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責任を持って
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家出娘の田邊鈴音が母親の凛と共に遠くの実家に戻って一日経った。
今日は振り替え休日明けの平日の火曜日。
社会人の俺は今日は仕事で出社する。
昨日の徹夜明けや幼馴染親子関係の気苦労や飲み会など、様々な要素が重なり疲れ切っていたのか深く眠りに付いた俺は危うく寝過ごすところだったが、始業ギリギリには出社出来た。
課長職に就く俺は朝一で会議が入り、白雪部長と共に他の課を交えて重要な会議を経て、自分の課のオフィスに戻る時だった。
「朝は忙しくて言いそびれたが、古坂。一昨日の飲み会ではすまなかったな。無理やり酒を飲ませてしまって」
白雪部長は一昨日の俺が気を失う程の度数の酒を飲ませた事を謝罪してきた。
近年では無理やり酒を飲ませる事はアルハラと中傷され、厳しく取り締まられる。
素面の時は人に強要しない白雪部長だが、酒が入ると大柄になってテンションの思うがまに行動する癖がある。しかし、記憶がある白雪部長がこうやって謝るのは珍しい。まあ、酒を飲んで気を失うなんて初めてだから、どれだけの酒を飲ませたのか、流石の白雪部長も反省しているのだろう。
この事はメールでも謝罪されていたが、直に口で謝ってくるなんて。
「別に構いませんよ、と言いたい所ですが、次からは本当に気を付けてくださいよ。酒が弱い人が無理やりなんだから死ぬケースだってあるんですから。死ななかったから良いものを、正直飲み会明けは頭がガンガンして辛かったですよ」
「うぅ……本当に悪いと思っているよ……」
いつもの意趣返しを含めて返すと白雪部長は肩を落す。
ここまで落ち込む部長なんて珍しくて少し面白いと思ったが、度が過ぎた仕返しをすれば後が怖いからこのくらいでいいだろう。
そこまで気にしてもいないし、後遺症も無い。
この様子だと、暫くは飲みに誘わる事も少なくなるだろうしな。
この会話はここで切り、オフィスに戻りながらに最近の課の事で談話する。
「それにしても、今回入った新人は優秀な奴が多いですね。岡本が担当した新人なんて入って間もないのに早速契約を一つ結んで来ましたし」
「そうだな。今回中途採用を担当した奴の目利きには感服するよ。……新卒で入った奴は1人辞めたがな」
時期が時期だけに新卒と中途採用が被っている。
新卒と中途採用を担当した人事部の役員は違うらしいが、担当者でここまで差があるとは。
まあ、前は人手不足で来るもの拒まずな姿勢に警戒されて誰も入って来てくれなかった時期があるから、その時と比べたらマシになったが
入ってみれば思ったよりも居心地が良かったなんて言われた事があるしな。他の課は知らんが。
適当な話題で間を持たせながらに歩いていた俺と部長だが、突然と部長は立ちどまり、神妙な顔で俺に聞いてきた。
「なあ、古坂。お前、大丈夫か?」
「はい? なんですか突然?」
質問が抽象的過ぎて意味が分からなかった俺は首を傾げる。
白雪部長は刹那無言で目を横に向けた後に、その質問の意味を言う。
「新人教育の件だ。他の者が大事な案件で手が離せない状況で、止む無く課長のお前に教育係を頼んだ。その相手が、お前の幼馴染だった田邊だ。お前に任せた時の私は他意は無く、歳が近いって事で頼んだが……大丈夫か?」
かなり内容が省かれてたな。
……そうか。白雪部長はそんな事を気にしてのか。
そう言えば、入った当初の俺は周りと馴染めずにいて、当時先輩だった白雪部長は俺によく悩み相談に乗ってくれたっけ。俺が人を信じられずに距離を空けていた恐らく原因として挙げたのが、幼馴染との失恋。
その時、俺は白雪部長に凛の存在を話していた。部長、その事を覚えていてくれてたのか。
実際は15年も前だから名前は憶えていたなかったのだろうけど。
「急いで進めれば案件に取り組んでいた者の何人かが手が空く。本来は途中で教育係を交代させるのは効率が悪い。だが、過去の遺恨を抱えたままではお前に気苦労を与える。……悪かった。知らなかったとはいえ、お前には辛い思いをさせてしまって……」
部下の心労を気遣う立場な白雪部長は俺に頭を下げる。
確かに、昔に振られた相手の教育係は体力面ではなく精神面で辛くないはずがない。
しかし……。
「頭を上げてくださいよ白雪部長。部長に非は一切ありません。人手不足の俺達の課で最善を尽くしての采配じゃないですか。確かに俺は昔凛に振られました。だけど、一度引き受けたからには責任を持って教育係を完遂させますから、気にしないでください」
それに、大事な案件を急いで進めれば見落として損害が生じる恐れがある。
なら、俺は自分の責任を最後まで持つ事が今は最善だ。
「それに、もう15年も昔の話ですよ。今更遺恨なんてありません。今は幼馴染じゃなくて、一社会人としてあいつと向き合うつもりですから」
課の全てに目配りしないといけない部長の立場の白雪さんにこれ以上苦労をかける訳にはいかない。
もう俺は振られて落ち込んでいた学生ではない。部下に手本となる様に課長として精一杯務めないといけない。
「…………そうか。ありがとな、古坂」
「別にお礼を言われる様な事じゃありませんよ。課長として当然のことです」
