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第十三話 ウチの霊感ヤマカン第六感

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 洞窟探検に向かう前に、例の解説本を買うため、互助会に寄る。
 この前の若い娘に赤い石を十袋渡し、恐る恐る売れ行きを聞く(?)と、右肩上がりである(!)という。安堵したミスズは、にっこり笑って受け取りにサインした。

 すでに言葉が分かるようになったうえ、なぜか文字まで読めるようになった俺には、ふたりのやり取りも、娘の名札から名前がニイナだということも分かった。
 ニイナは、碁盤の目の形にたくさんの凹みがついたトレーを使って、いっぺんに数えている。全部の凹みに石が入れば百個ということになるようだ。

「え? もう赤い石専用の道具を作ったのか?」
 疑問が、つい口からまろび出てしまった。
「あはは。これは、本当はディーズの種を数えるためのものですよ。使えるだろうなと思ったら、やっぱり使えましたね」

 笑いながら、それでもちゃんと数を数えながら、ニイナは答えた。
 ディーズとは、街の外の畑で栽培されている穀物のひとつだ。
 複数の品種をいっぺんに栽培すると、品質がだんだん落ちてくるため、時々純粋種を栽培している村から新しい種を取り寄せるらしい。

「はい、一万個きっかりあります。間違いないです。…多いぶんには問題なかったんですけどね」
「ああ、気が利かなくて。すまん」

「……」
一瞬ぽかんとなったニイナは、慌てて身振り手振りを交えて否定した。
「冗談ですよ!」

「そうか、冗談に気付けずにすまない。すまないついでに、その数える道具は売っているのか? 売っているなら購いたいのだが」
「これですか? 売ってはいませんが…」

 ニイナは道具をヒラヒラさせたあと、決心したように続けた。
「ではこうしましょう。数えなくてもいいですから、あるだけ納入してくださいな。ここで数えて、その数の分だけアプリを払います。その方がおふたりも楽でしょう?」

 今後どんどん数が増えるだろうから、自分で数えてもう一度ここで数えるような二度手間になるより、そうして貰えればありがたい。
「それはありがたいことだ。それでお願いするよ」
 ニイナはこくこくと頷いた。 
 
 続いて物品販売の窓口に向かうと、そちらにはメイド服のような服を着た女が立っていた。胸の名札には“エーリカ”とある。
 俺の元相棒に似た雰囲気を纏った、曰くありげな若い女である。

「始めてお目にかかる方ですね。わたくしエーリカと申します。以後、お見知りおきを…」
 慇懃なエーリカの挨拶に、なぜかムッとなるミスズ。
「どうしたんだミスズさん? この人と、なにか因縁でもあるのか?」

 ミスズの様子に気付き、声を潜めて問いかけた。
「うんにゃ、顔を見たことがあるだけや。話すんは初めてやけど、ウチの霊感ヤマカン第六感が、この女アカンて言うてる!」
「そんな大雑把な…」

 ぷいとそっぽを向くミスズ。
 なお、ヒソヒソ会話は日本語で行われたので、エーリカには聞かれていないはずだ。
「バケモン解説本とか言うのん、買いに来た」

 カウンターに肘を衝いて、むすっと注文するミスズ。
「洞窟解説本でございますね。二百アプリいただきます」

「二百!」
 目の前に置かれたガイドブックをペラペラめくって叫ぶ。
「こんな不細工な本が、なんでそんなに高いん?」

 二百アプリは、日本円で約二万円にあたる。
「待て待てミスズさん、これ結構凄いぞ」
「なにが凄いんや?」

 解説本は、基本は印刷だが、内容を直した跡があったり、紙を貼り付けてあったりと、普通の印刷物ではありえない装丁になっている。
「見なよ。絵も字も、誰かが一冊ずつ書き直したんだよ。これだけのページ数だから、高いのは当然だろうな」

