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第二十八話 私は浅ましい女です
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「ちょっと待て、魔界というのは、この世…国の常識なのか?」
「左様です。失礼ですが、シオン様は南方のご出身なので?」
北のことを知らないから、南の国出身と思われたのか。
「あ、あぁそうだ。詳しくは言えないが、南だ」
詳しくは知らないからな。
「なぁなぁ、バケモノとマモノって、どう違うんや?」
対応に窮していると、ミスズがカウンターに肘を衝いて、言いがかりのように質問を投げた。多分本当に言いがかりだし、俺のためにしてくれたのではないと思うが、この際贅沢は言うまい。ナイスだぞ。
「申し訳ありませんが、詳しいことは存じません。“バケモノより危険な敵”ということくらいしか…」
表情を変えることなく答え、エーリカは頭を下げた。
「ははーん! そんなことで、よう互助会の受付とかやって…」
「そこまでにしておこうか、ミスズさん」
俺は暴れるミスズを抱えて口を塞ぎ、エーリカに向き直った。
「悪い子ではないのだが、口が悪くて申し訳ない」
「いえ、気にはしておりません」
エーリカは、妙に迫力のある笑顔で答えた。
『どう違うか、アリアは知っているのか?』
『はい、存知ております。“バケモノ”は、普通の動物が魔力によって“化け”るものなので、バケモノと称します。“マモノ”は魔力自体が生き物のように振舞ったものです』
『悪魔というのは、マモノとは違うのか?』
『知性を持ったマモノを悪魔と呼んでいます。知性の無いマモノに善悪は問えませんが、知性を持ちながら人類に害を及ぼすなら、それは悪意があるに違いないだろうと。悪意のある魔の者ですから、悪魔と名付けられました』
『なるほど、明確な違いがあるのだなあ痛あぁ!』
ミスズに思い切り手を噛まれた。
「ぶは! …口押さえたまま呆けんなや! 死ぬかと思たやんけ!」
「…おぉ、すまんすまん。いや、イマフさんがな、バケモノとマモノと悪魔の違いを教えてくれたんだ」
「んぉ? ほんまか! ほんで、どういうことなん?」
その場にいたミスズ、エーリカに、アリアから聞いたままを伝えた。
聞いたままを口から出しただけだが、それだけでも思考に効果はあるようで、色々と思うところがあった。
例えば、ウイルスが動植物を奇形にしたりするが、魔力が動物をバケモノにするのと似た様な現象と思えば納得できる。
ということは、動物を変化させるという“魔力”とは“物質”なのだろうか?
また、ミスズが魔力を集めて石にするのも、魔力がマモノになったりするのも、魔力=物質と考えれば分かりやすい。
もしかすると“マモノ”や“悪魔”は、魔力という物質が命を持った“付喪神”のようなものかも知れない。
…などと思うのは、ちょっと想像が過ぎるだろうか。
「…なるほど、そういうことなのですか。ありがとうございます」
「恐れ入ったか、ふふーん!」
「なんでキミが自慢げなのだ?」
勿論、俺が考えただけの部分は、ふたりには言っていない。
その後、互助会を出た俺たちは、出店で食事をして家に帰った。ちなみに今日のディナーは、俺がラウヌア初日に食べたタコヤキ似のヤツで、俺のジャンクな味覚には一番合うし、ミスズも食べたがる。
今日互助会で聞いた話をまとめると、この大陸の北に魔界と呼ばれる国があって、時折そこからバケモノ以上にヤバい“マモノ”と、ごくまれに知性を持った“悪魔” というとんでもないヤツがやってくる。
それに対抗するために、近傍の各国は、武器や防具の製造開発に余念がない。
そしてそれはこの辺りの国では常識。
…ということだった。なんて嫌な常識なんだ。
最後に、魔界に興味があるかとエーリカに尋ねられたので、何気なく“面白そうだな”と答えたら、ニヤリと笑われた。
ニコリでなくニヤリだ。自分よりずっと弱いヤツが、余裕ぶったことを言ったら、そりゃあ面白いよな。俺だって笑うぜ。
「北から、北から、悪魔が来てる~てか?」
「なんやその歌?」
「いや、なんとなくな」
