萌やし屋シリーズ4 異世界召喚されたがギフトは無いし何をしたらいいのかも聞かされていないんだが 第一部

戸ケ苫 嵐

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第十二話 ミスズさんも洞窟探検に行くのか?

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 得たりとばかり、ミスズは俺を指差した。
「それや。普通はそうなるけど、さっきバケモンの皮売る話したやん? この辺ウロついてるトニカクやらシカバネと違うて、洞窟にはもっと高う売れるヤツが居るらしいんや」

「なるほど、バケモノそのものがお宝ということか」
「せやせや、バケモンは虫みたいになんぼでも湧いてくるさかい、のうなったりはせえへんのや。もちろんその分しんどいと思うけどな」

 ミスズは洞窟に行ったことがないはずなので、それ関係の情報は、恐らく伝聞であろう。
「面白いな。この街では、主産業の農業があるおかげで、初心者は畑の警備をして生活できるし、経験を積んだら洞窟でバケモン狩りして大きく稼げるわけか。産業として成り立っているんだな」

 思えば、ミスズと初めて互助会に行ったとき、あそこに居た男たちがミスズに目もくれなかったのは、無視したわけではなく単に興味がなかったからだろう。彼らが望むのは探索の仲間であり、薬草採取の女に用はないのだ。

「皮だけやのーてな、バケモンによって歯とか骨とか肝とか、売れるトコ違うし、前に言うた魔石も値打ちモンや。けど、飛び道具とか、毒持ってるヤツも居るから注意もせんならん。詳しいことは、互助会で売ってるバケモン解説本みたいなんに載ってるらしいで」

「色々やってるんだな、互助会」
「凄いやろ、互助会」なぜか自慢げに言った後、なぜか声を潜めるミスズ。「それからな、バケモンやけど、宝物集めて溜め込むんが趣味らしいねん」

「趣味?」
「趣味っちゅーか、仕事? …生き方?」
 もどかしそうに、身を捩じらせるミスズ。
「なんて言うたらええねん?」
 
「習性とかか? ミツバチが蜜を集めるみたいな…」
「それやん! バッチリやん! やっぱおっちゃんカシコやね!」
 ぱちんと手を打ち、俺を指差す。

「いやいや、キミよりほんのちょっと長く学校に行って、ちょっと長く生きてるだけだから、凄くもなんともない」

「あー学校な。ウチも行きたかったけど、ダンプにやられて死んでもうたし、こっちで命もろただけでもめっけモンやからな。言うても残ない話や。…ほな、ミスズ先生の洞窟授業、続けまっせ!」

 学校の話を出したのは失敗だったかと思ったが、すでにミスズは達観しているのか、気にする風でもなかったので安堵した。
「先生、よろしくお願いします」
 なので、ちょっと嬉しくなって、柄にもなくミスズの冗談に乗っかってみた。

「んはは、よっしゃよっしゃ。ちゅーわけで、バケモンはお宝大好きやさかい、ミツバチみたいに集めまくるんや。わかったかー?」
「宝物を? どうやって?」

「人間様から盗んだり、自分で作ったり、山行って掘ったり、勝手に洞窟広げたり。まぁ色々やね。せやから、何遍やっつけても、バケモンはお宝持ってんねん」
 人間から盗んだものでないという前提ならばだが、奪われるために溜め込んでいるとは、哀れでもある。

「作ったりもするのか」
「らしいで。バケモンにもそこそこのカシコが居るみたいやな」
 ある程度の知能があるとしたら、シカバネやトニカクみたいな、獣然としたヤツばかりではないということか。知的生命体に刃を向けるのは気が重いな。

「ふむふむ…それから?」
「せやから、それをぶん取りに行くのもエエ商売なんや。バケモンからぶん取ったモンは、大きな街では高う売れるさかい、互助会に持ち込んだら大概のモンは買い取ってくれるで」
「常識が違う…」

 改めてここが異世界なんだと実感する。
「おっちゃん、ガーンてなるのはまだ早いで。お宝には人間様から盗んだモンもある言うたけど、あっちにはない決まりがあって、いきなり人様から盗んだら泥棒になるけど、誰かがバケモンに盗まれたモンを、別のヤツがバケモンから盗み返すんはエエねん」

