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3章
合宿編9
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全国優勝を掲げ、己を研鑽をして、部活なる青春を謳歌をする合宿1日目の練習が終了する。
夕食の下拵えや調理、大浴場の清掃は太陽、信也、千絵の3人で完遂した。
助っ人組のもう1人である光だが、彼女は殆ど短距離組の指導で時間を費やし、練習が終了するまで3人に合流することが出来なかった。
過酷な練習で空いたお腹を満たす為の、怒涛の夕飯時間も終えて、入浴タイム。
1日の疲れを癒す、至福の一時。
入浴には時間割り振られており、男女共に、まずは3年生、次に2年生、最後に1年の学年順で入浴の時間が決まっている。
3年の入浴時間は過ぎ、遂に待ちに待ったと2年生が入浴する。
舞台は女湯。そこには若い肉体をした瑞々しい乙女達が一日の疲れを取っていた。
「ふわぁ~疲れた体に染み渡る~」
2年生の短距離組、池田優菜が肩までお湯に浸からせ極楽と表情を歪ませる。
後続で湯舟に浸かる光が苦笑をして。
「優菜ちゃん、なんかおじさんみたい」
「なんだとー! ウチのどこがおじさんだ! てか光さん。湯舟にタオルを付けるのはマナー違反だよ! 即刻タオルの退去を言い渡す!」
「ちょ! 分かった取るから! お願いだから強引に取ろうとしないでよ!」
浴室の片隅で攻防を繰り広げるのを他所に、身体を洗う千絵が2人を諫める。
「もう池田さんに光ちゃん。お風呂場だと声が響くからもう少し静かに。他の人の迷惑になるから」
「「はーい」」
もう、とため息を吐いて、千絵は再び身体洗いに戻る。
その隣で同じ様に身体を洗っていた御影が微笑して。
「なんだか高見沢さんってお母さんみたいだね。手のかかるお子さんがいて大変だね」
「誰がお母さんだ。まあ、子供を持つとこんな感じなのかな……。けど、流石に高校生になっても、風呂場ではしゃぐ子には育ってほしくないかも……」
半眼で2人を睨む千絵に光が手を挙げて反論する。
「ちょっと千絵ちゃん。確かに大声を出したのは認めるけど、私被害者だよ!?」
「光ちゃんの場合は、池田さんの言う通り、タオルを湯舟に付けるのは駄目だと思うよ?」
光の反論も千絵に一瞬されて口を詰まらす。
そして頬を赤くして言い訳を述べる。
「……だって、人に裸を見られるのって恥ずかしいじゃん……」
正当な言い訳を言う光だが、身体を洗い終えて湯舟に入る御影が光の身体を凝視して。
「日本には裸の付き合いってのがあるんですし、そんなの気にしないでいいと思いますよ。それに、渡口さんってスタイルいいから、別に恥ずかしがる事でもないと思いますが?」
「確かに! 渡口さんってスタイルいいよね! 引き締まった所は引き締まって、出ているところはちゃんと出てるし! ナイススタイルって言葉が良く似合う体格だと思うよね!」
光のスタイルは平均な女子高生よりも発育が良い部類だろう。
身長は平均だが、ヒップは引き締まって小振りだが、ウエストもキュッと引き締まり、バストは83とそれなりに大きい。
スタイルを褒められ照れ隠しなのか謙虚に首を振り。
「私なんて全然だよ。優菜ちゃんと晴峰さんの方が全然スタイル良いじゃん!」
「なにをー光さん。それはウチに対しての嫌味か! 憎たらしいBカップの胸を見て、そんな事言えるというのか!?」
優菜は相変わらずのおちゃらけた口調だが、その表情は血の涙を流さんばかりに憎悪に満ちていた。
