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男性と迎える初めての朝
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私は泊めてくれたおじさんに鈴音と名乗った。
私の本名は田邊鈴音だけど、詮索や情報を多く与えると面倒だから名前だけ教える。
おじさん……って、この人私に名前教えて貰ってないんだけど、家に帰り付いた途端に酒で眠いとか言って、私にベットを貸してソファで寝始めたんだけど……。
おじさんの部屋で2人キリ。
おじさんの部屋はこれが1人暮らしって感じで汚い。ゴミは落ちてて脱いだ服も散乱している。
よくこんな所で寝られるね……って、野宿していた私が言える言葉ではないか。
ぐるぐると私のお腹が鳴る。
そう言えば何も食べてないんだっけ。
私がキッチンの戸棚を確認すると、そこにはカップラーメンがあった。
人の家の物を勝手に食べるのは忍びない。後で本気で謝ろう。
私は静かにお湯を沸かしてカップラーメンを作り、音をあまり立てずに麺を啜る。
三日続けてカップラーメンって初めてだな……。栄養バランス崩壊中。
その後は何も起こらぬままに朝を迎える。
私はいつも目覚まし無しで起きてたから体感で6時30分に目を覚ます。
いつも朝はお母さんと一緒に朝食や弁当を作ってたから、この時間に起きるのが定着している。
おじさんはまだ寝ている。酒の睡眠促進の作用でぐぅぐぅ眠っている。
私は足音を立てずにキッチンに向かう。
ここに泊めて貰う条件でご飯を作ること。
私は約束を反故は出来ずに、朝食を作るために冷蔵庫を確認。
……あまり材料は無かった。独身の人の冷蔵庫ってこんな物なのかな。
まあ、必要最低限の食材はあるから、簡単な物を作ろう。
ご飯は炊飯器で炊いて、味噌は地元で使ってた物とは違うメーカーだけど差異はないよね。卵焼きにウィンナーとを軽く焼いて、何かさっぱりとしたきゅうりの浅漬けでも作ろう。
味噌汁とおかずは済んで、残りはご飯が炊きあがるのを待つだけ。
炊きあがるまで手持無沙汰になった私はおじさんがハンガーにかかったスーツを見る。
スーツはヨレヨレでどこか汚い。不潔であるが仕事で忙しい身ではそこまで余念がないのだろう。
仕方ない。お礼の追加でスーツとシャツをアイロンにかけよう。って、このアイロン埃が被ってるんだけど、どれだけ使ってないのかな……。
なんだか、だらしないお父さんが出来た気分だよ。
食事を作り終え、アイロンがけも終わった頃、おじさんを起こす事にした。
「起きて」
私は毛布に包まりソファで眠るおじさんを揺らし起こすが、起きない。
「起きて!」
次は強めに言うが、うぅ……と呻き声を漏らすだけで起きない。
起きるのを不精するおじさんに私はカチンと来て、耳元に口を近づかせ。
「起・き・て・く・だ・さ・い!」
一音一音ハキハキと叫び、やっとでおじさんは飛び跳ねるように起きる。
「な、何事だ!?」
「何事だじゃないですよ! 起きてくださいって何度も言ってるじゃないですか!」
頭はボサボサ、口元に涎が渇いたる、寝惚けた目。
この人がお母さんの幼馴染に似てるってだけでなんだか遣る瀬無い気持ちになるよ。
しかも、おじさん私の事を幽霊を見る様な眼で凝視しているしね……。
「…………あの。私の顔をそんなに凝視されると困るんですけど……」
「あー悪い。なんかお前が昔の知り合いに似ていてな」
私の眉が動く。
私がおじさんの昔の知り合いに似ている……? まさかね。
「それ、昨晩にも言ってましたが、少なくとも私はおじさんの事は知りませんので」
顔は似ているって言ってもおじさんとは初対面だから嘘は言ってない。
私の会話の内容はスルーして、おじさんはある一部分が気になったのか。
「おじさん、って……。確かに俺は30代だがまだ会って間もない相手におじさん呼びはないだろ。社交辞令として御兄さんと呼んでも」
何言ってるのかこの人は。
女性じゃあるまいし、若く見られたい願望でもあるのか。
まあ、相手は一宿の恩がある相手、ここは気前よく飛び切りの笑顔を浮かばせ。
「お兄さんですか……。ならいっそ、お兄ちゃん♡って呼んであげましょうか?」