「…つまり、間にバケモンが挟まったら、ちゃっかり自分のものにしてもオッケーになるということか?」
「せやせや。元の持ち主に“返せ”言われても、返さんでエエねん」
 バケモノロンダリングとでも言うのか、恐るべきシステムである。

「それでは、例えば誰かから直接盗んだものを、“バケモノが持っていたものを奪ったのだ”と言い張ったらお咎めなしになるわけか?」
「まぁ、人間に盗まれたところ見てなかったら、そうなるんやろな。知らんけど」

「怖い世界だな」
「今更か」
 俺は腕を組み、少し考えた後で口を開いた。

「赤い石の売買だが、互助会に任せるというのはどうだ?」
「んえ?」
 話の流れからは思いもよらない言葉だったからか、変な声で返答するミスズ。
 確かに話題転換は突然だったが、思い出せ、少し前に互助会の話が出ただろう?

「互助会というのは販路拡大のプロなのだろう? なら俺たちがふたりで売り歩くより、手数料は取られるが、広く取り扱い先を探してくれると思うのだ。そうしたら、俺を呼んだ誰かさんも、その線から探しやすくなるはずじゃないか?」

「それええやん! 昼間は時間が空くから洞窟でお宝探し、夜はここで赤い石作り! 完璧な計画や!」
「ちょっと待て? ミスズさんも洞窟探検に行くのか?」
「めっちゃ楽しそうやし、行くに決まってるやん!」

 女子心はときめかないとか言っていたクセに、忘れているようだ。
「ミスズさんは石を出して疲れるから、せめて俺が洞窟に行っている昼間くらいは、休んでほしいと思って言ったんだが…」

「なに言うてんの。ウチはこんなやばい世界で暮らしてきたピチピチの十代やで? 元気なんぞ底なしに沸いてくるわ!」
 腕をぐるんと回してガッツポーズをとるミスズ。

「…そうか。正直に言えば、俺はこの国に不案内だから、一緒に来てくれるのはとてもありがたい。…だが、決して無理をしないでくれ。疲れたら必ず疲れたと言ってくれ。洞窟探検は休めても、石を作るのは休めないのだからな」

 赤い石の販売を互助会に任せる以上、供給を滞らせるわけにはいかない。
「せやな。商売人は信用第一やからな」
「そういうことだ」

 互助会に依頼して数日、互助会の担当者が有能なのか、広場でのプロモーションが効いたのか分からないが、赤い石はそこそこ売れているようだ。
 しかし、そこそこの売れ行きに比して、腱鞘炎になりそうなほどグーパーしても、ミスズの魔法力は尽きることなく、どんどん千個入りの皮袋が積み増されている状況だった。

「…それにしても納得いかんわ。魔法力からっけつになっても、一晩寝たら粗方戻るやん。こんなもんなんぼでも作れるさかい、ホンマはもっと安うして、ジャンジャン売りまくりたかったんやけどな。だいたいおっちゃん、値段の取り決めとか必要なん?」

 椅子の上に胡坐を掻いて、片方の肘を膝に乗せて頬杖をつき、もう片手からは赤い石を手桶にジャラジャラ出しながらミスズがこぼす。

「そう言うなミスズさん。何もかにも突っぱねて、闇討ちなどされても詰まらんだろう? キミの安全のためでもあるのだ」
 ここで話を切り、少し声のトーンを下げて後を続けた。

「それに、魔法石は、一割くらい高くても問題にならないくらい便利だ。みんなが便利さに気付いたら、この先バカ売れするだろう。そうしたら、薪業者も値下げせざるを得なくなるはずだ」

 話が終わった後、俺の顔はかなり悪くなっていただろう。
「そしたらこっちも値下げするんか? けど、値段決められてるって言うたやん? 下げられへんのと違う?」

「フフフ、決められているのは“薪より一割程度高く”だから、もしも薪が値下げしたら、魔法石も値下げする。こっちはグーパーするだけの元手いらずだから、いくらでもついて行ける。ミスズさんが納得するまで値下げすればいいんだ。決定通りだから、文句は言わせない」

「はー、ほんで態々紙にしたんか。やっぱりおっちゃんはカシコやなぁ」
 純粋に感心した後、なにかに引っかかったミスズ。苦笑いして続けた。
「…うんにゃ、カシコっちゅーより、越後屋やね。“お主もワルよのう”って感じや」

「はは、俺もそんな気がしている」
「弱気になったり強気になったり、ホンマに変やな」
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