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4章
今の関係
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「要約すると。俺と光が結ばれる様に千絵が全面的に協力をする。だから気軽に頼ってきて欲しい、って事でいいか?」
太陽がそう尋ねると千絵は鼻を鳴らしてそっぽを向くだけだった。
先ほどの甲高い音の正体は千絵が太陽の頬を強く叩いた音。
太陽の頬には真っ赤な紅葉マークが浮かんでおり、ヒリヒリと太陽を蝕む。
「なら最初からそう言ってくれないと困るぜ。いきなり痴女発言されてビックリしたぞ」
「最初から言ってたよね? 私、最初から言ってたよね!? 太陽君、本当に大丈夫なの? 私たち、来年は受験生なんだよ。光ちゃんの仲よりもそっちの方が心配になって来たんだけど……」
太陽の馬鹿さ加減に呆れ返る千絵に太陽はぐぅの音も出ない。
太陽の成績は学年を比べると良くも無く悪くもない成績だが、千絵が進学予定の地元の進学校に及ぶには遠すぎる成績である。
そのことはどうでもいいか、と千絵は諦め、先程の太陽の発言に対して冷ややかに睨み。
「てかさ、太陽君って、私みたいな親しい相手に対してデリカシーないよね? 諺で『親しき仲にも礼儀あり』って言葉があるのは知ってるよね? 普通、女性に対して胸の話をするかな?」
叱責されて思わず畏まる太陽。
自分の発言がかなりデリカシーが無かった事に対して重々理解はしている。
だから反論の言葉が全部泡となって消えていた。
「それに、私は着やせするタイプってだけで胸の大きさに関しては大きい方だからね、多分」
女性としての尊厳か先ほどの自分の発言を覆す様に話題を掘り返す千絵。
太陽たちが通う中学の女子の制服は、地元の中学の制服と比べると一番地味だと言われる程にオシャレ度が無く、胸もあまり協調はされない。
所謂着やせしやすい制服なのだが、千絵が歳を重ねるごとに成長をしている事に感慨深くなる太陽。
「ま、私的には、このぐらいの大きさが一番いいから。これ以上大きくなったら色々とお金がかさみそうで嫌だな」
千絵がどれくらいの大きさなのかは太陽が知る由もないのだが。
今の発言はある意味、多くの女性の反感を買いそうになる失言である。
運よく太陽たち以外に誰も聞いていなかったようだが、千絵も大概危ない発言をすると太陽は嘆息する。
余談だが、この千絵の発言はこれから大体1年後に裏となって帰って来る。
背が伸びない限りに胸が膨らみ、千絵のお小遣いが多く霧散したのは別の話。
「てか、なんか話題がかなりずれちゃったけど、太陽君の所為で」
唇を尖らしながら理不尽に責める千絵。
半分は千絵が原因なのにと反論したかったが、機嫌を損なわれると面倒だと太陽はグッと堪える。
そして隠れた所で握りこぶしを作っていた太陽は、その拳は息を吐いて開き。
「千絵の申し出は正直嬉しいよ。頼れる親友がいるだけでも、心持ちが全然違うからな」
だが……と太陽は未だに男子に交じり校庭を駆ける光の輝く姿を眺めながらに切に呟く。
「やっぱり俺、光に告白する勇気はねえや」
自嘲する様に太陽は作った笑みを浮かべてそう言う。
「……なんでかな」
千絵は食い下がらすに聞いて来る。
太陽も予感していたのか、前付も無く口を開く。
「多分……お前らの言う通りに俺は光の事が好きなんだろうな。あいつを見ていると、胸が高まると言うか、滅茶苦茶ドキドキするんだよ。こんな可愛い奴が幼馴染ってだけで、俺は幸せ者なんだろうな、って……」
幼少の頃は男勝りだった光も、今では女っぽく様変わりをして、可愛らしい容姿と部活の陸上の活躍が助長して学校の人気者になっている。