「………………それは止めてくれ。犯罪臭がぷんぷんするから……」
引かないでよ。自分で言っててかなり恥ずかしいんだから。
「そう言えばお前の名前は聞いてたけど、俺の名前は言ってなかったな。俺は古坂康太だ」
おじさんは思い出したかの様に自己紹介をする。
古坂康太さん、か。そう言えば、お母さんの夜泣きの時に稀に『こーちゃん』って呟いていたな。
こさかこうた……増々似ている。ここは1つ牽制してみるか。
「康太さん、ですか。ならこーちゃんですね。宜しくですこーちゃん」
私はおじさんの反応を見る為にこーちゃんと呼ぶが、おじさんは平然としている。
かなり年下の私に馴れ馴れしくあだ名で呼ばれる事に不快感があるのかは分からないけど、眉根を寄せるだけでそれ以外の反応はない。やっぱり気のせいか。けど、私が気に入ったからこーちゃん呼び続行で。
「お前さ。喋り方は礼儀正しい感じだけど、その大人に対しての態度はどうなんだよ」
「この話し方は中学の名残りです。私、中学は私立の女子中に通ってまして、そこでは言葉使いに厳しかったですから、それが根付いているんでしょう。ですが、この生意気な性格は私の素です」
慣れ親しんだ人、お母さんとかなら砕けた口調になるけど、流石に親しくない相手には敬語で話す。
まあ、馴れ馴れしい態度と合算してプラマイゼロってところだけど。
「それでこーちゃん」
「だから、そのこーちゃんって呼び方は止めろ。色々と心に来るからよ。せめて康太さんに」
「それでこーちゃん」
「コイツ……マジで人の話を……。まあ、いいや。んで。なんだよ?」
意地の張り合いで私に勝てない事を理解したおじさん改めこーちゃん。
私はテーブルに置かれる湯気の立った朝食を指差して。
「朝食、出来てますよ」
え? と気づいていなかった様子のこーちゃん。鼻が詰まっているのかな。
「旨そうな匂いだな」
「匂いだけじゃなくて味も良いと思いますよ。冷蔵庫にあった材料は少なかったですから、献立は侘しいですが」
私はお母さんから料理を教わった。
お母さんは料理が上手で、お金が無い家庭で最も節約ができるのは外食せずに自炊すること。
だから殆どは内食で、めったなお祝い事がない限りはお母さんと料理して来た私のレベルは高いはず。
自分で言った通り、冷蔵庫の材料は少なかったから本当に簡単な物しか作れなかったけど。
独身のこーちゃんにとって出来立ての朝食は久々なのか、感動で涙を流しているけど……早く食べないと冷めるんだけど。
「折角作ってくれたやつだ。有難く頂くとしよう! 頂きます!」
「どうぞ召し上がれ」
私はこーちゃんと一緒に食卓を囲む。
こーちゃんは味噌汁を一口飲むと固まる。
「どうしましたか? お口に合いませんでしたか?」
「い、いや……上手いんだが……」
ならなんで固まるのかな……?
こっちとはしては美味しくない物を作ったつもりはないから、そんな反応されると心配なんだけど。
その後は互いに無言で箸を進め、私たちは全部残さず朝食を食べ終え。
私が皿の片づけをして、こーちゃんは身支度を始めるんだけど、何か探し物なのか部屋をキョロキョロ見て。
「俺、ここにスーツ掛けてたはずだが?」
「スーツでしたらこちらにシャツと一緒にあります」
先ほどアイロンを掛けて一肌程度に温もりが残るスーツとシャツを手渡す。
「これってお前、アイロンが掛かってるじゃねえか」
「はい。泊めて貰ったお礼に食事だけでは心苦しかったですから、シャツやスーツにアイロンをかけておきました」
「そこまでしなくても良かったのによ。俺が提示した謝礼は朝食だけだったのに」
「でしたら私のお節介として受け取ってください。おつりは要りませんので」
私が綺麗に伸ばされたシャツとスーツを渡すとこーちゃんは着替え始める。
身売りをしていた私が言える事ではないけど、男性経験が無い私は男の裸に抵抗があり、女性がいる部屋で着替えを始めるこーちゃんに私は背中を向ける。
着替える傍らにこーちゃんは私に尋ねる。
「なあ、鈴音。お前、なんで家出なんてしたんだ?」
…………遂に聞かれたか。
家出の理由を聞かれる予想や覚悟はしていた。
当たり前か。家出の理由は家主なら気になるはず。
ふぅ……と息を呼吸を整えた私はクスッと笑い。
