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6章

靴紐

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 高校の陸上を残念な結果で終えた光は、ギターを背中で背負い、学生鞄を肩にかけて玄関で靴紐を結ぶ。
 先日、光の高校での陸上に終止符が打たれた。
 光は本校の陸上部で行われる大会出場を懸けた選抜テストに参加をして、結果は中距離の1500mでは部で2位のタイムを残した。
 だが、選抜テストから3日経過して尚、足の疲労は消えないでいる。
 
 当たり前だ。去年負った光の怪我は未だに完治はしていないのだから。
 
 選抜テストの後、光は千絵の伯母である優香の整体院に行くと、鬼の形相の優香が出迎えた。
 実は優香も光を見送った後にこっそりテストが行われる競技場に来ていたらしく、光の違和感に気づいていたようだ。そして怪我を押して走る光を応援した部分もあるが、整体師としては無茶したことを容認することは出来ず、終わった後に説教&折檻を浴びせたのだった。

 光は限界を超えて走った影響で、怪我は悪化。2位のタイムで参加資格を得ても辞退せざるを得なかった。
 だが、今の光は晴々しく未練はない。
 残念な結果ではあったが、高校の最後に光が昔から憧れていた御影と良い勝負が出来て満足である。
 
「我儘言って軽音の方は休ませて貰ってたから、今日からは練習に参加しないとね。先輩たちは今年が最後なんだから足を引っ張るわけには…………」

 意気込む光だったが、中々結べぬ靴紐に悪戦苦闘していたのだが、ムキになって力を無駄に込めてしまったのか、ブチッと靴紐が千切れてしまった。

「…………幸先悪いな。今日、なんか嫌な事があるかも……」

 験を担ぐタイプではない光だが、心の中では少し嫌な予感がしていた。
 

 千切れた紐を自宅にあった陸上のシューズで購入していた紐と交換してから登校する光。
 元々時間に余裕を持たせるために少し早めに出るのが幸いしてか、紐の交換に時間を取っても十分間に合う時間。実際、始業の10分前には靴箱に辿り着いていた。

「はぁ……家で練習する為ってことでギター持ち帰っているけど、流石にギターを背負からいながらの登校は疲れるな……」

 重いうえに歩きにくいギターの存在に若干辟易しながら、光は自身の靴箱の扉を開く。

「…………ん?」

 靴箱を開き、上履きと交換しようとした光はある物を発見。
 光の上履きの上に置かれている便箋。なんだこれはとそれを手に取る。

「………………ラブレター?」
 
 綺麗な便箋に包まれた手紙。その見た目はラブレター。
 電子化が進み、告白さえ携帯で済まされる時代に何とも古風なと光は感心半分呆れ半分の息を吐く。
 まあ、光自身はラブレターを貰った事が過去に幾度かある。
 男子は勿論、後輩女子からも貰った事があった光だが、それは中学まで。高校では初めてだった。

 周りを見渡すも、自分を観察している者はいない。
 この場合、遠目から手紙を受け取ったのかを確認することが多いが、誰もいない。
 悪戯?と思ったが、一昔前の悪戯をするのは考えにくい。
 もしラブレター本来の役目を担った手紙なら、光は面倒だと嘆息する。

「私、誰かと付き合うつもりは微塵もないからお断りなんだけど…………」

 興味ない手紙なら刻んでゴミ箱に捨てるのだが、光はそんな無慈悲な行為はしない。
 もしこの手紙がラブレターなら、書き手はどんな想いでこの手紙を書いたのか、どんな気持ちで光の靴箱に入れたのか、光はその想いを無下には出来なかった。

「面倒だけど、自分の口で断らないとね」

 光は重たい指でノリで留められた封を剥がす。
 中には薄いピンクの手紙で、後輩からの手紙かと予想した。
 
「ある意味、男子よりも断るの辛いんだけどな……」

 男子なら振られた際は一目散に去るが、女性の場合はその場で泣かれた事がありトラウマである。
 その事を思い出して若干憂鬱気味の光は指で弾くように二つ折りの手紙を開くと——————

「………………………………ッ」

 手紙の内容を見た光は苦笑いを浮かべた。

 

 時が進んで放課後、光は手紙に書かれていた指定の場所に足を運ぶ。
 体育館裏…………にある体育倉庫。学校の授業で使用される道具が収納されている場所で光を待っていたのは、光は倉庫の扉を開くと、先に来ていた人物に向けてため息を吐く。

「こんな回りくどい方法で呼ばなくてもメールれればいいじゃん、千絵ちゃん」

 倉庫にある7段の跳び箱に座り足を泳がすのは、光の幼馴染しんゆうの千絵だった。
 
「ふふふっ、どう光ちゃん。私からの偽装ラブレターは、ドキドキした?」

「面倒ごとだと思ってドギマギしたけどね」

 ラブレターと思われた手紙の送り主は目の前でしてやったりとドヤ顔を浮かべる千絵だった。
 手紙の内容は「放課後に体育館裏の倉庫に来てください」だけで送り主の名前は記載されていなかったが、流石は幼馴染か、文字の書体で光は送り主が千絵だと断定出来た。
 千絵もそれは見越してたという反応で、まさか、最初の段階で捨てていた悪戯の線が正解だったとはと光は子供じみた悪戯をする幼馴染に嘆く。
 
「それで千絵ちゃん。私を呼んだのはなに? まさか、こんな悪戯だけではい終了ってわけじゃないよね?」

「……………まあね」

 先ほどまでの陽気な表情から一転して真面目な表情となり、千絵から放たれる空気が変わり光は驚く。
 千絵は、トウ、と跳び箱から飛び降りると、光との距離を詰める。
 数歩程度の距離まで近づくと、千絵は真っ直ぐな目で光を見る。そして決心したのか、一瞬強く結んだ唇を解くと、光に言った。

「単刀直入に聞くよ。光ちゃん——————太陽君のこと、どう想っているの?」
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