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6章

○○〇〇の秘訣

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 気まずい空気が流れる。
 殆ど勢い任せの励ましだったのか、冷静を取り戻した千絵はぷるぷると顔を真っ赤に震える。
 太陽も幼馴染に顔を近づけられての励ましに流石に羞恥を煽られたのか、太陽も顔を真っ赤にしている。
 互いに真っ赤な顔を見て見ぬフリをして硬直するしか出来ず。
 この現状、客観的に見えて——————

「あぁー! 太陽兄ちゃんが女とキスしてる!」

 変声期前の子供の声に固まっていた千絵と太陽は顔を離して、その声が聞こえた方へと顔を向ける。
 
「お、お前は弦太! どうしてお前がここに!」

「はあ? 子供は外で遊ぶものだろうが。子供が公園に来てて可笑しくないだろ?」

 太陽の問いに生意気な口調で返す子供は弦太と呼ばれる少年。

「太陽君の知り合い?」

 必死に平常を取り繕う表情の千絵の疑問に太陽は頷き。

「あぁ。近所に住んでる小3のガキで、近所って事でたまに子守りをしたりするんだ」

「そうなんだ。私は高見沢千絵。宜しくね弦太君。後、さっきのはキスじゃないから。それだけはよーく理解してくれるかな?」

「お、おう……なんかこの姉ちゃん、おっかねぇ……」

 太陽も弦太の言葉に、分かる、と頷く。
 千絵は稀に笑顔の方が怖い事もある。弦太も本能でそれを察したのだろう。

「つか弦太。こんな暑い中で外で遊ぶなんて感心だな」

「って言っても、母ちゃんが家にいると掃除の邪魔だからって外に追い出したんだよ。ちぇ、折角もう少しでラスボスだったのによ」

 子供には世知辛い世の中だろう。
 近年は公園とかで遊ぶ事を禁ずる場所も増えてると聞く、なら家で遊ぶとなれば家族の方から外で遊べと怒られる。この弦太という少年もその口だったのだろう。

「だから彩香を誘ってこの公園で遊ぼうと思ってここに来たんだよ」

「彩香? って、誰…………うわぁ!」

 太陽は聞きなれない名前に首を傾げると驚きの声をあげる。
 弦太の存在で気づかなかったが、弦太の隣且つ千絵の前に少女がいた。
 太陽は気付いてなかったが、千絵は気付いていたのか驚く事はなく少女と同じ目線になる様に屈み。

「君が彩香ちゃん?」

 千絵の問いに少女はこくりを頷く。どうやらこの少女が弦太が彩香と呼ぶ子らしい。
 彩香という少女はじーっと千絵を凝視する。
 千絵は理解不能の凝視に頬を引きつらせ。

「ど、どうしたのかな、彩香ちゃ—————」

 千絵が尋ねると千絵のを凝視していた彩香は指を差し。

「おっぱいデカい!」

 予想外の少女の一言に太陽はぶふぅ!と吹き出す。
 彩香に続いて弦太も千絵の胸を見て驚きの表情で。

「マジだ! この姉ちゃんのおっぱいデケェ! 母ちゃんよりもめちゃくちゃ!」

 子供ながらのド直球のセクハラに千絵は顔を紅葉の様に燃え上がらせて胸を手で覆う。
 そして何故か太陽を涙目で睨み。

「何故俺を睨む何故にらむ!?」

 千絵の理不尽な八つ当たりに後ずさる太陽だが。彩香ははいはい!と手を挙げ。

「お姉ちゃんに質問です! おっぱいはどうすれば大きくなりますか!?」

 好奇心旺盛な女性特有の質問に千絵の表情は更に強張る。
 太陽と千絵だけだった時の小っ恥ずかしい雰囲気は彼方へと消え、子供から送られるセクハラに千絵は苦悩する。
 子供からの質問を流す事も出来ず、えっと、えっと……とあたふたする千絵は妙策を思い浮かんだと人差し指を立て。

「お菓子を沢山食べれば大きくふぐっ!」

「子供に嘘を教えるな医者志望。信じたらどうするんだ、馬鹿」

 事実無根を教えようとする千絵の頭を鋭く叩く太陽。
 子供は純粋だ。
 胸に悩む女性が胸が大きい女性からの胸を大きくする為の秘訣、それが嘘だとしても鵜呑みにしてしまう。
 もし仮にお菓子を食べて大きくなったとしても、同時進行で別のお腹ぶぶんも大きくなるだろうから、それを阻止する為に太陽は嘘を教える医者志望を軽く叱責する。

