家出少女は昔振られた幼馴染と瓜二つ

ナックルボーラー

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健全?な生活

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 家出少女の鈴音が俺の家に居候し始めて3日目の夜。

「あっ……だめ、こーちゃんそこは……無理」

「……………………」

「駄目だよ……私そこ弱くて……んん」

「………………………」

「だから、んん……ひどいよこーちゃん……私の弱い所を執拗に攻めるなんて……いじわる……」

「……………………」

「——————あぁああああああ! また敗けたぁあああああ!」

「うるせぇえええええ! 少しは黙ってゲーム出来ないのかお前は!?」

 鈴音は俺の家に居候し始めて、この客観的に見たら淫らな同棲生活をする俺達だが、勿論、そんな不埒な行為は行われていない。
 男女2人キリという狭い空間での生活だが、俺が女性に対して性欲が枯渇している上に正直年下はタイプではない事で営みは無く。こいつもコイツでラフな格好で俺を揶揄うが本気で誘っているようには見受けられない。

 そんな俺の方は据え膳喰わぬして男の恥とか馬鹿にされそうだが、今しているのは健全なゲーム勝負。
 最近発売された据え置きと持ち運びが兼用できる機器での多人数を想定されて制作された大乱闘ゲーム。
 学生の頃はゲームが好きだったが、社会人になって遊ぶ相手や一人でする時間も無くて、買ったはいいがクローゼットの中で埃を被っていたのを鈴音が発見して、こうして2人プレイで対戦をしているのだけど、こいつは事あるごとに嫌らしい呻き声を漏らして俺を攪乱。しても尚、敗北して子供の様に地団駄を踏んでいる。

「卑怯ですよ! なんで序盤は私の方が優勢だったのに、終わってみれば惨敗なんですか!? インチキしてますねこーちゃん!」

「インチキなんて使うかよバーカ。俺は純粋な実力でしかしてねえよ。ついでに最初の頃お前の方が優勢だったのはワザとだ。今度こそ行けると勝ち誇っている相手に逆転してどん底に叩き落すのって気持ちいからな」

「性格悪い! くぅうう! もう一戦です! 次こそは、次こそは勝てる気がします! 次こそはその伸びに伸びた天狗の鼻をへし折って脳天に叩きつけてあげますよ!」

 俺の返答を聞く前にキャラ選択画面で試行錯誤に使い易いキャラを模索する鈴音。
 典型的な勝つまでやるタイプでこういった相手の方が面倒なんだよな……。
 本気で勝ちに行けば拗ねるし。ならワザと負ければ手を抜かれたと拗ねる……弱い奴程そういった傾向が強い。八方塞で次で18回目の対戦になるぞ……。ふわぁ……眠い。

「次でラストな。もう夜遅いし」

「分かりました。私が勝てばラストにしてあげます!」

 鈴音が不吉な事を言って開始される19戦目。
 鈴音はこのゲームは初心者と言っており、最初は右も左も分からない素人だったが、流石に18戦もしていれば慣れて来て、最初の頃よりかは苦戦を強いられる。
 自分にとって使い易いキャラも見つけたのか動きが良くて回避、攻撃、翻弄を駆使して闘うが—————残念だったな。少し本気で行こう!

「ちょ! え、待って! そこでそれ!? ってコンボ、え!? よしまだ落されてない、って、なんでこっちの方に跳んで————うぇええ!? 凄い勢いで落下じょうがいしたんですが!?」

 ブランクは多少あったが、旧作の時、地元で俺に勝った奴は殆どいない。
 ……おかげで「絶対にお前が勝つからつまらない。別のゲームしようぜ」と誰も遊んでくれなくなったが……。
 
 俺に熟練のコンボ&急直下のメテオを喰らって敢え無く敗北した鈴音は本気で拗ねた。
 部屋の隅で体育座りをして頬を膨らまして、その目尻には涙がある。やっぱり子供だな。

「おいおい悪かったって鈴音。少し大人げなかった。あれは初心者にするには質が悪かったよな。次は少し手加減してやるから」

「手加減されて勝っても全然嬉しくないですよーだ」

 ……マジで面倒くさいなコイツ。
 だけど、本当にアイツと似ている。あいつも拗ねる時はこうやって体育座りで俺に背中を向けてたな。
 鈴音の後ろ姿と幼馴染の後ろ姿を重ねた俺は、はぁ……とため息を吐き。

「まあ何事も練習が全てだ。これから練習すれば自ずと上達するだろう。初心者にしては良い動きしてたし、もう少し触れば俺を倒せるかもな」

「ふん。今更取り繕っても嬉しくありませんよーだ——————けど、そこまで言うのでしたら頑張ってみましょう! その為にも練習相手になって貰いますから! さあもう一戦です! 今日は寝かせませんよ!」