 理解を示した俺に、エーリカはにっこり微笑んで答えた。
「さいでございます。ラウヌア程度の街では小部数しか捌けませんので、内容は全国版から必要な分だけ流用しております。また、洞窟情報は頻繁に更新されますので、版木印刷ですとすぐに内容が古くなってしまいます。そのため、最新の内容を記載しますと、こういうちぐはぐな造りになってしまうのです」

「うんうん、分かるぐふっ…」
 ミスズがわき腹に肘鉄を入れてきた。なんだか分からないが、さっきから機嫌が悪い。
「そのため、当方で販売しております書籍はすべて、ご主人を洞窟探検で亡くされた未亡人の方々が、内職として訂正したものであり、生活費の一部となっております」

 言葉を切って、ミスズに顔を向けるエーリカ。
「それでも高いと申されますか?」
「むぐ。…も、もーされまへんわ…」

 俺が見たことのないような複雑な顔をしつつ、おずおずと黄色を二個、カウンターに置くミスズ。
「ご理解いただき恐れ入ります。さらに本書は、洞窟という最悪の環境での使用を考えて、防水処理されております」

「なるほど、それは親切だ。益々お値打ち価格だということが分かったよ」
 ミスズが素早く俺の方を向き、“裏切り者”と言わんばかりの顔で視線を送ってきた。
「恐れ入ります。ただし、墨が染み込みませんので、加筆などできなくなっております。ご注意ください」

「分かった」
 軽く頭を下げた後、俺は言葉をつないだ。
「…あと、狩猟免許を貰いたいんだが、誰に言えばいい?」

「こちらで構いません。…試験を開始しますが、宜しいですか?」
「試験? 互助会に入るには、試験が必要なのか?」

「せやで。ウチのは採集免許やから、洞窟には入れんけど、ツレが狩猟免許持っとったら洞窟探検でけるんや。分かってると思うけど、ウチはひとりじゃ戦えんから、狩猟免許はおっちゃんに取ってもらわなならんねやで?」

「はい。ミスズ様の説明は、大意は合っておりますが、少し補足を」
 姿勢を正して咳払いをひとつ。

「当方はあらゆる方面から依頼を受け、それを会員の方に割り振って手数料を頂いております。その依頼には難易がありますので、会員の方に依頼をこなす能力があるかが問われます。その目安のために実力を知っておく必要があるのです」

「確かに。そういうことなら、会員の実力を把握するのは重要だな」
「はい。ミスズ様の採集免許は、優れた品を何度か納入すれば取れますが、狩猟免許を取るには、一定の戦闘力を示さねばなりません。お分かりいただけましたか?」

「そういうことか。了解した」
「それではこちらに署名と、指先紋様の登録をお願いします」
 指先文様とは指紋のことか。

「指も…指先文様の登録が必要なのか?」
「はい。会員が遭難されますと、救助隊を出すことになりますが、発見された際に口が利ける状況とは限りません。ご存知かも知れませんが、指先文様は個々異なります。これは非常に都合が宜しくございますので、本人か判別するために用います」

 指紋で個人識別できることは、広く知られているわけではないにしろ、認知されているのか。
「シオン・ウエクサ様、でございますね。本来はウエクサ様とお呼びするところですが、発音し難うございますので、シオン様とお呼びして宜しいですか?」

 欧米人には日本人の名前が発音し辛いというが、これもそういうことか。名前で呼ばれるのは正直抵抗があるが、彼らは“変な名前”とは思っていないだろうし、事務処理に支障が出るくらいなら、俺が我慢すればいい。

 そう言えばミスズも名前で呼ばれているが、彼女の姓も発音し難かったのだろうか?
「あぁ、シオンで構わない。…で、試験官は?」
「シオン様の目の前におります」

 カウンター越しに、エーリカの斬撃。
「うおっち!」
 俺は辛うじて身をよじり、背中に背負った剣で受けた。“ゴン”という鈍い音が響く。

「…ゴン?」
 訝しんでエーリカの手元を見ると、握っているのは木剣である。
 横っ飛びしてカウンターを離れたが、カウンターをギリギリの低い軌道で飛び越えて、エーリカが追いすがる。
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