しかし、それよりも二人の前で湯舟に浸かる御影は哀愁漂う空気で半笑いをして。
「いいじゃないですかBカップもあって……私なんて、Aですよ、……A。ハハッ、笑ってください」
……笑えない。光と優菜の心が揃う。
優菜は申し訳なさそうな表情で頭を下げ。
「なんか……ごめんなさい」
「大丈夫です……気にしてませんので……」
陸上の世界大会有力選手だからと言って、御影も年頃の女の子。
スポーツ選手以前に女性としての自分の身体にコンプレックスを抱いている様子。
何とも重苦しい空気となったが、3人が視線はある人物に集中される。
「ん? どうしたの皆? 私の方をじっと見て?」
あせも防止で胸を持ち上げ胸下を入念に洗う千絵は怪訝そうに首を傾げる。
千絵はこの中で最も身長が低く小柄だが、その体躯に見合わない程の豊満な胸が付いている。
胸は女性として最優の武器と言っても過言ではない。つまり千絵の胸は同性からすれば嫉妬の対象。
羨望と嫉妬の眼差しを向けられ千絵は表情を引き攣らす。
「ね、ねえ……なにか言って! なんか怖い、怖いんだけど!?」
「「「このおっぱいお化け!」」」
「なんで一言一句同じなの!?」
そんなやり取りをした後に千絵も身体を洗い終えて湯舟に浸かる。
「別に胸が大きいからって良い事でもないよ? 肩は凝るし、可愛いブラはないし。値段は高いし」
「あーあっ、胸が大きい人のテンプレートな愚痴ありがとうございます。そうですね。Aカップの私には可愛いブラは沢山ありますよ……胸もブラも可愛いですね私って」
「どんだけ卑屈になってるの晴峰さん!? ホント、太陽君の言う通り凄く属性豊富だね!? 仕方ない。ここはイジラレ役として太陽君を捧げるか……いや、ここは女湯だから太陽君犯罪者になるよね。別にいいか、あの朴念仁は」
「それ以前の問題なんだけど……てか、さり気なく千絵ちゃんヒドイよね」
これ以上胸の話は沼に嵌ると話題は強引に切り捨てる。
そして仕切り直して、湯舟に凭れる優菜は背筋を伸ばし。
「それにしても今日の練習疲れた~。これだと明日筋肉痛確定だよ……」
「そうならない様にお風呂に入った後のストレッチは大事ですね。同じ部屋ですし、ストレッチ一緒にしましょう」
「そうだね。ありがと晴峰さん!」
後出しだが、この4人の宿泊する部屋は同室で、その為現在の様に和気藹々と話せてる。
部員同士で会話する一方、助っ人組の光は千絵に申し訳なさそうに謝る。
「それにしてもごめんね千絵ちゃん。夕食や清掃を殆ど任せちゃって……」
「気にしなくていいよ。この合宿は部員全員のスキルアップの為のモノ。光ちゃんの指導がその役に立つならそっちをするべきだよ。それに、皿洗いとか食堂の清掃とかは1年生がしてくれてるし、今はゆっくりと湯舟に浸かってリラックスだよ」
朝食、昼食は練習や準備で忙しいが、夕食後の自由な時間が多い時ぐらいは助っ人組を休ませる為に、夕食後の雑用は1年生がする事になっており。
今日使用した練習着は学年関係なく各々が洗濯する様にはなっている。
その為、光と千絵も2年生の時間にこうやって入浴出来ているのだが。
「この後殆ど就寝まで自由時間だけ、皆はなにする?」
千絵達も今日の臨時マネージャーの仕事の殆どを終えて手持無沙汰になり、就寝までの残り3時間は特に予定はない。
それに御影ははいはいと手を挙げ。
「でしたらトランプとかをしましょう! 大富豪やババ抜きとか」
「なんだか修学旅行みたいだね。あっ、負けた人は秘密を暴露とかの罰ゲームがあった方が燃えるよね」
御影の提案は兎も角、優菜の嫌な予感に光と千絵は苦笑い。
「修学旅行と言えば、中学の頃の時って夜何してましたか?」
