12 / 24
失った記憶を辿りて
しおりを挟む
記憶を失ったとは自覚できる。それでも失った記憶を取り戻せない
次の日、結界の外に出てみることになった。
『何かあったら助けを呼ぶといい。氷雨の友人だからこの山で無駄に死なせることはしないからね』
「ありがとうございます」
とはいえ怪我をする可能性も高い。懐に用意した火防の霊符を着物の上から確かめて目を瞑った。気配を辿る間も無く、苛烈な神気が近づいてくる。目を開けると数尺先に騰蛇が現れた。警戒をして私の前に出てくれている影縄の肩に手を置く。
「影縄、大丈夫だから後ろに居てくれないか?」
背中を斬られた私にとって、背後を預けられるのは影縄だけだ。騰蛇の神気は恐ろしいが、影縄が後ろに居てくれれば安心して話をすることができる。
「……承知しました」
影縄がゆっくりと私の背後に来たのを確認すると、真っ直ぐと騰蛇を見据えた。騰蛇の顔には戸惑いの感情が露になっている。
「蛍火……いや、秋也。俺のことを覚えていないのか……?」
騰蛇に事実を突きつけるのが何故か苦しい。それでも嘘を吐くことは出来ない。
「残念ながら……騰蛇殿、私は貴方のことを知らない。それに貴方は、私を疎ましく思い部下に私を殺させようとした男の式神だ。手放しで信用することなど出来ない」
騰蛇の瞳が揺れると、唇を強く噛んで俯いてしまった。
秋也は騰蛇の心を傷つけたことに深い罪悪感を覚えていた。だがどうすることも出来ない。どうして私は彼のことを覚えていないのだろうか。覚えていればこの胸のわだかまりは無かっただろうに。
気まずく長い沈黙が流れる中、どこからか巫女の声がした。
『十二天将騰蛇、その少年は貴方の存在と印象が希薄で忘れた訳ではないようですよ。意図的に記憶を消されたと考えた方がよいでしょう』
「龍神の巫女よ。それはどういうことだ?」
騰蛇の問いに答えたのは巫女でなく龍神であった。
『僕が思うに、十二天将との絆を記憶を消すことで無かったことにしたのだろう。そうすれば、その子供が君と契約しようと思わなくなるだろ。君は十二天将の中でも驚恐を司るのだから。まあ、全部憶測だから一旦我が宮に来てくれないかい? 勿論君の神気を抑えてね。巫女が怯えるかもしれないから』
騰蛇が舌打ちすると指を鳴らした。瞬く間に神気の眩い光が包み込んでいく。やがて神気の中から、秋也程の年の姿になった騰蛇が姿を現した。
「これでいいか龍神よ」
『まあ及第点かな。さあ皆此方に来てくれ』
三人で龍神の神域に入る。いまだに騰蛇を警戒しているのか、影縄が私の肩に手を添えると自分の方に引寄せる。心配してくれることはありがたいものだが、過保護なのではないだろうか。絆を深めても影縄には未熟者だと思われているから、仕方がないのだろうか。秋也は苦笑しながらも、影縄の方に身を寄せた。
重傷を負った際に運ばれた宮に来ると巫女の前に正座するように言われた。
「秋也殿、目を瞑ってください」
言われるままに目を瞑ると巫女が私の頭に手を添える。優しい手つきであるが、少し嫌な予感がするのは気のせいか。巫女の霊力が直接頭に流れ込んで来たとき、唐突に意識が闇に沈んだ。
巫女が手を添えた途端、主が崩れるように倒れる。床に主が叩きつけられる寸前、私は主を支えた。
「巫女殿何を……!」
「意識があるままで、記憶を探るのは拷問のようなものです。なので眠ってもらいました」
巫女が騰蛇を手招きすると、騰蛇はゆっくりと巫女の元に来た。
「陰陽師の式神であるのならば同調の仕方は分かりますね? 私と同調してください」
同調とは呼吸、鼓動の速度を合わせて霊気の波動を合わせることであるらしい。私はしたことがなかったので、それが何の意味を持つのかなど知りもしない。
「同調して何をする気だ」
「記憶を探る為に必要なのです。ほら早く」
巫女に手を掴まれ嫌そうな顔をしていたが、騰蛇は巫女の霊気との同調を始める。巫女の霊気が騰蛇の神気と寸分違わぬ波動になると、巫女は再び主の額に触れる。怯えたような顔で身動ぎする主様を私は抱き締めた。
どれくらい経ったであろうか。巫女が手を離した途端、主様が苦しそうに咳をした。背を擦っていると、主様の口元に血が付いているのに気づく。
「巫女殿……これは一体……!」
巫女殿とはなるべく敵対はしたくないが、主様を傷つけるものは許しておけない。私が睨むと、巫女が困ったような顔をした。
「安心してください。この宮では身体の負担はすぐに癒えます。ですが……思ったより負担が重かったようですね。影縄殿すみません。そしてこの子が目覚めたら謝罪しましょう」
巫女は憂い気に主様を見つめると顔を上げた。
「はっきり言いますが、秋也殿は呪詛か何かで騰蛇殿に関する記憶を消されています。いや、消されたというより墨で塗りつぶされたが如く隠蔽をされています」
騰蛇は目を大きく見開くと、拳を握り締めた。
