萌やし屋シリーズ4 異世界召喚されたがギフトは無いし何をしたらいいのかも聞かされていないんだが 第一部

戸ケ苫 嵐

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第三十四話 子供だなんて言って、すまなかった

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 その後、渋るミスズから青い石を受け取り、燃える男を死なない程度に回復させた。正直、この男が死んでも自業自得だとは思うが、ミスズに人殺しはさせたくない。
「…アレぶっつけてから治したるつもりやったんやで?」

 口を尖らせて、不満を漏らすミスズ。
「分かってるよ。よしよし、怖かったな」
 頭を撫でると、眼を細めて脇にしがみ付いてきた。

「…凄いな、あんた。子供だなんて言って、すまなかった」
 追いついてきた女が、軽く頭を下げて言った。
「…まぁええよ。そんだけウチが可愛いってコトやろしな」

「ふ…」
 女は苦笑すると、自己紹介を始めた。
「私はジュリア。ジスレブのサブロゥだ」

『アリア、サブローとはなんだ?』
『狭義には高貴な方に仕える者、広義では剣士です。この方がどちらなのかは分かりません』

 こんな所に高貴な方が居るとも思えないから、広義のほうか?
「ウチは…ミスズ、日本の魔法使いや!」
 ミスズは親指で自分を指して名乗った後、その指を俺に向けた。

「んで、こっちは…えっと、でっかいおっちゃんや!」
 どうやらミスズは、俺の名前を忘れてしまっているようだ。

「ミスズと…」
 ジュリアと名乗った女は、ミスズを指差し、その指を俺に向けた。
「デッカイ・オッチャンか。変わった名前だな」

 いや、そういうボケはいいから。
『ジュリアさん、面白い方ですね』
『こういうのは面白いとは言わない、“痛い”と言うんだ』

「それは名前ではない。俺の名前は“シオン”だ」
 この世界では姓の“ウエクサ”は発音し難いようだから仕方ない。
「そうか、シオン殿か。覚えたぞ」

 ジュリアは自分のコメカミを指先で突いた。
「すまない。外国には変わった名前の者が多いと聞いていたのでな」
 冗談ではなかったようだ。

「まぁ、ウチは全然オッケーやったけど、ジュリアはんには心配掛けたみたいやし、これやるわ」
 言うとミスズは、ジユリアの前に握った手を差し出した。

「…?」
 ジュリアが頸をかしげていると、ミスズは猫の手招きのような仕草で、手を出すように促した。理解したジュリアが手を出すと、ミスズの手から青い石が十個ほど転がり出た。

「綺麗な石だが…これは?」
「口に入れてみ? 噛んだらあかんで? トローチみたいに優しゅう舐めるんや」

 そう言って、ミスズは自分の舌を指差した。ちなみにジュリアに“トローチ”が通じたかどうかは分からない。
 ジュリアは不思議そうに青い石を見ていたが、前触れもなく十個全部を口に放り込んだ。

「…む、むぉ?」
 叫ぶと、ジュリアはマーライオンのように口から水を噴き出した。
「こ、こらなんぜよぼぼぼぼぁあぁ!」

「あーあー、全部入れるアホがおるかや!」
「ミスズさん、あれは水を出す青い石か?」
 青い石には、回復用のものと、単に水を出すだけのものがある。

「せや。いっぺんにようさん出るんやのうて、ちょこっとずつ出るようにしたぁるから、口に入れとくと砂漠越えに便利やろ?」

 砂漠越えが判明したのが今朝だから、風バイクを運転しながら青い石の砂漠越えバージョンを考えたのか。
「それは、凄いな…」

 いや、赤い石の火力調節も簡単にやってのけたし、調節したこと自体は凄くない。
 凄いのは、自分で応用を考え出したことだ。
「げへごほぐは。えらい眼に遭うたぜよ…」

 ジュリアは涙を流しながらひとしきりえづいた。
 砂漠での死因は意外と溺死が多いというが、まぁ、これは関係ないか。

「ミスズさんが説明を怠ったようで申し訳ない。あの青い石は、口に入れると少しずつ水が出る魔法石なのだ。だから、口に入れておけば、砂漠越えしても喉が渇かないという便利な物なのだ」