晴峰の唐突な質問に千絵は首を傾け。
「夜なにしてたとは?」
「ほら、あれです。漫画とかでよくある定番の、男子の部屋に行ったとかです。私の中学の頃の学校は校則が厳しかったので実行は出来ませんでしたが(別に行きたいと思える男子もいませんでしたが)。この中でそれを実行した人はいますか?」
ウキウキと目を輝かせる御影。
御影は真面目なのだが、何処か抜けた部分もあり、変な部分に憧れを持つきらいがありそうだ。
「ウチはあるよ。ウチが泊まった所がホテルだったんだけど。ホテルって部屋にシャワーとか付いてるよね? んで、おい男子来てやったぜ!とか言って思いっきりドアを開けたら、3人部屋だったんだけど、男子の1人がシャワーあがりの全裸でさ。いやーあの時は焦ったよ」
「なんと。池田さん。貴方はモブみたいなのに何とも面白いエピソードがあったんですね!?」
「……あれ? ウチ、なんかとてつもなく馬鹿にされた気が……」
さらっと毒を吐く御影は続いて光の方に顔を向け。
「渡口さんとかはあるんですか?」
やっぱり来るかと露骨に嫌な表情の光は、助け舟が欲しいと千絵に目を向ける。
しかし千絵は眼で「諦めたら?」と拒否する。
光も諦めた様に嘆息して、
「……一応はあるけど」
「本当ですか!? え、お相手はどんな人!?」
御影の叫びは浴場に木霊する。
その声で大浴場にいる他の部員たちも光たちの方に視線が集まる。
居たたまれなくなる光は、口まで湯舟を浸からせぶくぶく泡を吐き。
「別に……言う必要は……」
言いたくなく目を逸らす光だが、御影は思い出したかの様に手槌を打ち。
「あぁ、分かりました。彼氏さんの所ですね。だって、渡口さんって彼氏いましたし」
さらっと、とんでもおない爆弾発言に大浴場にいる皆が一斉に固まる。
盗み聞きしていた部員たちも光の彼氏の存在に驚いている様子。
そして優菜はお湯を割って光に詰め寄り。
「え、ええ光さんって彼氏居たの!? いや、光さん可愛いから別にいても可笑しくはないんだけど。全然そんな浮いた話聞いた事がないし! え、もしかして晴峰さんって光さんの彼氏を知っているの?」
「はい。中学の全国大会で一度見た事があります。陰から少し見てましたが、かなりラブラブな感じでしたよ」
ひぃひゃああああ! と奇妙な黄色い声をあげる優菜。
更に居た堪れなくなる光は顔を紅葉の様に染め上げ、頭の先までお湯に浸からし隠れていた。
しかし、恋盛りの女子高生。熱の上がった恋バナは止められない。
「え、どんな人!? どんな感じだったのその彼氏って。顔とか!?」
「顔は、正直ハッキリとは覚えていませんが、特別にカッコイイ訳でもなく、カッコ悪いって感じではなかったはずです。ですが、かなりお優しい方でしたよ。落ち込む私を、精一杯に励ましてくれましたし」
「……なんか、それはそれで少し心配だね。もしかして、その人って女たらし?」
「そうだねー。その人多分、物凄ッい女たらしだよ、天然の」
割って入り不機嫌そうに中傷する千絵に優菜は頬を引き攣らせ。
「高見沢さんの言葉がなんか刺々しいね……。もしかして高見沢さんもその光さんの彼氏を知っているの?」
さーねー。とはぐらかす千絵。
ここで優菜は困ったな……と表情を歪ます。
「光さんに彼氏……。これは秘密裏にしておかないと。この事が『渡口光ファンクラブ』に知られれば」
「ねえ、なんか私の知らない所で非公式のファンクラブの存在が聞こえたんだけど!?」
初知りの事実に湯舟から顔をあげる光。
大声を張り上げる光に、キョトンとした顔で優菜は言う。