 こいつの清々しい切り替えように素直に脱帽するわ。
 この調子だと本気で俺を寝かせるつもりもなくぶっ通しで徹夜する勢いだぞ……。

「悪いが今日はここまでだ。そろそろ寝ないとマジでヤバい」

「何を言ってるんですか。明日は土曜ですよ? ならゲームできるじゃないですか」

「社会人舐めるな学生。社会人は土曜でも仕事なんだよ」

 俺が属する営業課は基本的には土日休みの部署だが、繁忙期や重要な仕事があれば休日出勤を余儀なくされる。明日は期日が近い重要書類の作成をしないといけないから出勤しないといけないのだ。

「むぅー1人でするのはつまらないですよ。ですが、仕事でしたら仕方ありませんね。私は居候の身ですから文句を言える立場ではありません」

 流石の鈴音も仕事がある俺を無理強いは避けたのかゲーム機の電源をオフにする。
 俺に構わずゲームしてればいいのに、音を立てるのは気が引けたのだろうか。

「それではお休みなさい、こーちゃん」

「あぁ、お休み」

 鈴音が電気を消して部屋は真っ暗になる。
 少し目を凝らせば眼前の物を捉える事は出来るが、そんな暇つぶしをするつもりはない。
 俺は完全に視界をシャットする為に瞼を閉じる。

 今更だが、俺って凄い危うい立場じゃねえのか?
 男の部屋に未成年を連れ込んでいるって。何もしていないと言っても世間は信じてくれないだろう。
 それにもし、万が一にも鈴音こいつのお袋さんが俺を誘拐で訴えてきたら……俺の人生バッドエンドだぞ。
 ……はぁ、この生活はいつまで続くんだか。
 無理に追い出して、次の宿泊先で身売りなんてすれば罪悪感で押しつぶされそうだし。早く鈴音とお袋さんの溝が埋まる事を祈るしかない。
 まあ……今の生活が存外悪くないと思っている俺は、もう手遅れかもしれないがな。




 鈴音が俺の家に居候し始めて4日目の朝を迎えた。
 現在の我が家では鈴音が料理担当を担ってくれている。
 俺が仕事に行っている間に鈴音が俺が渡した金で材料を購入。勿論、制服ではなく私服だ。
 そんで購入した材料で朝昼晩と、ってまだ昼は一緒に食べた事はないが。
 一人だった頃は弁当漬けだった俺は鈴音が飯を作ってくれることで助かっている。
 鈴音は料理が上手で、栄養バランスもしっかり考えてくれている。
 こいつ、将来良い嫁さんになるかもな、家出する不良少女だけど。

「んじゃ、ご馳走さん。スーツもアイロンかけてくれてるみたいだしありがとな。明日は休みだと思うから、帰ってきたら昨日の続きをしようか」

「ふふっ。でしたら今日の昼はがっつり練習して、夜は度肝を抜かせてあげますから覚悟しておいてくださいね!」

 …………一応コイツ学生なんだよな?
 今更だが学校とか大丈夫なのか? 学生がこんな昼間っからゲームって、コイツの将来が不安だ。
 料理とか掃除とかは大変助かっているが、やっぱり早く帰ってくれた方が良いというのが本音だ。
 だが、こいつが滅茶苦茶頑固なのはこの3日間で嫌って程理解している。
 ホームシックになって帰ってくれることを祈るだけか、と思いながら俺は仕事に出かけようとした時。

「少し待ってくださいこーちゃん。忘れものですよ」

 扉を開けて半身外に出た俺を鈴音が布で包まれた箱を俺に渡す。

「なんだこれは?」

 俺が尋ねると鈴音はふふんと胸を張り。

「弁当です。これでこーちゃんは私の味をお昼にも味わえますから恋しくないでしょう」

 全然お前の料理を恋しいと思った事はないが。

「弁当って。この3日間で作ってくれなかったのになんで……」

「作りたくても作れなかったんですよ。こーちゃんの家には弁当箱が無かったんですから。昨日、少し材料費が浮いたので安物の弁当箱を買ったのです。これで仕事の日は私が弁当を作ってあげれます」

 そう言えばキッチンに見覚えのない箱があったな……あれ弁当箱だったのか。
 
「まあ、色々言いたい事はあるが、素直に感謝するよ。昼飯代が浮くし、お前の料理は上手いからな」

「そう言っていただけると嬉しい限りです。それを食べてお仕事頑張ってください—————」

 ニシッと歯を見せ笑顔を浮かべる鈴音。
 本当にこいつは良い嫁さんに、

「——————私を養うために!」

「もう色々と台無しだ! てか誰が養うか! もう、本当に家に帰れお前!」
 
 
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