家出少女は昔振られた幼馴染と瓜二つ

ナックルボーラー

文字の大きさ
上 下
30 / 66

悪役になろうとも

しおりを挟む
 ファミレスで軽い食事をした後、私は娘の鈴音を連れてファミレスを後にした。
 幼馴染のこーちゃんともそこで別れ、私たちは帰路を歩く。

「ぷはぁ~久々の外食だから沢山食べ過ぎてお腹一杯だよ。ご馳走様、お母さん」

「はいはい、どう致しまして。成長期なんだから沢山食べないと大きくならないからね。まあ、痛い出費だったけど……」

 ファミレスでの会計は私が全て払った。こーちゃんのも含めて。
 最初はこーちゃんが私たちに奢ろうとしたけど、私が断った。
 鈴音にとって久々の外食だけど、私は仕事付き合いとかで外食は何回かあって、私の教育係のこーちゃんに幾度か昼食を奢って貰った事がある。上司の面目として。
 仕事中であれば部下として謙虚に振る舞ったり、上司の善意は素直に受け取るが、今はプライベートで私とこーちゃんは幼馴染だ。それに、鈴音が沢山迷惑かけたし、お礼のお金も受け取ってくれなかったから、これぐらいはしないと私の気が済まなかった。
 当然なのか、不服そうなこーちゃんだったけど最終的には折れてくれて、私が全てを払った。
 と言っても、今回の出費の大半は鈴音の分なんだけど……。

「それにしてもさ、お母さんたちは何話してたの? 私がジュース取りに席を離れてた時にさ」

 突然と聞かれた事に私はギクッと足を止める。
 私の2、3歩先に足を進めた鈴音は振り返り。

「なんだかあの後、康太さんは私に対してどこかよそよそしくなったし。なにか私の恥ずかしい過去とか話してたわけじゃないよね?」

 親だから勿論、外に漏らして欲しくない鈴音の恥ずかしい過去を知っているが、話を盛り上げる為に娘を陥れる様な馬鹿な真似はしない。
 ……いや、もしかしたら鈴音にとっては、そっちの方が良かったのかもしれないね。
 ジト目で私を睨む鈴音に額に脂汗を滲ます私はふぅ……と息を吐き。

「そんなんじゃないよ。私とこーちゃんは今は同じ会社の同僚だから、仕事関係の事で相談していただけ」

「ふーん? そうなんだ。まあ、ならいいけどさ」

 流石の私も本当の事は話せなかった。
 分かっている。本当は言わないといけない事だって。
 だけど、少しずつ距離が離れていってからの方がいいよね。

 私はあのファミレスで、鈴音が飲み物を取りに行っている間にこーちゃんにお願いした。
 こーちゃんは鈴音とあまり関わらないで欲しい、と。
 これは別にこーちゃんが鈴音に悪影響を与えるとか、意地悪で言ったわけではない。

 鈴音は、父親という存在に憧れを持っている。
 幼少の頃からそれは垣間見えていた。
 公園で同年代の子と遊んで、その迎えの時、両親揃って一緒に帰る友達を羨ましそうに見ていたあの子の寂しそうな顔は今でも忘れられない。
 気づいていたはずなのに、私は気付かないフリをしていた。
 本当はこの子に父親が必要なのだろう。だから、私は誰か良い人を見つけて結婚した方がいい。
 
 けど……父親になるって、言葉で言う程簡単じゃないはず。
 ましてや義理、血の通ってない子の父親になるのなんて……。

 こーちゃんが私に言った言葉を思い出す。
 もし仮に自分こーちゃんとの関係が無くなっても根本的な解決にはならないという言葉。
 私は痛い程それは分かっている。けど……どうしようもない。
 あの時、私は言葉を飲み込んだ。だが、これは言ってはいけないと理性が訴えた。
 あの時の私が飲み込んだ言葉は—————『なら、こーちゃんが鈴音の父親になってくれるの?』