「え、知らない? 陰から光さんを応援するファンクラブ。60人も入会してるんだよ」
「知らない知らない! なにそれ、怖いんだけど!?」
光たちの高校の生徒数は男子約150人、女子約140人である。
「ついでに最近勢力を伸ばし始めてるファンクラブが存在するの、それは『晴峰御影ファンクラブ』!」
「私のもあるんですか!? 私、まだ転校して来てまだあまりないんですが!?」
「だって晴峰さん可愛いじゃん。モデルみたいでスラっとしているしさー」
嫉妬を混ぜた口ぶりで唇を尖らす優菜。
「ついでに晴峰さんの方も大体60人程入会してるんだけど。本当に凄いんだよ。互いの偶像の為、裏切り、乱闘、取引で相手を蹴落としたりと」
「「なんで私たちの知らない所で殺伐しているの(んですか)!?」」
「まあ、嘘なんだけどいだだだだっ! ごめ、ごめん! ちょっとからかっただけッ! だから二人で頬を引っ張らないでぇえええ!」
優菜の絶叫が大浴場に木霊した所でジリリリリリ!と更衣室からベルの音が鳴る。
これは2年の入浴時間終了5分前を知らせるベルだ。
優菜の頬を解放した光と御影は湯舟から上がり、
「もう、本当に驚いたんだからね。流石に漫画みたいな学生でのファンクラブとかある訳ないか」
「そうですよね。そんな漫画みたいな」
「……2人のファンクラブがある事自体は本当なんだけど」
「「なにか言った(いました?)」」
「なんでもないよー」
優菜も湯舟から上がり、光の方に目を向ける。
「それはそうと。光さんの彼氏さんの話、部屋でじっくり聞くとしますか。夜は長いよ。就寝時間まで寝れると思わない事だね!」
「なッ…………!」
最後っ屁みたいに言い残して優菜は大浴場を出て行く。
覚えてたか……と固まる光は、目尻に涙を溜めて千絵に再度の助け舟を要請する。
「ち、千絵ちゃん……?」
親友に助けを求めれるが、千絵はニッコリと笑顔で。
「諦めろ♪」
千絵の笑顔が鬼の様に見える光だった。
夕食の下拵えや調理、大浴場の清掃は太陽、信也、千絵の3人で完遂した。
助っ人組のもう1人である光だが、彼女は殆ど短距離組の指導で時間を費やし、練習が終了するまで3人に合流することが出来なかった。
過酷な練習で空いたお腹を満たす為の、怒涛の夕飯時間も終えて、入浴タイム。
1日の疲れを癒す、至福の一時。
入浴には時間割り振られており、男女共に、まずは3年生、次に2年生、最後に1年の学年順で入浴の時間が決まっている。
3年の入浴時間は過ぎ、遂に待ちに待ったと2年生が入浴する。
舞台は女湯。そこには若い肉体をした瑞々しい乙女達が一日の疲れを取っていた。
「ふわぁ~疲れた体に染み渡る~」
2年生の短距離組、池田優菜が肩までお湯に浸からせ極楽と表情を歪ませる。
後続で湯舟に浸かる光が苦笑をして。
「優菜ちゃん、なんかおじさんみたい」
「なんだとー! ウチのどこがおじさんだ! てか光さん。湯舟にタオルを付けるのはマナー違反だよ! 即刻タオルの退去を言い渡す!」
「ちょ! 分かった取るから! お願いだから強引に取ろうとしないでよ!」
浴室の片隅で攻防を繰り広げるのを他所に、身体を洗う千絵が2人を諫める。
「もう池田さんに光ちゃん。お風呂場だと声が響くからもう少し静かに。他の人の迷惑になるから」
「「はーい」」
もう、とため息を吐いて、千絵は再び身体洗いに戻る。
その隣で同じ様に身体を洗っていた御影が微笑して。
「なんだか高見沢さんってお母さんみたいだね。手のかかるお子さんがいて大変だね」
「誰がお母さんだ。まあ、子供を持つとこんな感じなのかな……。けど、流石に高校生になっても、風呂場ではしゃぐ子には育ってほしくないかも……」
