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5章
やりたいこと
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今朝決定した文化祭係の総集会。
クラスで決定した代表が学校内の会議室に集まり、文化祭の方針を決定する会。
体育祭係は体育館でそれを執り行われている。
奇しくもクジで選ばれた太陽は渋々とこの会議に集まり、2年生の場所で待機する。
だが、その表情は何処か不機嫌だった。その原因は恐らく、
「……なんでお前がいるんだよ」
「その言葉そのまま返すよ、古坂君?」
太陽はB組、その隣はA組とC組なのだが、隣の席に座るのはA組から代表で出席した元カノの光だった。
恐らく光も文化祭の係に選ばれてこの場にいるのだろう。
「私はクジで運悪く決まったからここにいるだけど。そっちはどうなの?」
「ちっ。理由は一緒かよ」
太陽はイライラの表現か腕を指でトントン叩く。
何に対して苛立っているのか分からないでいる。
元カノが同じ文化祭の係だからか、それとも露骨に苗字で呼ばれているからなのか。
「マジで俺、クジ運悪いな……」
とことん運に見放され今度お祓いに行こうかと本気で考えていると、係が全員集まったのか、事前に決定されていた文化祭委員長が前に立つ。
「今朝決まったばかりなのに集まって貰って申し訳ございません。ではこれから、文化祭の事で会議を執り行いたいと思います」
全員が一礼をして文化祭委員長は話を始める。
「まず、3年生と2年生は去年で経験していると思いますが、1年生は今年が初めてなのでまず説明します。我が校は他の高校と違い、早い段階で体育祭と文化祭を行います。夏休み終わった後の上旬に体育祭を、中旬に文化祭を行いますので日程はぎゅうぎゅうとなっております。理由としましては、私たち3年は受験を控えており、そちらの方に力を入れたい為に行事は早めの段階で終わらせなければいけません」
センター試験などの受験を控えた3年は勉強に集中しないといけない。
その為に全学年で執り行われる行事は他の高校と違い、短期間で終わらすのが定例になっている。
「ですので、先日までGWだった5月の段階から少しずつ準備を進めないといけないのです。本格的に動くのは7月ぐらいからでしょうが、今の段階である程度決めないといけません。まず、学年の代表を2人選考してください。出来れば同性は避けて、男女の組が好ましいです」
男女、ね……と太陽は自分の学年の席を見渡す。
太陽たちの学年は全5組、そして参加している男女比率は1:4。
1は男性、つまり参加している文化祭係の男性は太陽のみだった。
委員長は出来る限り男女の組を要望している為に、1人しかいない男子枠は必然的に太陽となった。
学年代表は更に多くの雑用を押し付けられる避けるべき役職の為に、太陽は陰鬱と深いため息を吐く。
「えっと、男子はB組に決定したとして、女子の方はどうする?」
「えー私は嫌だな……だけど、我儘ばかり言ってられないし、適当にジャンケンはどう?」
女子たちの中で太陽は決定しているらしく、女子枠の方は誰にするのか話し合っている。
「学年の代表って係よりも放課後の時間取られるんだよね……。文化祭の係になって言うのもなんだけど。私、もう直部活の大会があるから、あまりなりたくないんだけど……」
「そう言ったら私もだよ。夏休み前に大会があるから私だってなりたくない」
「って言ってもここにいる女子って全員部活入ってるからその我儘は通用しないよ」
光を除く部活所属の女子3人は苦悩するが、光が小さく手を挙げ。
「別に私してもいいけど?」
「え、本当渡口さん!」
C組の女子が光に確認する。光は頷き。
「私は皆と違って文化系だから大会も無いし。大会がある皆よりも無い私がした方がいいと思って」
「ありがと渡口さん。ならお願い出来るかな?」
「OK。私に任せて」
面倒な仕事を引き受ける光に女子たちからは感謝ムード。
だが、それを聞いていた太陽は更に陰鬱になる。
仕方ないとはいえ、最悪の相手と代表となるのは気が気でない。