 流石に千絵も反省か、特に言い返す事も無く、次は真面目に答えるべくコホンと咳ばらいを入れ。

「胸を大きくするのは色々な所説があるけど。やっぱり食事の管理は大事だね。鳥のモモ肉も良いって言うし、豆乳も飲んだ方が。けど、胸の大きさはどちらかと言うと遺伝子が大きく関係するし、私のお母さんも胸が大きいから、私もその遺伝子の結果で多分胸が大きくなったと思うな。けど、最近聞いた話だと胸を大きくする方法は沢山深呼吸をすること。それで多くの酸素が体を巡って細胞を活性化。ついでに肺を鍛える事で胸筋も鍛えられて胸が大きくなった事例もあるらしく。あと—————ふぐっ!」

「小学生になに難しい事言ってるんだ。あと、なんで眼鏡をかけ始めた」

 持参していたのかポケットから眼鏡を取り出したかと思えば眠くなる様な増胸の講座を始める千絵。
 途中から小学生たちは理解が追い付かないのか目が死んでいる。
 恐らく、太陽が叩いて止めなければ千絵はいつまでも説明を続けていただろう。
 
 が、途中で講座を中断された千絵はピキピキと青筋を痙攣させ。

「なに叩いてくれてるのかな太陽君は! 太陽君が真面目に言えって言うから持ってる知識をフル活用して説明していたのに!」

「説明するにしてももっと分かり易く言いやがれ! しかも途中で結局は遺伝子が重要って夢も希望も無いこと言いやがって! 先ある子供が自分の母親を見て絶望したらどうするんだ!」

「夢も希望もないってなに! 胸の中には男の夢とロマンが詰め込まれてるっていいたいの!?」

「一言もそんなこと言ってねえ! なに話を飛躍してやがるんだ。それ言えば変態だろうが!」

「太陽君は変態だからそうかもね! どうせ男は女性の胸ばっかり! 太陽君の部屋にあったエロ本も胸の大きい女性が多かったしね!」

「ちょっと待て! なんでそのことを!? お前、いつそれを!?」

「中学の時に太陽君の部屋に遊びに行ったとき。光ちゃんと。流石にベットの下に隠すのは安直すぎるよ」

「ぬぉおおおおおおおおお! 衝撃の事実に心が折れる!」

「あの~痴話喧嘩するカップルさん、近所迷惑になるから静かに」

「「カップルじゃねえ(ない)!」」

 強く反論するも小学生の正論にヒートダウンさせる太陽と千絵。
 弦太はニヤケ面で太陽に言う。

「あのさ、太陽兄ちゃん。彼女とイチャイチャするなら俺達がいないときにしてくれよな」

「だから彼女じゃねえって言ってるだろうが。それ以上からかうなら鉄拳制裁するぞマセガキ」

 太陽の言葉が響いてないのか、それとも太陽の照れ隠しだと思っているのか、弦太は太陽を揶揄する表情が崩れない。
 その一方で胸の事を千絵に尋ねた彩香は自分の幼い胸をぺたぺた触り。

「お姉ちゃんの言っている事はよく分からなかったけど……私のおっぱい大きくなるかな……」

 彩香はチラっと弦太の方を見る。
 その態度から千絵はピンと来たのか再び視線を合わせる為に屈み、彩香に耳打ちする。

「もしかして彩香ちゃんって弦太君の事が好きなの?」

 彩香のビクッ!と体を跳ねた後に狼狽する反応から図星だったらしい。
 しおらしくなった彩香は弱く頷く。
 初々しいと千絵は頬を零しそうになると彩香にアドバイスを送る。

「大丈夫だよ彩香ちゃん。彩香ちゃんはまだ小学生で成長期だってこれからだから、望みは沢山あるよ。それにね—————」

 千絵はチラっと太陽の方を目配せした後にクスリと笑い。

「女の子は大好きな人の為なら綺麗になれる。その好きだって気持ちだけはずっと持っててね。そうすれば、いつか絶対に彩香ちゃんは綺麗で素敵な女性になるから」

 女性は恋をすれば綺麗になる。
 医学的に完全に証明はされてないが、女性は恋をすればホルモンが活性化する説が濃厚だとか。
 千絵はその事を踏まえて言ったのではなく、ただ、自分がそうだったように。
 恋をすれば人は大きく変われる。暗く引っ込み思案だった千絵が好きな人と出会えて明るくなったように。彩香にもその気持ちを持っていて欲しいと願う想いだった。

「おい千絵。なにこそこそと話してるんだ?」

「教えなーいよ。本当に男の子は気楽でいいよね、彩香ちゃん」

「ねー」

 この短時間で仲良くなったのは良いが、はぐらかされて太陽と弦太は互いに顔を見合わせて首を傾げるのだった。
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