半眼で2人を睨む千絵に光が手を挙げて反論する。
「ちょっと千絵ちゃん。確かに大声を出したのは認めるけど、私被害者だよ!?」
「光ちゃんの場合は、池田さんの言う通り、タオルを湯舟に付けるのは駄目だと思うよ?」
光の反論も千絵に一瞬されて口を詰まらす。
そして頬を赤くして言い訳を述べる。
「……だって、人に裸を見られるのって恥ずかしいじゃん……」
正当な言い訳を言う光だが、身体を洗い終えて湯舟に入る御影が光の身体を凝視して。
「日本には裸の付き合いってのがあるんですし、そんなの気にしないでいいと思いますよ。それに、渡口さんってスタイルいいから、別に恥ずかしがる事でもないと思いますが?」
「確かに! 渡口さんってスタイルいいよね! 引き締まった所は引き締まって、出ているところはちゃんと出てるし! ナイススタイルって言葉が良く似合う体格だと思うよね!」
光のスタイルは平均な女子高生よりも発育が良い部類だろう。
身長は平均だが、ヒップは引き締まって小振りだが、ウエストもキュッと引き締まり、バストは83とそれなりに大きい。
スタイルを褒められ照れ隠しなのか謙虚に首を振り。
「私なんて全然だよ。優菜ちゃんと晴峰さんの方が全然スタイル良いじゃん!」
「なにをー光さん。それはウチに対しての嫌味か! 憎たらしいBカップの胸を見て、そんな事言えるというのか!?」
優菜は相変わらずのおちゃらけた口調だが、その表情は血の涙を流さんばかりに憎悪に満ちていた。
しかし、それよりも二人の前で湯舟に浸かる御影は哀愁漂う空気で半笑いをして。
「いいじゃないですかBカップもあって……私なんて、Aですよ、……A。ハハッ、笑ってください」
……笑えない。光と優菜の心が揃う。
優菜は申し訳なさそうな表情で頭を下げ。
「なんか……ごめんなさい」
「大丈夫です……気にしてませんので……」
陸上の世界大会有力選手だからと言って、御影も年頃の女の子。
スポーツ選手以前に女性としての自分の身体にコンプレックスを抱いている様子。
何とも重苦しい空気となったが、3人が視線はある人物に集中される。
「ん? どうしたの皆? 私の方をじっと見て?」
あせも防止で胸を持ち上げ胸下を入念に洗う千絵は怪訝そうに首を傾げる。
千絵はこの中で最も身長が低く小柄だが、その体躯に見合わない程の豊満な胸が付いている。
胸は女性として最優の武器と言っても過言ではない。つまり千絵の胸は同性からすれば嫉妬の対象。
羨望と嫉妬の眼差しを向けられ千絵は表情を引き攣らす。
「ね、ねえ……なにか言って! なんか怖い、怖いんだけど!?」
「「「このおっぱいお化け!」」」
「なんで一言一句同じなの!?」
そんなやり取りをした後に千絵も身体を洗い終えて湯舟に浸かる。
「別に胸が大きいからって良い事でもないよ? 肩は凝るし、可愛いブラはないし。値段は高いし」
「あーあっ、胸が大きい人のテンプレートな愚痴ありがとうございます。そうですね。Aカップの私には可愛いブラは沢山ありますよ……胸もブラも可愛いですね私って」
「どんだけ卑屈になってるの晴峰さん!? ホント、太陽君の言う通り凄く属性豊富だね!? 仕方ない。ここはイジラレ役として太陽君を捧げるか……いや、ここは女湯だから太陽君犯罪者になるよね。別にいいか、あの朴念仁は」
「それ以前の問題なんだけど……てか、さり気なく千絵ちゃんヒドイよね」
これ以上胸の話は沼に嵌ると話題は強引に切り捨てる。
そして仕切り直して、湯舟に凭れる優菜は背筋を伸ばし。
「それにしても今日の練習疲れた~。これだと明日筋肉痛確定だよ……」
