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3章
合宿編13
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最悪の目覚め、それが太陽の感想だった。
外はまだ夜の帳が完全に消えない曙。
時間からして5時過ぎぐらいだろう。
部員の起床は6時30分だが、太陽が起きた時刻はそれよりも早かった。
原因は同じ部屋に泊まった者たちの寝相によるもの。
布団の並びは横一列の雑魚寝であったが、現在は惨状と化していた。
太陽の右側に寝る信也は体を倒した態勢とは逆になって、脚が太陽の腹部に乗せられ。
その逆に寝る小鷹は体の向きは正常だが、大の字で開いて寝ており、伸ばされた手が太陽の首に置かれていた。
そして他の部員たちも寝相は普通であろうが、歯ぎしりや鼾が騒音で、寝言のコーラスを奏でていた。
就寝直前に自己申告で寝相が悪い、寝言を言うなどは事前に聞かされていたが、ここまで酷いとは想像もしていなかった。
何故こんな騒音の中で太陽以外の者たちはぐっすりと寝られているのか、1人起きる太陽ははこめかみを引くつかせながらに疑問に思う。
その原因は薄々分かっている。
太陽を除く同部屋の者たちの就寝は他の部屋の者たちよりも遅かった
その理由はトランプなどの遊戯による熱中ではなく、否、ある意味それも理由なのだが。
一番の理由は太陽が大富豪での罰ゲームで部屋を抜けていた頃だった。
太陽がロビーで千絵と話をしている間に、光、御影、優菜の女子3人が転がり込んで来たらしい。
優菜は兎も角、光と御影の学園の2大有名人たる女子の来訪に男たちは歓喜をして、太陽の不在に御影は文句を言っていたらしいが、太陽が帰って来るまでの時間つぶしでトランプに興じたらしく。
よほどに騒がしかったのか、見回りで来た女主将に見つかり規則違反で全員説教を受ける羽目に。
思いの他に千絵との会話で時間を費やした太陽が戻って来た時には、同部屋の者たちは部屋の前で正座で説教を受けており、女子たちは先に部屋に帰らされたのかいなかった。
連帯責任でなかったことが幸いで、太陽1人は難を逃れて説教を受けずに済んだが。
深夜を過ぎる時刻まで正座をさせられた者たちは疲労で熟睡しているのだろう。
こんな所で寝る事の出来ない太陽は、2度寝する事はせずに目覚ましで部屋を出る事にした。
廊下の明かりは消されているが、薄白い日の出の光が窓から差し込まれて十分目視できるレベル。
眠たい目頭を擦り、大きく欠伸した太陽は、気分転換で風に当たりたいとロビーを通って外に出た。
まだ4月末の為か早朝はまだ寒い。
あまり厚着をしてこなかった太陽は寒っと身震いしたが、歩いていれば少しは慣れて温まるだろうと思い散歩がてら整備された道を歩く。
「当たり前だが誰もいねえな。練習疲れでギリギリまで寝たいだろうし、合宿でこんな早朝から朝練する奴はいないだろ」
白い霧が掛かり視界が悪いが、見渡せる限りで人の影を見つけられない。
はぁ、はぁ、と白い息を吐きながら朝の森の新鮮な空気で呼吸しながら歩いていると。
「ん? ……これって……」
昨日に御影が指導する長距離組が練習で使用した坂道の下に設置されてあるベンチにある物を発見。
半開きでタオルが顔を覗かせる青いポーチ。このポーチに太陽は見覚えがあった。
「これって、前に晴峰と行った坂の所にも同様の物があったよな。もしかして、あれと同じ物……」
こんな偶然はあるだろうか。
自分の行く所に同じ色と形をしたポーチがあることを。
誰かの忘れ物なのだろうか、落とし物として拾うべきか悩んでいると、坂道にかかる白い霧に黒い人影が浮かび、太陽は目線を上げる。
白い霧から現れたのは
「…………光」
驚愕して思わず彼女の名を零す。
上下学校指定のジャージを着て、肩の息と連動して吐かれる白い息、何をしていたのか物語る汗の量。
渡口光が袖で額に流れる汗を拭い、太陽の存在に気づき。
「太陽……どうしてここに」
ハッと光の視線は太陽からポーチの方に向けれて、その視線に気づいた太陽は光の方に目を向け。
「このポーチ……お前のなのか?」
太陽の問いに光は頷く。