この大陸がどんな形をしているのかは知らないが、北から来るのは冬将軍くらいにしておいて欲しいものだ。
ベッドに横になり、明かりを消す。
目の前にアリアが居るのを確認して、“アリア”と心の中で語りかけた。
しかしアリアは反応しなかった。
いつもの素振りを見ていると、聞こえない振りをしているというわけでもなさそうだ。
『アリア』
もう一度、今度は強めに、念じるように問いかけた。
『はい?』
すぐにアリアは応えた。
なるほどな、アリアに話しかけるには、実際に口に出すか、伝わるように言語化を意識すれば伝わるが、ただの思考が伝わるわけではないらしい。ましてや記憶の底に沈んでいるような、昔の記憶を読まれるなどということはあり得まい。
『そういうことだよな?』
『えっ? なんでしょうか、シオン様?』
まぁそうなるな。思ったとおりだ。
やはり想像通りのようだが、便利なのか不便なのか分からん。
『いや、少し話をしたいと思ってな』
『…はい』
歯切れの悪い答えを返すアリア。問い詰めを覚悟しているようだ。
『アリアの国、ダンコフと言ったか。それはどこにある?』
『はい、このサルトーレスのずっと北にあります』
なんとなくほっとした顔のアリアが即答した。
『俺を呼んだ理由というのは、魔界と関係のある話なのか?』
『いえ、関係ないと思いますが…はっきりとは申せません』
まぁそうだろうな。何がどう関係しているかなんて、テレビもネットもないこの世界じゃ、把握するのは難しいだろう。
『明確な答えにならなくて、申し訳ありません』
『いや、構わん』
答えた俺は、欠伸をひとつして言葉を繋いだ。
『それと、俺の頭をいじくったってことだが…』
アリアの顔が、微かに“その質問か”と言いたげに変化した。
『やはり、そのことでございますね…』
『お前はどれくらいのことを知っているんだ? 俺がこっちに来てからのこととか』
『はい。私が知るすべてをお話します』
『あぁ、納得いく話を聞かせてくれ』
『私は彼の地でシオン様をみつけて、こちらの世界にお連れしました。こちらの世界に着いたところで、私のお役目は終わり、私の視界は閉ざされました。そこで命も尽きるはずでした』
俺が魚で、アリアが釣り針。使い捨ての釣り針のようなものか。
国の危機でやむを得ずやったことだろうが、その釣り針に人の命が使われて、かかる魚も人間なのがモヤモヤする。
とは言え、自分たちになんのリスクもなしで、異世界人を呼びつけて“命がけで戦え”と命令するのも違うだろう。
そんなことをされれば、魔女より先にそれを命じた邪知暴虐な王を倒したくなる。
『…ですが、視界が閉ざされる刹那、私は間違った場所にお連れしてしまったことに気付きました。なんとかしなくてはと思いました。そんな私の焦りが神に届いたのでしょうか、私は消えませんでした。とは言え、遅かれ早かれ消えてしまう命であることには変わりはありません。シオン様の状況は分からないものの、予定と違う場所にお連れしてしまったので、消えてしまわないうちに、なんとか状況を好転させようと考えました』
だから急にこっちの言葉が分かるようになったのか。あれは確かに驚きはしたが、とてもありがたかった。
『…そうしてシオン様を最適化している内に、私は欲が出てしまったのです。…もしかしたら私はこのまま存在し続けられるのではないか、消えずに済むのではないかと、思ってしまったのです。できることなら、ダンコフの行く末を見届けるまで、私は消えたくなかったのです。私はシオン様の頭の中に、生き汚くも、自分の居場所を作り上げ、その中に収まりました』
ふむ。俺の気分がころころ変わったり、妙に女々しくなったりしたのはこの頃か。自分の頭がおかしくなってしまった。困ったことになったと思っていたから、真実が判明して助かった。
『外の様子が分かるようになったとき、偶然シオン様とミスズ様が危機に陥っていました』
それで“間に合いました”か。話が現在に繋がったな。
『…おふたりをお助けできたのは喜ばしいことですが、そもそも私が間違わなければ済んだこと…』
『そう自分を責めるものではない。お前の所為とは限らないだろう』
『だとしても、私は浅ましい女です…』
『くだらん!』