「そうならない様にお風呂に入った後のストレッチは大事ですね。同じ部屋ですし、ストレッチ一緒にしましょう」
「そうだね。ありがと晴峰さん!」
後出しだが、この4人の宿泊する部屋は同室で、その為現在の様に和気藹々と話せてる。
部員同士で会話する一方、助っ人組の光は千絵に申し訳なさそうに謝る。
「それにしてもごめんね千絵ちゃん。夕食や清掃を殆ど任せちゃって……」
「気にしなくていいよ。この合宿は部員全員のスキルアップの為のモノ。光ちゃんの指導がその役に立つならそっちをするべきだよ。それに、皿洗いとか食堂の清掃とかは1年生がしてくれてるし、今はゆっくりと湯舟に浸かってリラックスだよ」
朝食、昼食は練習や準備で忙しいが、夕食後の自由な時間が多い時ぐらいは助っ人組を休ませる為に、夕食後の雑用は1年生がする事になっており。
今日使用した練習着は学年関係なく各々が洗濯する様にはなっている。
その為、光と千絵も2年生の時間にこうやって入浴出来ているのだが。
「この後殆ど就寝まで自由時間だけ、皆はなにする?」
千絵達も今日の臨時マネージャーの仕事の殆どを終えて手持無沙汰になり、就寝までの残り3時間は特に予定はない。
それに御影ははいはいと手を挙げ。
「でしたらトランプとかをしましょう! 大富豪やババ抜きとか」
「なんだか修学旅行みたいだね。あっ、負けた人は秘密を暴露とかの罰ゲームがあった方が燃えるよね」
御影の提案は兎も角、優菜の嫌な予感に光と千絵は苦笑い。
「修学旅行と言えば、中学の頃の時って夜何してましたか?」
晴峰の唐突な質問に千絵は首を傾け。
「夜なにしてたとは?」
「ほら、あれです。漫画とかでよくある定番の、男子の部屋に行ったとかです。私の中学の頃の学校は校則が厳しかったので実行は出来ませんでしたが(別に行きたいと思える男子もいませんでしたが)。この中でそれを実行した人はいますか?」
ウキウキと目を輝かせる御影。
御影は真面目なのだが、何処か抜けた部分もあり、変な部分に憧れを持つきらいがありそうだ。
「ウチはあるよ。ウチが泊まった所がホテルだったんだけど。ホテルって部屋にシャワーとか付いてるよね? んで、おい男子来てやったぜ!とか言って思いっきりドアを開けたら、3人部屋だったんだけど、男子の1人がシャワーあがりの全裸でさ。いやーあの時は焦ったよ」
「なんと。池田さん。貴方はモブみたいなのに何とも面白いエピソードがあったんですね!?」
「……あれ? ウチ、なんかとてつもなく馬鹿にされた気が……」
さらっと毒を吐く御影は続いて光の方に顔を向け。
「渡口さんとかはあるんですか?」
やっぱり来るかと露骨に嫌な表情の光は、助け舟が欲しいと千絵に目を向ける。
しかし千絵は眼で「諦めたら?」と拒否する。
光も諦めた様に嘆息して、
「……一応はあるけど」
「本当ですか!? え、お相手はどんな人!?」
御影の叫びは浴場に木霊する。
その声で大浴場にいる他の部員たちも光たちの方に視線が集まる。
居たたまれなくなる光は、口まで湯舟を浸からせぶくぶく泡を吐き。
「別に……言う必要は……」
言いたくなく目を逸らす光だが、御影は思い出したかの様に手槌を打ち。
「あぁ、分かりました。彼氏さんの所ですね。だって、渡口さんって彼氏いましたし」
さらっと、とんでもおない爆弾発言に大浴場にいる皆が一斉に固まる。
盗み聞きしていた部員たちも光の彼氏の存在に驚いている様子。
そして優菜はお湯を割って光に詰め寄り。
「え、ええ光さんって彼氏居たの!? いや、光さん可愛いから別にいても可笑しくはないんだけど。全然そんな浮いた話聞いた事がないし! え、もしかして晴峰さんって光さんの彼氏を知っているの?」