そんな光に対して、太陽は劣等感を感じながらも、それ以上に思うことを吐露する。
「告白ってのは、つまりは多かれ少なかれ、今の関係を変える、って事になるってことだろ。成功をすれば、それはこの先あいつとずっと仲良くなって楽しいかもしれないが、失敗すれば……」
話すのも怖いと太陽は唾を呑みこむ。
太陽の想いを光に口をすれば多少の関係の変化があるのも必然となる。
太陽の言う通り、成功すれば恋人となり甘い日常を謳歌出来るかもしれない。
だが、失敗、つまりは意中の相手からの拒絶であれば、関係が拗れる可能性が大である。
気まずくなって顔も見合わせなくなり、最悪の場合は卒業まで、後も疎遠になるかもしれない。
そんなリスクを、太陽は背負いたくない。
「俺は今の関係で案外充実しているんだ。部活であいつの応援をする、あいつの良き理解者になってやれる。それだけで俺は、十分幸せだからよ」
近いようで遠い、友達以上で恋人未満の関係。
太陽自身が勝手に思い込んでいるだけかもしれないが、太陽は今の関係が心地良いとさえ思っている。
だが、太陽も一度も光と恋人になりたいと思った事は無いと言えば嘘になる。
太陽も1人の雄であり男だ。
すぐ近くに素敵な女性がいるのなら関係を深めたいと思うのが男の性である。
何度光の事を想い寝床に着いたか。
何度光との幸せな未来を妄想したか。
何度光に自分の想いを伝えようとしたか……。
告白とは所謂博打である。
相手の心が読めない状況で、相手の気持ちを察し、勇気を振り絞って前に進むか。
太陽は幼馴染という関係を壊したくないが為に告白しない選択を取る。
今の関係を瓦解させる危険性のある選択肢なら、太陽は危ない橋は渡りたくない。
ウジウジとした煮え切らない男だと嘲笑されるだろう。
だが、千絵や信也にどう思われようと、それだけ今の光との関係を大切にしている太陽からすれば、大して痛くもない。
だから、今のままでいい。
太陽は胸の中で騒めく感情を押し殺して、再び最愛の幼馴染がいる校庭を眺めるのだった。
太陽がそう尋ねると千絵は鼻を鳴らしてそっぽを向くだけだった。
先ほどの甲高い音の正体は千絵が太陽の頬を強く叩いた音。
太陽の頬には真っ赤な紅葉マークが浮かんでおり、ヒリヒリと太陽を蝕む。
「なら最初からそう言ってくれないと困るぜ。いきなり痴女発言されてビックリしたぞ」
「最初から言ってたよね? 私、最初から言ってたよね!? 太陽君、本当に大丈夫なの? 私たち、来年は受験生なんだよ。光ちゃんの仲よりもそっちの方が心配になって来たんだけど……」
太陽の馬鹿さ加減に呆れ返る千絵に太陽はぐぅの音も出ない。
太陽の成績は学年を比べると良くも無く悪くもない成績だが、千絵が進学予定の地元の進学校に及ぶには遠すぎる成績である。
そのことはどうでもいいか、と千絵は諦め、先程の太陽の発言に対して冷ややかに睨み。
「てかさ、太陽君って、私みたいな親しい相手に対してデリカシーないよね? 諺で『親しき仲にも礼儀あり』って言葉があるのは知ってるよね? 普通、女性に対して胸の話をするかな?」
叱責されて思わず畏まる太陽。
自分の発言がかなりデリカシーが無かった事に対して重々理解はしている。
だから反論の言葉が全部泡となって消えていた。
「それに、私は着やせするタイプってだけで胸の大きさに関しては大きい方だからね、多分」
女性としての尊厳か先ほどの自分の発言を覆す様に話題を掘り返す千絵。
太陽たちが通う中学の女子の制服は、地元の中学の制服と比べると一番地味だと言われる程にオシャレ度が無く、胸もあまり協調はされない。
所謂着やせしやすい制服なのだが、千絵が歳を重ねるごとに成長をしている事に感慨深くなる太陽。
「ま、私的には、このぐらいの大きさが一番いいから。これ以上大きくなったら色々とお金がかさみそうで嫌だな」