その物言いにカチンと来たので、心の中で怒鳴ったところ、驚いたようにアリアがこちらを向いた。
『生きるのにキレイも汚いもあるかよ。人間は生きることに意味があるんだ。死ぬこと自体にはなんの意味もねぇ。ミスズさんだって、子供時代にこんな世界に放り込まれて、たったひとりで生きてきたんだぜ。そんなことお前にできるか? 俺にはできないぞ。キレイ事で済むわけがないだろうが!』
『ですが私は…』
『うるせぇな! 俺の頭ならいくらでも使え。大して使ってなかったから、中身が増えてむしろありがたいぜ!』
『シオン様…』
俺の胸にアリアが覆いかぶさってきた。
『私は、生きていてもいいのですね…?』
『何度も言っただろうが! 命の限り生きて俺を導け。それが俺を異世界くんだりまで引っ張ってきたお前の、唯一の責任の取り方だ!』
その身体は細かく震えていた。
不思議なことに、触れられている感覚がある。温もりも感じるような気がする。
俺はその頭に、そっと手を載せた。
『…とりあえずミスズさんには、アリアのことは内緒にしておく。あの子は、仲間を増やすことをとても嫌うのだ。お前を紹介するにしても、タイミングは俺が計る。いいな?』
『わ、わかりました…』
顔を上げたアリアが、微かに笑んだ。
『それでいい』
女の泣き顔は嫌いだ。
俺には如何ともし難いときでも、無理だと分かっていながら、どうにかしなくてはと思ってしまう。要するに冷静で居られなくなるし、気が急いて心がざわざわする。
そういう性分だから仕方ない。
因みに、男の泣き顔はもっと嫌いだ。汚いから。
『…シオン様? ミスズ様といえば…』
アリアの頬に、ふっと赤みが差した。
『ミスズさんがどうかしたのか?』
『その、よくあるのですか? このようなことが…?』
『えっ?』
『ミスズ様とは、そのようなご関係なのですか?』
『えっ?』
気がつくと、例によってミスズが裸で寝ていた。
「あのなぁ!」
「左様です。失礼ですが、シオン様は南方のご出身なので?」
北のことを知らないから、南の国出身と思われたのか。
「あ、あぁそうだ。詳しくは言えないが、南だ」
詳しくは知らないからな。
「なぁなぁ、バケモノとマモノって、どう違うんや?」
対応に窮していると、ミスズがカウンターに肘を衝いて、言いがかりのように質問を投げた。多分本当に言いがかりだし、俺のためにしてくれたのではないと思うが、この際贅沢は言うまい。ナイスだぞ。
「申し訳ありませんが、詳しいことは存じません。“バケモノより危険な敵”ということくらいしか…」
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俺は暴れるミスズを抱えて口を塞ぎ、エーリカに向き直った。
「悪い子ではないのだが、口が悪くて申し訳ない」
「いえ、気にはしておりません」
エーリカは、妙に迫力のある笑顔で答えた。
『どう違うか、アリアは知っているのか?』
『はい、存知ております。“バケモノ”は、普通の動物が魔力によって“化け”るものなので、バケモノと称します。“マモノ”は魔力自体が生き物のように振舞ったものです』
『悪魔というのは、マモノとは違うのか?』
『知性を持ったマモノを悪魔と呼んでいます。知性の無いマモノに善悪は問えませんが、知性を持ちながら人類に害を及ぼすなら、それは悪意があるに違いないだろうと。悪意のある魔の者ですから、悪魔と名付けられました』
『なるほど、明確な違いがあるのだなあ痛あぁ!』
ミスズに思い切り手を噛まれた。
「ぶは! …口押さえたまま呆けんなや! 死ぬかと思たやんけ!」
「…おぉ、すまんすまん。いや、イマフさんがな、バケモノとマモノと悪魔の違いを教えてくれたんだ」
「んぉ? ほんまか! ほんで、どういうことなん?」
その場にいたミスズ、エーリカに、アリアから聞いたままを伝えた。
聞いたままを口から出しただけだが、それだけでも思考に効果はあるようで、色々と思うところがあった。
例えば、ウイルスが動植物を奇形にしたりするが、魔力が動物をバケモノにするのと似た様な現象と思えば納得できる。
ということは、動物を変化させるという“魔力”とは“物質”なのだろうか?