「はい。中学の全国大会で一度見た事があります。陰から少し見てましたが、かなりラブラブな感じでしたよ」
ひぃひゃああああ! と奇妙な黄色い声をあげる優菜。
更に居た堪れなくなる光は顔を紅葉の様に染め上げ、頭の先までお湯に浸からし隠れていた。
しかし、恋盛りの女子高生。熱の上がった恋バナは止められない。
「え、どんな人!? どんな感じだったのその彼氏って。顔とか!?」
「顔は、正直ハッキリとは覚えていませんが、特別にカッコイイ訳でもなく、カッコ悪いって感じではなかったはずです。ですが、かなりお優しい方でしたよ。落ち込む私を、精一杯に励ましてくれましたし」
「……なんか、それはそれで少し心配だね。もしかして、その人って女たらし?」
「そうだねー。その人多分、物凄ッい女たらしだよ、天然の」
割って入り不機嫌そうに中傷する千絵に優菜は頬を引き攣らせ。
「高見沢さんの言葉がなんか刺々しいね……。もしかして高見沢さんもその光さんの彼氏を知っているの?」
さーねー。とはぐらかす千絵。
ここで優菜は困ったな……と表情を歪ます。
「光さんに彼氏……。これは秘密裏にしておかないと。この事が『渡口光ファンクラブ』に知られれば」
「ねえ、なんか私の知らない所で非公式のファンクラブの存在が聞こえたんだけど!?」
初知りの事実に湯舟から顔をあげる光。
大声を張り上げる光に、キョトンとした顔で優菜は言う。
「え、知らない? 陰から光さんを応援するファンクラブ。60人も入会してるんだよ」
「知らない知らない! なにそれ、怖いんだけど!?」
光たちの高校の生徒数は男子約150人、女子約140人である。
「ついでに最近勢力を伸ばし始めてるファンクラブが存在するの、それは『晴峰御影ファンクラブ』!」
「私のもあるんですか!? 私、まだ転校して来てまだあまりないんですが!?」
「だって晴峰さん可愛いじゃん。モデルみたいでスラっとしているしさー」
嫉妬を混ぜた口ぶりで唇を尖らす優菜。
「ついでに晴峰さんの方も大体60人程入会してるんだけど。本当に凄いんだよ。互いの偶像の為、裏切り、乱闘、取引で相手を蹴落としたりと」
「「なんで私たちの知らない所で殺伐しているの(んですか)!?」」
「まあ、嘘なんだけどいだだだだっ! ごめ、ごめん! ちょっとからかっただけッ! だから二人で頬を引っ張らないでぇえええ!」
優菜の絶叫が大浴場に木霊した所でジリリリリリ!と更衣室からベルの音が鳴る。
これは2年の入浴時間終了5分前を知らせるベルだ。
優菜の頬を解放した光と御影は湯舟から上がり、
「もう、本当に驚いたんだからね。流石に漫画みたいな学生でのファンクラブとかある訳ないか」
「そうですよね。そんな漫画みたいな」
「……2人のファンクラブがある事自体は本当なんだけど」
「「なにか言った(いました?)」」
「なんでもないよー」
優菜も湯舟から上がり、光の方に目を向ける。
「それはそうと。光さんの彼氏さんの話、部屋でじっくり聞くとしますか。夜は長いよ。就寝時間まで寝れると思わない事だね!」
「なッ…………!」
最後っ屁みたいに言い残して優菜は大浴場を出て行く。
覚えてたか……と固まる光は、目尻に涙を溜めて千絵に再度の助け舟を要請する。
「ち、千絵ちゃん……?」
親友に助けを求めれるが、千絵はニッコリと笑顔で。
「諦めろ♪」
千絵の笑顔が鬼の様に見える光だった。
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