千絵がどれくらいの大きさなのかは太陽が知る由もないのだが。
今の発言はある意味、多くの女性の反感を買いそうになる失言である。
運よく太陽たち以外に誰も聞いていなかったようだが、千絵も大概危ない発言をすると太陽は嘆息する。
余談だが、この千絵の発言はこれから大体1年後に裏となって帰って来る。
背が伸びない限りに胸が膨らみ、千絵のお小遣いが多く霧散したのは別の話。
「てか、なんか話題がかなりずれちゃったけど、太陽君の所為で」
唇を尖らしながら理不尽に責める千絵。
半分は千絵が原因なのにと反論したかったが、機嫌を損なわれると面倒だと太陽はグッと堪える。
そして隠れた所で握りこぶしを作っていた太陽は、その拳は息を吐いて開き。
「千絵の申し出は正直嬉しいよ。頼れる親友がいるだけでも、心持ちが全然違うからな」
だが……と太陽は未だに男子に交じり校庭を駆ける光の輝く姿を眺めながらに切に呟く。
「やっぱり俺、光に告白する勇気はねえや」
自嘲する様に太陽は作った笑みを浮かべてそう言う。
「……なんでかな」
千絵は食い下がらすに聞いて来る。
太陽も予感していたのか、前付も無く口を開く。
「多分……お前らの言う通りに俺は光の事が好きなんだろうな。あいつを見ていると、胸が高まると言うか、滅茶苦茶ドキドキするんだよ。こんな可愛い奴が幼馴染ってだけで、俺は幸せ者なんだろうな、って……」
幼少の頃は男勝りだった光も、今では女っぽく様変わりをして、可愛らしい容姿と部活の陸上の活躍が助長して学校の人気者になっている。
そんな光に対して、太陽は劣等感を感じながらも、それ以上に思うことを吐露する。
「告白ってのは、つまりは多かれ少なかれ、今の関係を変える、って事になるってことだろ。成功をすれば、それはこの先あいつとずっと仲良くなって楽しいかもしれないが、失敗すれば……」
話すのも怖いと太陽は唾を呑みこむ。
太陽の想いを光に口をすれば多少の関係の変化があるのも必然となる。
太陽の言う通り、成功すれば恋人となり甘い日常を謳歌出来るかもしれない。
だが、失敗、つまりは意中の相手からの拒絶であれば、関係が拗れる可能性が大である。
気まずくなって顔も見合わせなくなり、最悪の場合は卒業まで、後も疎遠になるかもしれない。
そんなリスクを、太陽は背負いたくない。
「俺は今の関係で案外充実しているんだ。部活であいつの応援をする、あいつの良き理解者になってやれる。それだけで俺は、十分幸せだからよ」
近いようで遠い、友達以上で恋人未満の関係。
太陽自身が勝手に思い込んでいるだけかもしれないが、太陽は今の関係が心地良いとさえ思っている。
だが、太陽も一度も光と恋人になりたいと思った事は無いと言えば嘘になる。
太陽も1人の雄であり男だ。
すぐ近くに素敵な女性がいるのなら関係を深めたいと思うのが男の性である。
何度光の事を想い寝床に着いたか。
何度光との幸せな未来を妄想したか。
何度光に自分の想いを伝えようとしたか……。
告白とは所謂博打である。
相手の心が読めない状況で、相手の気持ちを察し、勇気を振り絞って前に進むか。
太陽は幼馴染という関係を壊したくないが為に告白しない選択を取る。
今の関係を瓦解させる危険性のある選択肢なら、太陽は危ない橋は渡りたくない。
ウジウジとした煮え切らない男だと嘲笑されるだろう。
だが、千絵や信也にどう思われようと、それだけ今の光との関係を大切にしている太陽からすれば、大して痛くもない。
だから、今のままでいい。
太陽は胸の中で騒めく感情を押し殺して、再び最愛の幼馴染がいる校庭を眺めるのだった。
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