この青いポーチは光の所有物。なら、あの時の物は……。
太陽は牽制の意味で光に問う。
「お前……大体今から大体1週間前の朝……俺と晴峰が一緒に居たのを見たことあるか?」
御影が自主練に最適な場所で抜擢した際に訪れた坂。
あの場所でも同じ青いポーチを発見していて、もしかしたらあの現場に光が居たのかもしれないと不審に思い太陽が尋ねるも、光は表情を1つ変えず。
「なに言ってるの? 見てるわけないじゃん」
憎たらしい程の言葉遣いだが、太陽は内心ホッとした自分がいるのに気づく。
何故、光に御影と一緒にいる場面を見られずに済んだのか安堵したのか分からない。
その気持ちから逃げる様に、太陽は更に光に質問を投げつけた。
「ていうか、なんでお前がこんな朝っぱらからにいるんだよ? なんか走ってたみたい――――お前まさか!?」
自身の言葉でもしかしてと太陽は一瞬彼女の脚に視線を移し。
「お前……もしかして走ってた、なんて言わないよな!?」
光は去年の夏ごろに過剰な練習量で靭帯を損傷したはず。
選手生命は取り留めたモノの、高校での陸上は諦めざる得ないと母経由で耳に入っていた。
なのに、そんな彼女が何故早朝で坂道を走っていたのか……。
「お前、まだ怪我は完治してねえんじゃねえのかよ。お前の母さんから聞いてるぞ、医者から高校での陸上は諦めろって。無理すれば一生の傷を負う危険性もあるから、安静にする必要がある。お前、自分の身体なのに何してるんだよ!?」
「なに太陽、心配してくれてるの?」
早朝の寒い気候にも負けない冷めた言葉に太陽は口を詰まらし。
「誰がお前なんかを心配するかよ! お前は大嫌いだが、お前の母さんには昔色々世話になったから、あの人を心配させることを看過できないだけだ!」
光と話す度に一言一言言葉を発する度に、太陽の心臓の鼓動は波打つように強くなる。
「大嫌い……か。まあ、そうだよね。私が太陽にした事を思えば当たり前か」
一瞬であるが、光の表情に陰りが差した。
だが、直ぐに無感情の顔に戻り。
「別にどうでもいいよ、それは。昔から付き合いがある太陽は私の性格知っているよね? 私は私のしたい事をする。それに、別にお母さんに黙ってしている訳じゃない。一応だけど、お母さんにも許可を貰っているから。……まあ、良い顔はしてくれなかったけど」
光の母親は娘の意思を尊重するタイプ。
それが今後の娘である光の身に何が起ころうと、今を全力でする娘を応援する。
良くも悪くもそんな親だから、自分の身体を酷使する光を渋々ながらに容認したのかもしれない。
「だがな……お前」
太陽は拳を強く握りしめ、光を睨む。
太陽の眼に映るのは光ではなく、昨晩の千絵の姿だった。
「お前が陸上を諦めてないってのは分かった。だけど、それならバンドの方はどうするんだよ!? 千絵がお前に新しい何を発見してほしいって、お前を誘ったあいつの気持ちを踏み躙るのか!」
自分ではなく千絵の事で糾弾する。
光は一呼吸入れて、千絵に対して愁う様な瞳をして。
「千絵ちゃんに関しては私もかなり感謝しているよ。だって、千絵ちゃんは私を思って誘ってくれたから。私にとって千絵ちゃんは掛け替えのない親友、一番に幸せになって欲しい人でもある」
光と千絵は同性であるなら一番の親友であろう。
「だけど、それとこれとは話が別だよ。先刻も言った。私は私のしたい事をする。勿論、折角千絵ちゃんが誘ってくれたバンドの方を手を抜く事は絶対にしない。だけど、私にとって陸上は諦めきれない物でもあるから」
昔から何度も見て来た光の真っすぐな瞳。
何度も挫けそうになっても諦めなかった忍耐力。
それが太陽にとって眩しくて、憧れで……文字通り、太陽からすれば彼女は光そのもの。
太陽は吐き捨てる様に喉を鳴らし。
「別に俺もお前がどうなろうが構わねえが。千絵や他の奴を悲しませてみろ。俺は、お前を絶対に許さねえから」
他に好きな人がいると振られ、最も最愛だった人物が今では最も嫌悪する人物に成り下がってた彼女に太陽は気魄の眼で見る。
千絵や光の母親、太陽が世話になった者たちを悲しませることをすれば、自分は許さないと釘を刺した所で、太陽は踵を返し、施設へと戻って行く。