「…なんと、そんな高そうな物だったのか!」
 噴き出した青い石は、足元で水溜りを作っている。
 思わず拾おうとするジュリアを、ミスズが止めた。

「拾わんとき。こんなもん、高いことあらへん。なんぼでも作ったるから」
 そう言ってミスズは、ジュリアの手に山盛りの青い石を出した。
「ツバ付けたら水出るようになってるさかいな。一個ずつ使い?」

 そう言ってミスズは、自分の舌を指差した。
 これも風バイクの化学繊維スイッチの応用だな。凄いぞ。

「あんたたちは砂漠を越えるのか? なら砂龍には注意しろよ」
 俺たちの行先を聞いたジュリアの一言目がこれだ。
 砂漠で危険なのは砂龍、というのは統一見解のようだ。

「やはり砂龍は危険な相手なのか?」
「当然だ。ヤツのせいで、ここの砂漠越えはなかなか面倒なんだ」
「あんたたちはどうやっているんだ?」

 俺たちのイレギュラーな砂漠越えに応用はできそうにないが、だとしても知っておいて損はないはずだ。

「隊商のやり方なら教えてやれる。まず、荷物は足の裏に毛の生えた駄獣で運ぶ。駄獣は足音が小さいから、砂龍に狙われにくいんだ」
「なるほど」

「そして、離れた場所に鳴り物を付けた鳥を放す。鳥は砂龍に襲われれば飛び立つが、鳴り物が重いせいで長くは飛べん。すぐに砂の上に降りて、砂龍に狙われる。そうやって砂龍を惹きつけてくれている間に、隊商は砂漠を越えるのだ。鳥と鳴り物はその辺りの店で買える」

 なるほどな。この街に入ってから、ガチャガチャ聞こえていたのはその鳥の音か。
「ありがとう、勉強になったよ」
 予想通り役には立ちそうにないが、言葉通り勉強にはなった。

「それでは、私は隊に戻る」
 言葉を切ったジュリアは、手にした皮袋を肩の高さまで上げた。
「無礼な私に、このような貴重な物を授けていただき、まことにかたじけない」

 ミスズの石が貴重なのは間違いないが、俺にはありがたみが薄い。世界的には珍しいが、日本にはいくらでも居るタヌキみたいなものだ。
 ぺこりと頭を下げると、ジュリアは駆け足で去っていった。

「おもろい姉ちゃんやったなぁ。なんか、また会える気がするわ」
「うーん。それは、どうだろうなあ」

 ミスズはダンコフに行って、魔女を倒した後は元の世界に帰るのに、どんな展開になれば再会できると思うのだろう?

 黒尽くめ男以降、たいしたトラブルもなくレクバール滞在は終わり、俺たちは翌日の夕焼け前に発った。ふたつの月が照らす紫色の砂漠を、風バイクで進む。月が一個だけのあっちの満月よりかなり明るいので、“砂漠の歩き方”を読むのに問題はない。

「えっと、ロッキビンは、あの星から三十度右に進めば着くらしい」
 あの星とは、北の空に一際大きく輝く星だ。こちらにも北極星のような、見かけ上動かない星があるのはありがたい。

 大まかな方向しか分からないが、それでも“砂漠の歩き方”は役に立つ。とにかく書かれてある方向に進めば、多少ずれても砂漠は越えられるのだ。
 勧めてくれたエーリカに感謝だな。

「ミスズさん、眠くなったら代わるからな」
「ウチは若いさかい大丈夫やって。おっちゃんこそ寝とき」

 夜の間休みなく走れば、ほぼ砂漠は越えられるだろう。超えられなければ、残りは風バイクの断熱性能に期待して走り切る!
 我ながらいい加減だな。

「じゃあ、ちょっと眠らせてもらう」
「おー、ミスズさんに任しとき」
 神の導きがあらんことを。
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