「じゃあ、代表は決まったみたいだから、今日はこの辺で終わりにしましょう。次の会議の日程は後日報告するから、今日はこの辺で解散。お疲れさまでした」
「「「「「「お疲れ様でした」」」」」」
今日の集まりは短く、学年の代表を決めただけで終了。
役目は先に決めた方がいいという合理性を望んでの事だろうが、もう少し内容を進めていいのではと太陽は疑問に思う。
だが、その疑問を塗り潰す程の遣る瀬無いため息を吐く。
「なーんでお前が学年代表なんだよ。別に他の奴にさせてもよかっただろ。体育会系文化系関係無く」
「さっき彼女たちも言ってたよね。近い内に大会があるからあまり時間を使いたくないって。なら、大会も無い私がするのは必然でしょ」
帰る際の会議室から靴箱に向かう道中に2人は並んで歩く。
狙ってではなく、ただ2人の目的の場所が一緒で、文句を言いたい為に太陽は歩幅を合わせて歩いているのだ。
「こっちの気分も考えてくれよ。文化祭の係ってだけで憂鬱なのに、元カノと代表組むとか最悪以外のなにものでもねえぞ」
「そうだね。けど、私と古坂くんの関係がどうあれ、文化祭では全く関係ないから、他の人に迷惑をかける訳にはいかない。もし嫌だったら私一人で全部やるから、別に何もしなくていいよ」
「渋々とは言え一度決まったんだ。何もやらない訳にはいかないだろ。……メアドは昔と変わってないぞ」
「……そう。私もだよ」
学年の代表となれば、連絡事である程度のメールや通話は必要だろう。
恋人の関係だった2人は、携帯を所有している故に互いのメアドは交換済みだ。
そして、互いにあの頃からメアドの変更はないと確認した所で、2人は下駄箱に到着する。
「そう言えば、お前、軽音部に所属しているんだから文化祭で演奏するんだろ? 係とかしてて本当に大丈夫なのか?」
「見くびらないで欲しいわね。係も演奏も二足の草鞋を履くぐらいはしてみせるよ。まあ、それよりも先にしないといけない事があるんだけどね」
2人は一緒に下校する訳ではないから、先に靴に履き替えた光は出ようとする。
その背中を太陽は半眼で睨み。
「しないといけない事って、陸上のことか?」
ピクリと光は反応をして振り向かないままに返す。
「そう言えば古坂くんにはバレてたか。……そうだよ。この学校の陸上部は、その種目の成績の良い上位5人しか出場が出来ない。つまり、大会の前には最終テストとして部員たちが競い合う試合が行われる」
この学校の陸上部は県では強豪校と名を轟かす。
故に通っていればその噂も少なからず耳にする。
他の学校はどうかは分からないが、太陽の通う鹿原高校では個人種目の出場選手は絞られる。
それは、個人種目に全員出場となれば、部内での対抗意識は薄れ、向上心が乏しくなる事を懸念してだろう。
だから大会前にテストを行い、その成績の良い者だけが出場できる様にして、選手のレベルアップを図るのだとう思うが、大会に出るは言葉よりも簡単な事ではない。
「まさか、お前はそれに参加するつもりか、長距離の?」
太陽は少し前のめりに光に問う。光は顔半分を太陽に振り向かせ頷き。
「そうだよ。そのテストまで残り2か月。それまでに身体を本調子に戻して、長距離組に参加する」
「お前……医者から高校では諦めろって言われてただろ。なのに、何を焦ってるんだ。自分の身体を酷使してまで、なにをそこまで頑張るんだ? 長距離には、晴峰がいるんだぞ? 怪我してブランクの有るお前が敵うわけがない」
光は去年の夏に過剰な練習の末に足を壊し、医者からは高校での陸上は諦めろと通告されていた。
無理をすれば走れる事は出来なくもないが、それで更に足を壊せばどうなるかは分からない。
光が将来有望の選手の為に、高校は脚の治療に専念をして、大学か社会人で返り咲けばいい。
だが、光はそれを拒否して、苦難な道を歩いている。
懸念する太陽に光はくすっと微笑をして。
「将来とか未来とかは別に私にはどうだっていい。いつも私は目の前の事を全力でしてきた。部活も、勉強も、遊びも……恋も。来年、再来年どうとか考えるなんて馬鹿らしいよ。もしかしたら病気にかかるかもしれない。事故に遭うかもしれない。どうなるかなんて分かるはずもない。だから……私は、憧れの人に今、本気で勝ちたいと思っている。ただ、それだけだよ、太陽」