その後は他の用事があるという部長と別れた俺は、バチンと頬を叩き、気合を入れてオフィスに戻る。
「さあ、今日は営業周りとか教えないといけないし。頑張らないとな」
今日は振り替え休日明けの平日の火曜日。
社会人の俺は今日は仕事で出社する。
昨日の徹夜明けや幼馴染親子関係の気苦労や飲み会など、様々な要素が重なり疲れ切っていたのか深く眠りに付いた俺は危うく寝過ごすところだったが、始業ギリギリには出社出来た。
課長職に就く俺は朝一で会議が入り、白雪部長と共に他の課を交えて重要な会議を経て、自分の課のオフィスに戻る時だった。
「朝は忙しくて言いそびれたが、古坂。一昨日の飲み会ではすまなかったな。無理やり酒を飲ませてしまって」
白雪部長は一昨日の俺が気を失う程の度数の酒を飲ませた事を謝罪してきた。
近年では無理やり酒を飲ませる事はアルハラと中傷され、厳しく取り締まられる。
素面の時は人に強要しない白雪部長だが、酒が入ると大柄になってテンションの思うがまに行動する癖がある。しかし、記憶がある白雪部長がこうやって謝るのは珍しい。まあ、酒を飲んで気を失うなんて初めてだから、どれだけの酒を飲ませたのか、流石の白雪部長も反省しているのだろう。
この事はメールでも謝罪されていたが、直に口で謝ってくるなんて。
「別に構いませんよ、と言いたい所ですが、次からは本当に気を付けてくださいよ。酒が弱い人が無理やりなんだから死ぬケースだってあるんですから。死ななかったから良いものを、正直飲み会明けは頭がガンガンして辛かったですよ」
「うぅ……本当に悪いと思っているよ……」
いつもの意趣返しを含めて返すと白雪部長は肩を落す。
ここまで落ち込む部長なんて珍しくて少し面白いと思ったが、度が過ぎた仕返しをすれば後が怖いからこのくらいでいいだろう。
そこまで気にしてもいないし、後遺症も無い。
この様子だと、暫くは飲みに誘わる事も少なくなるだろうしな。
この会話はここで切り、オフィスに戻りながらに最近の課の事で談話する。
「それにしても、今回入った新人は優秀な奴が多いですね。岡本が担当した新人なんて入って間もないのに早速契約を一つ結んで来ましたし」
「そうだな。今回中途採用を担当した奴の目利きには感服するよ。……新卒で入った奴は1人辞めたがな」
時期が時期だけに新卒と中途採用が被っている。
新卒と中途採用を担当した人事部の役員は違うらしいが、担当者でここまで差があるとは。
まあ、前は人手不足で来るもの拒まずな姿勢に警戒されて誰も入って来てくれなかった時期があるから、その時と比べたらマシになったが
入ってみれば思ったよりも居心地が良かったなんて言われた事があるしな。他の課は知らんが。
適当な話題で間を持たせながらに歩いていた俺と部長だが、突然と部長は立ちどまり、神妙な顔で俺に聞いてきた。
「なあ、古坂。お前、大丈夫か?」
「はい? なんですか突然?」
質問が抽象的過ぎて意味が分からなかった俺は首を傾げる。
白雪部長は刹那無言で目を横に向けた後に、その質問の意味を言う。
「新人教育の件だ。他の者が大事な案件で手が離せない状況で、止む無く課長のお前に教育係を頼んだ。その相手が、お前の幼馴染だった田邊だ。お前に任せた時の私は他意は無く、歳が近いって事で頼んだが……大丈夫か?」
かなり内容が省かれてたな。
……そうか。白雪部長はそんな事を気にしてのか。
そう言えば、入った当初の俺は周りと馴染めずにいて、当時先輩だった白雪部長は俺によく悩み相談に乗ってくれたっけ。俺が人を信じられずに距離を空けていた恐らく原因として挙げたのが、幼馴染との失恋。
その時、俺は白雪部長に凛の存在を話していた。部長、その事を覚えていてくれてたのか。
実際は15年も前だから名前は憶えていたなかったのだろうけど。
「急いで進めれば案件に取り組んでいた者の何人かが手が空く。本来は途中で教育係を交代させるのは効率が悪い。だが、過去の遺恨を抱えたままではお前に気苦労を与える。……悪かった。知らなかったとはいえ、お前には辛い思いをさせてしまって……」
部下の心労を気遣う立場な白雪部長は俺に頭を下げる。
確かに、昔に振られた相手の教育係は体力面ではなく精神面で辛くないはずがない。
しかし……。
「頭を上げてくださいよ白雪部長。部長に非は一切ありません。人手不足の俺達の課で最善を尽くしての采配じゃないですか。確かに俺は昔凛に振られました。だけど、一度引き受けたからには責任を持って教育係を完遂させますから、気にしないでください」
それに、大事な案件を急いで進めれば見落として損害が生じる恐れがある。
なら、俺は自分の責任を最後まで持つ事が今は最善だ。
「それに、もう15年も昔の話ですよ。今更遺恨なんてありません。今は幼馴染じゃなくて、一社会人としてあいつと向き合うつもりですから」
課の全てに目配りしないといけない部長の立場の白雪さんにこれ以上苦労をかける訳にはいかない。
もう俺は振られて落ち込んでいた学生ではない。部下に手本となる様に課長として精一杯務めないといけない。
「…………そうか。ありがとな、古坂」
「別にお礼を言われる様な事じゃありませんよ。課長として当然のことです」
その後は他の用事があるという部長と別れた俺は、バチンと頬を叩き、気合を入れてオフィスに戻る。
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