「私が家出した理由………ですか」
泊めて貰ったお礼に私はこーちゃんに事の経緯を話す。
私の本名は田邊鈴音だけど、詮索や情報を多く与えると面倒だから名前だけ教える。
おじさん……って、この人私に名前教えて貰ってないんだけど、家に帰り付いた途端に酒で眠いとか言って、私にベットを貸してソファで寝始めたんだけど……。
おじさんの部屋で2人キリ。
おじさんの部屋はこれが1人暮らしって感じで汚い。ゴミは落ちてて脱いだ服も散乱している。
よくこんな所で寝られるね……って、野宿していた私が言える言葉ではないか。
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私がキッチンの戸棚を確認すると、そこにはカップラーメンがあった。
人の家の物を勝手に食べるのは忍びない。後で本気で謝ろう。
私は静かにお湯を沸かしてカップラーメンを作り、音をあまり立てずに麺を啜る。
三日続けてカップラーメンって初めてだな……。栄養バランス崩壊中。
その後は何も起こらぬままに朝を迎える。
私はいつも目覚まし無しで起きてたから体感で6時30分に目を覚ます。
いつも朝はお母さんと一緒に朝食や弁当を作ってたから、この時間に起きるのが定着している。
おじさんはまだ寝ている。酒の睡眠促進の作用でぐぅぐぅ眠っている。
私は足音を立てずにキッチンに向かう。
ここに泊めて貰う条件でご飯を作ること。
私は約束を反故は出来ずに、朝食を作るために冷蔵庫を確認。
……あまり材料は無かった。独身の人の冷蔵庫ってこんな物なのかな。
まあ、必要最低限の食材はあるから、簡単な物を作ろう。
ご飯は炊飯器で炊いて、味噌は地元で使ってた物とは違うメーカーだけど差異はないよね。卵焼きにウィンナーとを軽く焼いて、何かさっぱりとしたきゅうりの浅漬けでも作ろう。
味噌汁とおかずは済んで、残りはご飯が炊きあがるのを待つだけ。
炊きあがるまで手持無沙汰になった私はおじさんがハンガーにかかったスーツを見る。
スーツはヨレヨレでどこか汚い。不潔であるが仕事で忙しい身ではそこまで余念がないのだろう。
仕方ない。お礼の追加でスーツとシャツをアイロンにかけよう。って、このアイロン埃が被ってるんだけど、どれだけ使ってないのかな……。
なんだか、だらしないお父さんが出来た気分だよ。
食事を作り終え、アイロンがけも終わった頃、おじさんを起こす事にした。
「起きて」
私は毛布に包まりソファで眠るおじさんを揺らし起こすが、起きない。
「起きて!」
次は強めに言うが、うぅ……と呻き声を漏らすだけで起きない。
起きるのを不精するおじさんに私はカチンと来て、耳元に口を近づかせ。
「起・き・て・く・だ・さ・い!」
一音一音ハキハキと叫び、やっとでおじさんは飛び跳ねるように起きる。
「な、何事だ!?」
「何事だじゃないですよ! 起きてくださいって何度も言ってるじゃないですか!」
頭はボサボサ、口元に涎が渇いたる、寝惚けた目。
この人がお母さんの幼馴染に似てるってだけでなんだか遣る瀬無い気持ちになるよ。
しかも、おじさん私の事を幽霊を見る様な眼で凝視しているしね……。
「…………あの。私の顔をそんなに凝視されると困るんですけど……」
「あー悪い。なんかお前が昔の知り合いに似ていてな」
私の眉が動く。
私がおじさんの昔の知り合いに似ている……? まさかね。
「それ、昨晩にも言ってましたが、少なくとも私はおじさんの事は知りませんので」
顔は似ているって言ってもおじさんとは初対面だから嘘は言ってない。
私の会話の内容はスルーして、おじさんはある一部分が気になったのか。
「おじさん、って……。確かに俺は30代だがまだ会って間もない相手におじさん呼びはないだろ。社交辞令として御兄さんと呼んでも」
何言ってるのかこの人は。
女性じゃあるまいし、若く見られたい願望でもあるのか。
まあ、相手は一宿の恩がある相手、ここは気前よく飛び切りの笑顔を浮かばせ。
「お兄さんですか……。ならいっそ、お兄ちゃん♡って呼んであげましょうか?」
「………………それは止めてくれ。犯罪臭がぷんぷんするから……」
引かないでよ。自分で言っててかなり恥ずかしいんだから。
