼稚な悪戯をするわけがない。
 てか、まるでじゃない。今の音は携帯が転がる音だ。

「おい凛! どうしたんだ! おい、凛!」

 俺が叫んで応答を呼ぶが返答はなかった。

『なに変な事をしてようとしてるんだ!』

 だが凛ではなく代わりに少し遠くから男の声が聞こえた。
 なんで凛の携帯から男の声が……逢引きか?と少し胸が締め付けられる事を考えたが、相手の声量はどちらかというと怒声に近い。俺は状況が掴めずにスマホに耳を澄ませる。

『用意周到の様に直ぐに警察に連絡できるようにしていたようだが、やっぱりお前は頭が悪いな! 事前に警察に連絡を入れていて出ていれば、危ない時に直ぐに来てくれたのによ。素直に1人で来るとか馬鹿過ぎるだろ!』

 この声……何処かで聞き覚えがあるぞ。
 そうだ。取引先の大手だから何度か会った事があった、この声は大平清太!
 なんで凛と一緒にいるんだよ! てか、今の話の内容って、もしかして凛は大平に襲われているのか!?
 人の神経を逆撫でする様な高笑いに憤慨する俺だが、何も言葉を発せなかった。
 
 推測だが、この通話は偶然の重なりで繋がっているのかもしれない。
 凛が警察を呼ぼうとして、スマホに手を入れた時に偶然俺との通話が表示されて、何かの弾みで受信ボタンを押したのかもしれない。
 先刻の転がる音はスマホが凛の手から放れて地面を転がった音、つまり、この通話が繋がっている事を大平は気付いてないのかもしれない。なら、勘付かれない様に俺は言葉を発しない。

『本当にイラつかせてくれる女だ。顔と身体はいいから愛人にしてやろうとしたのによ』

 愛人ってなんだよ……。
 まさか、凛を振った報復のつもりか?取引中止だけでなく、凛に屑な強要をするとか、表面では好青年って言われていたが、それがお前の化けの皮か大平清太!
 
 大平清太の言動から恐らく、凛はコイツに襲われているのかもしれない。
 何処だ! 2人は何処にいるんだ!
 2人の位置の情報が一切なく苦悶する俺だが、凛の声が聞こえた。

『なんて情けない人だね……。自分に魅力が無いから、金と暴力で想いのままに操るなんて。本当に魅力的な人は、そんな物なくても惹かれていくもの……』

 凛の声が聞こえて一旦無事な事を知って俺は安堵する。
 だが、こいつらは何を話しているんだ?

『……お金があるからなに? お金があればどんな事をしても良いと本気で思っているのかな? だとすれば、貴方が過ごした30年余りの人生、本当に哀れに思えるよ』

『好きだった幼馴染を振って中退した屑女が言うんじゃねえよ!』

 近くを通ったのか電車の音にも負けない大平清太の怒声が凛を一蹴する。
 好きだった幼馴染……って、俺のことか? なんでアイツが俺と凛の関係を知ってるんだ?
 いや、それよりも、どんな話の流れでそんな話が……俺は増々状況が読み込めずに頭を悩ましていると。

『……そう。私も屑だ。だから、類は友を呼ぶって言う……だから、貴方みたいな屑を呼び寄せたのかもね』

 凛…………が、屑、だと?
 なんで、そうなるんだよ……。まさか、俺を振ったからか?
 
 俺は凛の言葉を聞いて、内から沸騰しそうな程に怒りを燃やす。

―――――ふざけんじゃねえよ、馬鹿凛が!

 俺は何度も言ったはずだ! お前に一切の非が無いってよ! なのに、まだ俺の失恋を引きずってやがるのか!
 お前は…………屑なんかじゃねえよ……。

 この世には男女の幼馴染は俺達だけじゃない、他のも沢山いるはずだ。
 そいつらが全員が全員、恋仲になって夫婦になるのか? 答えは否だ! 

 恋愛はお互いの気持ちが向き合って結ばれるものだ。
 高校生あの頃の俺達は、互いの気持ちに素直になれなくて奥手になって告白が出来なかった。

 仮に恋人や夫婦だったら倫理的に可笑しいだろうが、俺達は付き合っていなかった。
 なら付き合う前に心変わりをして、俺を振ったとしても凛に非は一切無い。
 好意を拒んだらそいつは悪なのか? 違うだろ。受けるも拒むもソイツの自由、そこに悪はない。
 それを咎める奴は、自分勝手な心狭い野郎だ。

 なら、未成年と教師が付き合っていたから屑なのか? 
 確かに世論はそうかもしれないが、それは時代と国が決めた事で、本来なら歳や立場がどうであれ人の恋愛に制限を付けれない。だから少なくとも俺は、凛が宮下と付き合っていた事に対して悪だとは思わない。