また、ミスズが魔力を集めて石にするのも、魔力がマモノになったりするのも、魔力=物質と考えれば分かりやすい。
もしかすると“マモノ”や“悪魔”は、魔力という物質が命を持った“付喪神”のようなものかも知れない。
…などと思うのは、ちょっと想像が過ぎるだろうか。
「…なるほど、そういうことなのですか。ありがとうございます」
「恐れ入ったか、ふふーん!」
「なんでキミが自慢げなのだ?」
勿論、俺が考えただけの部分は、ふたりには言っていない。
その後、互助会を出た俺たちは、出店で食事をして家に帰った。ちなみに今日のディナーは、俺がラウヌア初日に食べたタコヤキ似のヤツで、俺のジャンクな味覚には一番合うし、ミスズも食べたがる。
今日互助会で聞いた話をまとめると、この大陸の北に魔界と呼ばれる国があって、時折そこからバケモノ以上にヤバい“マモノ”と、ごくまれに知性を持った“悪魔” というとんでもないヤツがやってくる。
それに対抗するために、近傍の各国は、武器や防具の製造開発に余念がない。
そしてそれはこの辺りの国では常識。
…ということだった。なんて嫌な常識なんだ。
最後に、魔界に興味があるかとエーリカに尋ねられたので、何気なく“面白そうだな”と答えたら、ニヤリと笑われた。
ニコリでなくニヤリだ。自分よりずっと弱いヤツが、余裕ぶったことを言ったら、そりゃあ面白いよな。俺だって笑うぜ。
「北から、北から、悪魔が来てる~てか?」
「なんやその歌?」
「いや、なんとなくな」
この大陸がどんな形をしているのかは知らないが、北から来るのは冬将軍くらいにしておいて欲しいものだ。
ベッドに横になり、明かりを消す。
目の前にアリアが居るのを確認して、“アリア”と心の中で語りかけた。
しかしアリアは反応しなかった。
いつもの素振りを見ていると、聞こえない振りをしているというわけでもなさそうだ。
『アリア』
もう一度、今度は強めに、念じるように問いかけた。
『はい?』
すぐにアリアは応えた。
なるほどな、アリアに話しかけるには、実際に口に出すか、伝わるように言語化を意識すれば伝わるが、ただの思考が伝わるわけではないらしい。ましてや記憶の底に沈んでいるような、昔の記憶を読まれるなどということはあり得まい。
『そういうことだよな?』
『えっ? なんでしょうか、シオン様?』
まぁそうなるな。思ったとおりだ。
やはり想像通りのようだが、便利なのか不便なのか分からん。
『いや、少し話をしたいと思ってな』
『…はい』
歯切れの悪い答えを返すアリア。問い詰めを覚悟しているようだ。
『アリアの国、ダンコフと言ったか。それはどこにある?』
『はい、このサルトーレスのずっと北にあります』
なんとなくほっとした顔のアリアが即答した。
『俺を呼んだ理由というのは、魔界と関係のある話なのか?』
『いえ、関係ないと思いますが…はっきりとは申せません』
まぁそうだろうな。何がどう関係しているかなんて、テレビもネットもないこの世界じゃ、把握するのは難しいだろう。
『明確な答えにならなくて、申し訳ありません』
『いや、構わん』
答えた俺は、欠伸をひとつして言葉を繋いだ。
『それと、俺の頭をいじくったってことだが…』
アリアの顔が、微かに“その質問か”と言いたげに変化した。
『やはり、そのことでございますね…』
『お前はどれくらいのことを知っているんだ? 俺がこっちに来てからのこととか』
『はい。私が知るすべてをお話します』
『あぁ、納得いく話を聞かせてくれ』
『私は彼の地でシオン様をみつけて、こちらの世界にお連れしました。こちらの世界に着いたところで、私のお役目は終わり、私の視界は閉ざされました。そこで命も尽きるはずでした』
俺が魚で、アリアが釣り針。使い捨ての釣り針のようなものか。
国の危機でやむを得ずやったことだろうが、その釣り針に人の命が使われて、かかる魚も人間なのがモヤモヤする。