それだけを言い残して、光は悠然とした姿勢で去って行く。
昔と変わらない何事にも真っすぐな光を見て太陽は悔しくも「カッコイイ」と思ってしまった。
クラスで決定した代表が学校内の会議室に集まり、文化祭の方針を決定する会。
体育祭係は体育館でそれを執り行われている。
奇しくもクジで選ばれた太陽は渋々とこの会議に集まり、2年生の場所で待機する。
だが、その表情は何処か不機嫌だった。その原因は恐らく、
「……なんでお前がいるんだよ」
「その言葉そのまま返すよ、古坂君?」
太陽はB組、その隣はA組とC組なのだが、隣の席に座るのはA組から代表で出席した元カノの光だった。
恐らく光も文化祭の係に選ばれてこの場にいるのだろう。
「私はクジで運悪く決まったからここにいるだけど。そっちはどうなの?」
「ちっ。理由は一緒かよ」
太陽はイライラの表現か腕を指でトントン叩く。
何に対して苛立っているのか分からないでいる。
元カノが同じ文化祭の係だからか、それとも露骨に苗字で呼ばれているからなのか。
「マジで俺、クジ運悪いな……」
とことん運に見放され今度お祓いに行こうかと本気で考えていると、係が全員集まったのか、事前に決定されていた文化祭委員長が前に立つ。
「今朝決まったばかりなのに集まって貰って申し訳ございません。ではこれから、文化祭の事で会議を執り行いたいと思います」
全員が一礼をして文化祭委員長は話を始める。
「まず、3年生と2年生は去年で経験していると思いますが、1年生は今年が初めてなのでまず説明します。我が校は他の高校と違い、早い段階で体育祭と文化祭を行います。夏休み終わった後の上旬に体育祭を、中旬に文化祭を行いますので日程はぎゅうぎゅうとなっております。理由としましては、私たち3年は受験を控えており、そちらの方に力を入れたい為に行事は早めの段階で終わらせなければいけません」
センター試験などの受験を控えた3年は勉強に集中しないといけない。
その為に全学年で執り行われる行事は他の高校と違い、短期間で終わらすのが定例になっている。
「ですので、先日までGWだった5月の段階から少しずつ準備を進めないといけないのです。本格的に動くのは7月ぐらいからでしょうが、今の段階である程度決めないといけません。まず、学年の代表を2人選考してください。出来れば同性は避けて、男女の組が好ましいです」
男女、ね……と太陽は自分の学年の席を見渡す。
太陽たちの学年は全5組、そして参加している男女比率は1:4。
1は男性、つまり参加している文化祭係の男性は太陽のみだった。
委員長は出来る限り男女の組を要望している為に、1人しかいない男子枠は必然的に太陽となった。
学年代表は更に多くの雑用を押し付けられる避けるべき役職の為に、太陽は陰鬱と深いため息を吐く。
「えっと、男子はB組に決定したとして、女子の方はどうする?」
「えー私は嫌だな……だけど、我儘ばかり言ってられないし、適当にジャンケンはどう?」
女子たちの中で太陽は決定しているらしく、女子枠の方は誰にするのか話し合っている。
「学年の代表って係よりも放課後の時間取られるんだよね……。文化祭の係になって言うのもなんだけど。私、もう直部活の大会があるから、あまりなりたくないんだけど……」
「そう言ったら私もだよ。夏休み前に大会があるから私だってなりたくない」
「って言ってもここにいる女子って全員部活入ってるからその我儘は通用しないよ」
光を除く部活所属の女子3人は苦悩するが、光が小さく手を挙げ。
「別に私してもいいけど?」
「え、本当渡口さん!」
C組の女子が光に確認する。光は頷き。
「私は皆と違って文化系だから大会も無いし。大会がある皆よりも無い私がした方がいいと思って」
「ありがと渡口さん。ならお願い出来るかな?」
「OK。私に任せて」
面倒な仕事を引き受ける光に女子たちからは感謝ムード。
だが、それを聞いていた太陽は更に陰鬱になる。
仕方ないとはいえ、最悪の相手と代表となるのは気が気でない。
「じゃあ、代表は決まったみたいだから、今日はこの辺で終わりにしましょう。次の会議の日程は後日報告するから、今日はこの辺で解散。お疲れさまでした」
「「「「「「お疲れ様でした」」」」」」