「体を壊すも練習も勝手だが、マネージャー代理としての役目を忘れるなよ? 後1時間で朝食の準備だからよ」
それだけ残して太陽は光と別れた。
外はまだ夜の帳が完全に消えない曙。
時間からして5時過ぎぐらいだろう。
部員の起床は6時30分だが、太陽が起きた時刻はそれよりも早かった。
原因は同じ部屋に泊まった者たちの寝相によるもの。
布団の並びは横一列の雑魚寝であったが、現在は惨状と化していた。
太陽の右側に寝る信也は体を倒した態勢とは逆になって、脚が太陽の腹部に乗せられ。
その逆に寝る小鷹は体の向きは正常だが、大の字で開いて寝ており、伸ばされた手が太陽の首に置かれていた。
そして他の部員たちも寝相は普通であろうが、歯ぎしりや鼾が騒音で、寝言のコーラスを奏でていた。
就寝直前に自己申告で寝相が悪い、寝言を言うなどは事前に聞かされていたが、ここまで酷いとは想像もしていなかった。
何故こんな騒音の中で太陽以外の者たちはぐっすりと寝られているのか、1人起きる太陽ははこめかみを引くつかせながらに疑問に思う。
その原因は薄々分かっている。
太陽を除く同部屋の者たちの就寝は他の部屋の者たちよりも遅かった
その理由はトランプなどの遊戯による熱中ではなく、否、ある意味それも理由なのだが。
一番の理由は太陽が大富豪での罰ゲームで部屋を抜けていた頃だった。
太陽がロビーで千絵と話をしている間に、光、御影、優菜の女子3人が転がり込んで来たらしい。
優菜は兎も角、光と御影の学園の2大有名人たる女子の来訪に男たちは歓喜をして、太陽の不在に御影は文句を言っていたらしいが、太陽が帰って来るまでの時間つぶしでトランプに興じたらしく。
よほどに騒がしかったのか、見回りで来た女主将に見つかり規則違反で全員説教を受ける羽目に。
思いの他に千絵との会話で時間を費やした太陽が戻って来た時には、同部屋の者たちは部屋の前で正座で説教を受けており、女子たちは先に部屋に帰らされたのかいなかった。
連帯責任でなかったことが幸いで、太陽1人は難を逃れて説教を受けずに済んだが。
深夜を過ぎる時刻まで正座をさせられた者たちは疲労で熟睡しているのだろう。
こんな所で寝る事の出来ない太陽は、2度寝する事はせずに目覚ましで部屋を出る事にした。
廊下の明かりは消されているが、薄白い日の出の光が窓から差し込まれて十分目視できるレベル。
眠たい目頭を擦り、大きく欠伸した太陽は、気分転換で風に当たりたいとロビーを通って外に出た。
まだ4月末の為か早朝はまだ寒い。
あまり厚着をしてこなかった太陽は寒っと身震いしたが、歩いていれば少しは慣れて温まるだろうと思い散歩がてら整備された道を歩く。
「当たり前だが誰もいねえな。練習疲れでギリギリまで寝たいだろうし、合宿でこんな早朝から朝練する奴はいないだろ」
白い霧が掛かり視界が悪いが、見渡せる限りで人の影を見つけられない。
はぁ、はぁ、と白い息を吐きながら朝の森の新鮮な空気で呼吸しながら歩いていると。
「ん? ……これって……」
昨日に御影が指導する長距離組が練習で使用した坂道の下に設置されてあるベンチにある物を発見。
半開きでタオルが顔を覗かせる青いポーチ。このポーチに太陽は見覚えがあった。
「これって、前に晴峰と行った坂の所にも同様の物があったよな。もしかして、あれと同じ物……」
こんな偶然はあるだろうか。
自分の行く所に同じ色と形をしたポーチがあることを。
誰かの忘れ物なのだろうか、落とし物として拾うべきか悩んでいると、坂道にかかる白い霧に黒い人影が浮かび、太陽は目線を上げる。
白い霧から現れたのは
「…………光」
驚愕して思わず彼女の名を零す。
上下学校指定のジャージを着て、肩の息と連動して吐かれる白い息、何をしていたのか物語る汗の量。
渡口光が袖で額に流れる汗を拭い、太陽の存在に気づき。
「太陽……どうしてここに」
ハッと光の視線は太陽からポーチの方に向けれて、その視線に気づいた太陽は光の方に目を向け。
「このポーチ……お前のなのか?」
太陽の問いに光は頷く。
この青いポーチは光の所有物。なら、あの時の物は……。
太陽は牽制の意味で光に問う。
「お前……大体今から大体1週間前の朝……俺と晴峰が一緒に居たのを見たことあるか?」