「そう言えばお前の名前は聞いてたけど、俺の名前は言ってなかったな。俺は古坂康太だ」
おじさんは思い出したかの様に自己紹介をする。
古坂康太さん、か。そう言えば、お母さんの夜泣きの時に稀に『こーちゃん』って呟いていたな。
こさかこうた……増々似ている。ここは1つ牽制してみるか。
「康太さん、ですか。ならこーちゃんですね。宜しくですこーちゃん」
私はおじさんの反応を見る為にこーちゃんと呼ぶが、おじさんは平然としている。
かなり年下の私に馴れ馴れしくあだ名で呼ばれる事に不快感があるのかは分からないけど、眉根を寄せるだけでそれ以外の反応はない。やっぱり気のせいか。けど、私が気に入ったからこーちゃん呼び続行で。
「お前さ。喋り方は礼儀正しい感じだけど、その大人に対しての態度はどうなんだよ」
「この話し方は中学の名残りです。私、中学は私立の女子中に通ってまして、そこでは言葉使いに厳しかったですから、それが根付いているんでしょう。ですが、この生意気な性格は私の素です」
慣れ親しんだ人、お母さんとかなら砕けた口調になるけど、流石に親しくない相手には敬語で話す。
まあ、馴れ馴れしい態度と合算してプラマイゼロってところだけど。
「それでこーちゃん」
「だから、そのこーちゃんって呼び方は止めろ。色々と心に来るからよ。せめて康太さんに」
「それでこーちゃん」
「コイツ……マジで人の話を……。まあ、いいや。んで。なんだよ?」
意地の張り合いで私に勝てない事を理解したおじさん改めこーちゃん。
私はテーブルに置かれる湯気の立った朝食を指差して。
「朝食、出来てますよ」
え? と気づいていなかった様子のこーちゃん。鼻が詰まっているのかな。
「旨そうな匂いだな」
「匂いだけじゃなくて味も良いと思いますよ。冷蔵庫にあった材料は少なかったですから、献立は侘しいですが」
私はお母さんから料理を教わった。
お母さんは料理が上手で、お金が無い家庭で最も節約ができるのは外食せずに自炊すること。
だから殆どは内食で、めったなお祝い事がない限りはお母さんと料理して来た私のレベルは高いはず。
自分で言った通り、冷蔵庫の材料は少なかったから本当に簡単な物しか作れなかったけど。
独身のこーちゃんにとって出来立ての朝食は久々なのか、感動で涙を流しているけど……早く食べないと冷めるんだけど。
「折角作ってくれたやつだ。有難く頂くとしよう! 頂きます!」
「どうぞ召し上がれ」
私はこーちゃんと一緒に食卓を囲む。
こーちゃんは味噌汁を一口飲むと固まる。
「どうしましたか? お口に合いませんでしたか?」
「い、いや……上手いんだが……」
ならなんで固まるのかな……?
こっちとはしては美味しくない物を作ったつもりはないから、そんな反応されると心配なんだけど。
その後は互いに無言で箸を進め、私たちは全部残さず朝食を食べ終え。
私が皿の片づけをして、こーちゃんは身支度を始めるんだけど、何か探し物なのか部屋をキョロキョロ見て。
「俺、ここにスーツ掛けてたはずだが?」
「スーツでしたらこちらにシャツと一緒にあります」
先ほどアイロンを掛けて一肌程度に温もりが残るスーツとシャツを手渡す。
「これってお前、アイロンが掛かってるじゃねえか」
「はい。泊めて貰ったお礼に食事だけでは心苦しかったですから、シャツやスーツにアイロンをかけておきました」
「そこまでしなくても良かったのによ。俺が提示した謝礼は朝食だけだったのに」
「でしたら私のお節介として受け取ってください。おつりは要りませんので」
私が綺麗に伸ばされたシャツとスーツを渡すとこーちゃんは着替え始める。
身売りをしていた私が言える事ではないけど、男性経験が無い私は男の裸に抵抗があり、女性がいる部屋で着替えを始めるこーちゃんに私は背中を向ける。
着替える傍らにこーちゃんは私に尋ねる。
「なあ、鈴音。お前、なんで家出なんてしたんだ?」
…………遂に聞かれたか。
家出の理由を聞かれる予想や覚悟はしていた。
当たり前か。家出の理由は家主なら気になるはず。
ふぅ……と息を呼吸を整えた私はクスッと笑い。
「私が家出した理由………ですか」
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