今日の集まりは短く、学年の代表を決めただけで終了。
役目は先に決めた方がいいという合理性を望んでの事だろうが、もう少し内容を進めていいのではと太陽は疑問に思う。
だが、その疑問を塗り潰す程の遣る瀬無いため息を吐く。
「なーんでお前が学年代表なんだよ。別に他の奴にさせてもよかっただろ。体育会系文化系関係無く」
「さっき彼女たちも言ってたよね。近い内に大会があるからあまり時間を使いたくないって。なら、大会も無い私がするのは必然でしょ」
帰る際の会議室から靴箱に向かう道中に2人は並んで歩く。
狙ってではなく、ただ2人の目的の場所が一緒で、文句を言いたい為に太陽は歩幅を合わせて歩いているのだ。
「こっちの気分も考えてくれよ。文化祭の係ってだけで憂鬱なのに、元カノと代表組むとか最悪以外のなにものでもねえぞ」
「そうだね。けど、私と古坂くんの関係がどうあれ、文化祭では全く関係ないから、他の人に迷惑をかける訳にはいかない。もし嫌だったら私一人で全部やるから、別に何もしなくていいよ」
「渋々とは言え一度決まったんだ。何もやらない訳にはいかないだろ。……メアドは昔と変わってないぞ」
「……そう。私もだよ」
学年の代表となれば、連絡事である程度のメールや通話は必要だろう。
恋人の関係だった2人は、携帯を所有している故に互いのメアドは交換済みだ。
そして、互いにあの頃からメアドの変更はないと確認した所で、2人は下駄箱に到着する。
「そう言えば、お前、軽音部に所属しているんだから文化祭で演奏するんだろ? 係とかしてて本当に大丈夫なのか?」
「見くびらないで欲しいわね。係も演奏も二足の草鞋を履くぐらいはしてみせるよ。まあ、それよりも先にしないといけない事があるんだけどね」
2人は一緒に下校する訳ではないから、先に靴に履き替えた光は出ようとする。
その背中を太陽は半眼で睨み。
「しないといけない事って、陸上のことか?」
ピクリと光は反応をして振り向かないままに返す。
「そう言えば古坂くんにはバレてたか。……そうだよ。この学校の陸上部は、その種目の成績の良い上位5人しか出場が出来ない。つまり、大会の前には最終テストとして部員たちが競い合う試合が行われる」
この学校の陸上部は県では強豪校と名を轟かす。
故に通っていればその噂も少なからず耳にする。
他の学校はどうかは分からないが、太陽の通う鹿原高校では個人種目の出場選手は絞られる。
それは、個人種目に全員出場となれば、部内での対抗意識は薄れ、向上心が乏しくなる事を懸念してだろう。
だから大会前にテストを行い、その成績の良い者だけが出場できる様にして、選手のレベルアップを図るのだとう思うが、大会に出るは言葉よりも簡単な事ではない。
「まさか、お前はそれに参加するつもりか、長距離の?」
太陽は少し前のめりに光に問う。光は顔半分を太陽に振り向かせ頷き。
「そうだよ。そのテストまで残り2か月。それまでに身体を本調子に戻して、長距離組に参加する」
「お前……医者から高校では諦めろって言われてただろ。なのに、何を焦ってるんだ。自分の身体を酷使してまで、なにをそこまで頑張るんだ? 長距離には、晴峰がいるんだぞ? 怪我してブランクの有るお前が敵うわけがない」
光は去年の夏に過剰な練習の末に足を壊し、医者からは高校での陸上は諦めろと通告されていた。
無理をすれば走れる事は出来なくもないが、それで更に足を壊せばどうなるかは分からない。
光が将来有望の選手の為に、高校は脚の治療に専念をして、大学か社会人で返り咲けばいい。
だが、光はそれを拒否して、苦難な道を歩いている。
懸念する太陽に光はくすっと微笑をして。
「将来とか未来とかは別に私にはどうだっていい。いつも私は目の前の事を全力でしてきた。部活も、勉強も、遊びも……恋も。来年、再来年どうとか考えるなんて馬鹿らしいよ。もしかしたら病気にかかるかもしれない。事故に遭うかもしれない。どうなるかなんて分かるはずもない。だから……私は、憧れの人に今、本気で勝ちたいと思っている。ただ、それだけだよ、太陽」
それだけを言い残して、光は悠然とした姿勢で去って行く。
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