 なら、凛が在学中に妊娠をした事か?
 確かに経済力が乏しい学生時の妊娠は先に不穏な影を落とすだろう。父親である宮下は妊娠した凛を捨てやがった。
 だが凛は、その事に後悔はしただろうが、それでも懸命に鈴音を育てた。他人の俺が見ても鈴音は立派な娘だ。
 世の中には恵まれた環境であっても、育児放棄したり虐待する親がいる中で凛は、鈴音をあそこまで立派に育てたんだ。だから凛は屑じゃねえ。

 もし、仮にそれらを屑と定義するなら、俺だって同じ屑だ。
 
 誰よりも凛の傍にいたのに、誰よりも凛の事を知っていると自負していた癖に、俺は。
 凛の想いや不安にも気づかずに楽観的にこれからもずっといるんだと思っていた。
 
 俺も、とんだ屑野郎だよ。

 俺はスマホに握りしめてベンチの前に立ち尽くしていると、微かに踏切の音が聞こえた。
 そう言えば、電話先で間近を電車が通る音が聞こえた。
 しかも、凛と大平清太の会話は屋内なのか声が反響していた。
 つまり2人は、線路近くの屋内にいる。俺は直ぐに取引先専用スマホの地図アプリを起動する。
 
 今持つ情報は、2人がいる場所は屋内であること、近くに線路がある、踏切の音は聞こえなかった、そして俺がいる場所近くに踏み切りがあり、電話先で電車が通過した音は今から約2分前。

 俺は現在地から逆算して踏切がある場所を探る。
 何処だ。何処にいるんだ凛は!

 地図アプリで必死に探る俺は、1つの工場を発見する。
 数年前に社長が会社の金を持って夜逃げして潰れた今は廃棄された鉄筋工場。
 他の候補を探すが、今は使われて無くて侵入しても誰の目にも付かない場所はここしかなかった。
 
 考えている暇はない。間違ってたら別の場所を探すだけだ。立ち尽くしていては、また手遅れになる!

 俺は公園を出て車が通る大通りに出る。すると運良く無客のタクシーを見つける。
 
「おいタクシー止まれ!」

 俺は大袈裟に手を降ると、運転席の運転手が驚いているのが分かったが、俺の前にタクシーは停車する。自動でドアが開かれると、俺は急いで車内に入る。
 俺は目的地を聞かれる前に口を開く。

「頼む! 料金は元値の3倍は出す! 警察に止められたら俺が強要したって言う! だから、全速力でこの場所に向かってくれ!」

 地図アプリの目的地にピンを刺した画面を運転手に見せると、運転手の顔が険しくなる。

「……なにか事件か?」

 乗車しての第一声がそれだから怪しむのは当然だ。客だとしても相手にも選ぶ権利がある。

「恐らく。俺の……部下が、屑野郎に襲われてるかもしれない。だから、頼む!」

 一瞬考え込む運転手だが、助手席に置かれた帽子を深く被ると、ニシッと笑い。

「兄ちゃん。おっちゃん、案外そう言った事嫌いじゃないぜ?」

 運転手の琴線に触れたのか、車のギアをあげる。
 
「だがな兄ちゃん。俺は安心安全をモットーにしているんだ。だから――――安心安全で全速力で飛ばすぞ!」

 言葉に矛盾があったが、運転手は俺の要望通りに安全を心がけながらも法的速度を超えた速度で走り出す。ここから5分程度。頼む、凛。それまで無事でいてくれ……。
 俺は凛の安否を心配しながら、未だに繋がるプライベートのスマホに耳を当てながら、もう片方のスマホである場所に連絡をする。

 公道を70キロで飛ばしたが幸い警察の目がなく、3分程度で目的地の廃工場に到着する。
 宣言通り俺は料金の3倍を出し、そして運転手から「頑張れよ」と激励を出されて廃工場内に入る。

 俺も移動中も凛たちの会話を聞いていた。
 凛、お前が俺を振ったことを気に負う必要はない。お前がそれだけ俺を想っていてくれただけで十分だ。お前はこれ以上、自分を犠牲にするんじゃねえ! お前も幸せになる権利があるんだからよ!

 薄暗い廃工場内に男女の声が聞こえる。ビンゴ! やっぱりここか!

「本来なら先に俺が頂いて後から仲間でまわす予定だったが、お前なんて抱いたら腐っちまうからもう他の奴らにあげるわ」

 テメェ、何所まで人の逆鱗に触れれば気が済むんだ屑野郎が!
 誰かに連絡を入れようとしているのか、捉えた大平の腕を握り潰さんばかりの力で俺は掴む。
 あ? とキョトンとする大平だが、俺の怒りはテメェを捉えて離さないぞ。

「おい、テメェは何の権限があって俺の部下をここまで傷つけてくれたんだ、この糞野郎が!」
 
 怒り心頭の俺の右拳は屑野郎の頬を打つ。
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