 私は最低だ。
 私は昔、こーちゃんを振っている。なのに、今更本当はこーちゃんが好きだとか、付き合ってなんて虫が良すぎる。こーちゃんは私以外の誰かと幸せになって欲しい。昔、私はそう願ったはずだ。
 この先鈴音と関わっていけば、鈴音の存在がこーちゃんの大きな弊害となる。
 そうなれば、私はまたこーちゃんを傷つけてしまう。だから私はこーちゃんにこれ以上鈴音と関わらないで欲しいと頼んだ。
 本当に我ながら反吐が出るよ。自分の娘に親切にしてくれた人に部外者だ、なんて……こーちゃん怒ってるだろうな。

 だけど、私が悪役になろうと、鈴音とこーちゃんが幸せになれるならそれを望むよ。
 それが私の贖罪。私の願いだ。

 けど、私がこーちゃんの傍にいたら今後否応でも鈴音と関わってしまうよね。
 ……転職を考えないとな。
 はぁ……折角、中卒で学歴が無い私を好意的に良い会社に就職出来たのに、けど……覚悟しないといけないな。

「お母さーん! なにボーっとしているの、早くしないと置いていくよ?」

 上の空で歩いていた私はいつの間にか先を歩いていた鈴音の声に我に返る。
 ぶんぶんと手を振り招く我が娘。少し前まで小さかったはずなのに、ここからでも分かる程に大きくなったんだな……感慨深いよ。

「待ちなさい鈴音。直ぐに行くから」

 私は小走りを鈴音の後の追う。
 再び並んで歩く私たちだが、無造作に振られる鈴音の手を見て私は思わず握ってしまった。

「ど、どうしたのお母さん? いきなり私の手掴んで?」

「たまにはいいでしょ、親子なんだから」

 恥ずかしそうに顔を赤めて顔を逸らす鈴音だが手を放そうとはしなかった。
 逆に私の手を強く握る鈴音を私は愛おしく感じた。

「鈴音の引っ越し祝いで、今日は鈴音が食べたい物を作ってあげる。なにが良い?」

「本当に!? なら私はミートスパゲティが良い! お母さんのスパゲティプロ並みに美味しいからさ!」

「ふふっ、ありがとう鈴音。なら沢山作ってあげないとね。けど、その代わりに編入試験の勉強とバイト探しはしっかりしなさいよ」

「うぅ……忘れようとしていた現実が……分かってるよ! 絶対に合格して、いつかお母さんに恩返しができるようになるから! 流石にこのままじゃ、親不孝者過ぎるよね!」

 散々迷惑をかけて来た自覚はあるのか、猛省した鈴音は活き込んでもう片方の腕を手を大きく上げる。
 微笑ましく思い私の頬をが綻びる。
 私の人生はこの子が幸せになる様に費やす。だから鈴音。貴方は本当の意味で幸せになってね。
 それなら私は—————自分の幸せはいらないから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

社長から逃げろっ

鳴宮鶉子
恋愛
社長から逃げろっ

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~

汐埼ゆたか
恋愛
絶え間なく溢れ出る涙は彼の唇に吸い取られ 慟哭だけが薄暗い部屋に沈んでいく。    その夜、彼女の絶望と悲しみをすくい取ったのは 仕事上でしか接点のない上司だった。 思っていることを口にするのが苦手 地味で大人しい司書 木ノ下 千紗子 (きのした ちさこ) (24)      × 真面目で優しい千紗子の上司 知的で容姿端麗な課長 雨宮 一彰 (あまみや かずあき) (29) 胸を締め付ける切ない想いを 抱えているのはいったいどちらなのか——— 「叫んでも暴れてもいい、全部受け止めるから」 「君が笑っていられるなら、自分の気持ちなんてどうでもいい」 「その可愛い笑顔が戻るなら、俺は何でも出来そうだよ」 真摯でひたむきな愛が、傷付いた心を癒していく。 ********** ►Attention ※他サイトからの転載(2018/11に書き上げたものです) ※表紙は「かんたん表紙メーカー2」様で作りました。 ※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

処理中です...