とは言え、自分たちになんのリスクもなしで、異世界人を呼びつけて“命がけで戦え”と命令するのも違うだろう。
そんなことをされれば、魔女より先にそれを命じた邪知暴虐な王を倒したくなる。
『…ですが、視界が閉ざされる刹那、私は間違った場所にお連れしてしまったことに気付きました。なんとかしなくてはと思いました。そんな私の焦りが神に届いたのでしょうか、私は消えませんでした。とは言え、遅かれ早かれ消えてしまう命であることには変わりはありません。シオン様の状況は分からないものの、予定と違う場所にお連れしてしまったので、消えてしまわないうちに、なんとか状況を好転させようと考えました』
だから急にこっちの言葉が分かるようになったのか。あれは確かに驚きはしたが、とてもありがたかった。
『…そうしてシオン様を最適化している内に、私は欲が出てしまったのです。…もしかしたら私はこのまま存在し続けられるのではないか、消えずに済むのではないかと、思ってしまったのです。できることなら、ダンコフの行く末を見届けるまで、私は消えたくなかったのです。私はシオン様の頭の中に、生き汚くも、自分の居場所を作り上げ、その中に収まりました』
ふむ。俺の気分がころころ変わったり、妙に女々しくなったりしたのはこの頃か。自分の頭がおかしくなってしまった。困ったことになったと思っていたから、真実が判明して助かった。
『外の様子が分かるようになったとき、偶然シオン様とミスズ様が危機に陥っていました』
それで“間に合いました”か。話が現在に繋がったな。
『…おふたりをお助けできたのは喜ばしいことですが、そもそも私が間違わなければ済んだこと…』
『そう自分を責めるものではない。お前の所為とは限らないだろう』
『だとしても、私は浅ましい女です…』
『くだらん!』
その物言いにカチンと来たので、心の中で怒鳴ったところ、驚いたようにアリアがこちらを向いた。
『生きるのにキレイも汚いもあるかよ。人間は生きることに意味があるんだ。死ぬこと自体にはなんの意味もねぇ。ミスズさんだって、子供時代にこんな世界に放り込まれて、たったひとりで生きてきたんだぜ。そんなことお前にできるか? 俺にはできないぞ。キレイ事で済むわけがないだろうが!』
『ですが私は…』
『うるせぇな! 俺の頭ならいくらでも使え。大して使ってなかったから、中身が増えてむしろありがたいぜ!』
『シオン様…』
俺の胸にアリアが覆いかぶさってきた。
『私は、生きていてもいいのですね…?』
『何度も言っただろうが! 命の限り生きて俺を導け。それが俺を異世界くんだりまで引っ張ってきたお前の、唯一の責任の取り方だ!』
その身体は細かく震えていた。
不思議なことに、触れられている感覚がある。温もりも感じるような気がする。
俺はその頭に、そっと手を載せた。
『…とりあえずミスズさんには、アリアのことは内緒にしておく。あの子は、仲間を増やすことをとても嫌うのだ。お前を紹介するにしても、タイミングは俺が計る。いいな?』
『わ、わかりました…』
顔を上げたアリアが、微かに笑んだ。
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俺には如何ともし難いときでも、無理だと分かっていながら、どうにかしなくてはと思ってしまう。要するに冷静で居られなくなるし、気が急いて心がざわざわする。
そういう性分だから仕方ない。
因みに、男の泣き顔はもっと嫌いだ。汚いから。
『…シオン様? ミスズ様といえば…』
アリアの頬に、ふっと赤みが差した。
『ミスズさんがどうかしたのか?』
『その、よくあるのですか? このようなことが…?』
『えっ?』
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