御影が自主練に最適な場所で抜擢した際に訪れた坂。
あの場所でも同じ青いポーチを発見していて、もしかしたらあの現場に光が居たのかもしれないと不審に思い太陽が尋ねるも、光は表情を1つ変えず。
「なに言ってるの? 見てるわけないじゃん」
憎たらしい程の言葉遣いだが、太陽は内心ホッとした自分がいるのに気づく。
何故、光に御影と一緒にいる場面を見られずに済んだのか安堵したのか分からない。
その気持ちから逃げる様に、太陽は更に光に質問を投げつけた。
「ていうか、なんでお前がこんな朝っぱらからにいるんだよ? なんか走ってたみたい――――お前まさか!?」
自身の言葉でもしかしてと太陽は一瞬彼女の脚に視線を移し。
「お前……もしかして走ってた、なんて言わないよな!?」
光は去年の夏ごろに過剰な練習量で靭帯を損傷したはず。
選手生命は取り留めたモノの、高校での陸上は諦めざる得ないと母経由で耳に入っていた。
なのに、そんな彼女が何故早朝で坂道を走っていたのか……。
「お前、まだ怪我は完治してねえんじゃねえのかよ。お前の母さんから聞いてるぞ、医者から高校での陸上は諦めろって。無理すれば一生の傷を負う危険性もあるから、安静にする必要がある。お前、自分の身体なのに何してるんだよ!?」
「なに太陽、心配してくれてるの?」
早朝の寒い気候にも負けない冷めた言葉に太陽は口を詰まらし。
「誰がお前なんかを心配するかよ! お前は大嫌いだが、お前の母さんには昔色々世話になったから、あの人を心配させることを看過できないだけだ!」
光と話す度に一言一言言葉を発する度に、太陽の心臓の鼓動は波打つように強くなる。
「大嫌い……か。まあ、そうだよね。私が太陽にした事を思えば当たり前か」
一瞬であるが、光の表情に陰りが差した。
だが、直ぐに無感情の顔に戻り。
「別にどうでもいいよ、それは。昔から付き合いがある太陽は私の性格知っているよね? 私は私のしたい事をする。それに、別にお母さんに黙ってしている訳じゃない。一応だけど、お母さんにも許可を貰っているから。……まあ、良い顔はしてくれなかったけど」
光の母親は娘の意思を尊重するタイプ。
それが今後の娘である光の身に何が起ころうと、今を全力でする娘を応援する。
良くも悪くもそんな親だから、自分の身体を酷使する光を渋々ながらに容認したのかもしれない。
「だがな……お前」
太陽は拳を強く握りしめ、光を睨む。
太陽の眼に映るのは光ではなく、昨晩の千絵の姿だった。
「お前が陸上を諦めてないってのは分かった。だけど、それならバンドの方はどうするんだよ!? 千絵がお前に新しい何を発見してほしいって、お前を誘ったあいつの気持ちを踏み躙るのか!」
自分ではなく千絵の事で糾弾する。
光は一呼吸入れて、千絵に対して愁う様な瞳をして。
「千絵ちゃんに関しては私もかなり感謝しているよ。だって、千絵ちゃんは私を思って誘ってくれたから。私にとって千絵ちゃんは掛け替えのない親友、一番に幸せになって欲しい人でもある」
光と千絵は同性であるなら一番の親友であろう。
「だけど、それとこれとは話が別だよ。先刻も言った。私は私のしたい事をする。勿論、折角千絵ちゃんが誘ってくれたバンドの方を手を抜く事は絶対にしない。だけど、私にとって陸上は諦めきれない物でもあるから」
昔から何度も見て来た光の真っすぐな瞳。
何度も挫けそうになっても諦めなかった忍耐力。
それが太陽にとって眩しくて、憧れで……文字通り、太陽からすれば彼女は光そのもの。
太陽は吐き捨てる様に喉を鳴らし。
「別に俺もお前がどうなろうが構わねえが。千絵や他の奴を悲しませてみろ。俺は、お前を絶対に許さねえから」
他に好きな人がいると振られ、最も最愛だった人物が今では最も嫌悪する人物に成り下がってた彼女に太陽は気魄の眼で見る。
千絵や光の母親、太陽が世話になった者たちを悲しませることをすれば、自分は許さないと釘を刺した所で、太陽は踵を返し、施設へと戻って行く。
「体を壊すも練習も勝手だが、マネージャー代理としての役目を忘れるなよ? 後1時間で朝食の準備だからよ」
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