「その呪詛を取り除こうと少し試しましたが、血を吐くほどの負担がかかっているようですね。全部の記憶をここで取り戻そうとすれば、この子は死ぬでしょう」
「ならば……蛍火は俺に関する記憶を失ったままなのか」
巫女は首を横に振った。
「分かりません。時間経過やこの子が術者として腕を上げれば取り戻すかもしれません。……それと呪詛の影響で、もしこの子と貴方が契約をして貴方がずっと本性のままでいた場合も、この子は血を吐いて死ぬでしょうね」
騰蛇の握り締めている拳から、血がぽたぽたと伝った。
思った以上に負担が重かったようで、主は半日経っても目覚めなかった。主の頭を己の膝に乗せて手を握る。騰蛇は黙ってそれを眺めていたが、三刻経ってから口を開いた。
「お前……名前は」
「影縄です。主様が付けてくださいました」
「あの子の呪か」
「はい」
名前というのは短い呪であるそうで、術者は式神に名前を付けることで縛るそうだ。私が「影縄」を名乗ることで、主の式神でいられる。最初は嫌だったのだが、今ではこの名前が好きだと思えるようになった。
「どうしてあの子の傍にいる?」
「どうしてでしょうね。最初は利害関係の一致でした。ですが今は離れたくないのです。あの人が成長する姿を間近で見ていたい。ただそれだけです」
騰蛇は目を細めると口元に笑みを浮かべた。
「お前がいるなら少しは安心だな。……秋也もお前のことを信頼している。俺はもうそんな信頼などされないだろうが」
寂しげな顔をする騰蛇からは驚恐の字が浮かばない。慰めて良いものかも。ただ……
「主様は…己の貴方への言動を悔やんでいたようでしたよ。ですから……今後信頼するかどうかは貴方次第かと」
騰蛇ははっと目を見開くと主の顔を見つめる。主はまだ寝息を立てていた。
「そうか……。そうかもな……」
騰蛇はぽつりと呟いた。
『がっ……あああああっ────!!!』
背中に煮えたぎった液体を掛けられて、幼い私は叫んだ。あまりにも酷く半月生死をさ迷い、1ヶ月程の意識は朦朧としていた。
「蛍火……すまない……守れなくて……」
父ではなく颯月殿でもない男が、幼い私の手を握り締めていた。その温かな手が私をこの世に引き留めているような心地がしたのだ。
『■■■……、ききょう……ごめんなさい……わたしがうまれてこなければ……ちちはおそろしいひとにならなかったのに……』
男は首を横に振る。幼い私の顔に男の涙が落ちた。
『そんなことはない。俺はお前が生まれてくれて良かったと思うし生きていてほしいと思う。だから蛍火……生きてくれ』
男の言葉に救われたのに、男の顔が思い出せない。声が誰なのかも分からない。きっと夢から目覚めればこの事も忘れるかもしれない。
「騰蛇……すまない」
秋也の胸がつきりと痛んだ。
目が覚めると影縄の姿があったが、騰蛇はどこにもいなかった。それに寂しさを覚えた時には、秋也は夢の内容を忘れてしまった。
次の日、結界の外に出てみることになった。
『何かあったら助けを呼ぶといい。氷雨の友人だからこの山で無駄に死なせることはしないからね』
「ありがとうございます」
とはいえ怪我をする可能性も高い。懐に用意した火防の霊符を着物の上から確かめて目を瞑った。気配を辿る間も無く、苛烈な神気が近づいてくる。目を開けると数尺先に騰蛇が現れた。警戒をして私の前に出てくれている影縄の肩に手を置く。
「影縄、大丈夫だから後ろに居てくれないか?」
背中を斬られた私にとって、背後を預けられるのは影縄だけだ。騰蛇の神気は恐ろしいが、影縄が後ろに居てくれれば安心して話をすることができる。
「……承知しました」
影縄がゆっくりと私の背後に来たのを確認すると、真っ直ぐと騰蛇を見据えた。騰蛇の顔には戸惑いの感情が露になっている。
「蛍火……いや、秋也。俺のことを覚えていないのか……?」
騰蛇に事実を突きつけるのが何故か苦しい。それでも嘘を吐くことは出来ない。
「残念ながら……騰蛇殿、私は貴方のことを知らない。それに貴方は、私を疎ましく思い部下に私を殺させようとした男の式神だ。手放しで信用することなど出来ない」
騰蛇の瞳が揺れると、唇を強く噛んで俯いてしまった。
秋也は騰蛇の心を傷つけたことに深い罪悪感を覚えていた。だがどうすることも出来ない。どうして私は彼のことを覚えていないのだろうか。覚えていればこの胸のわだかまりは無かっただろうに。
気まずく長い沈黙が流れる中、どこからか巫女の声がした。
『十二天将騰蛇、その少年は貴方の存在と印象が希薄で忘れた訳ではないようですよ。意図的に記憶を消されたと考えた方がよいでしょう』
「龍神の巫女よ。それはどういうことだ?」
騰蛇の問いに答えたのは巫女でなく龍神であった。
『僕が思うに、十二天将との絆を記憶を消すことで無かったことにしたのだろう。そうすれば、その子供が君と契約しようと思わなくなるだろ。君は十二天将の中でも驚恐を司るのだから。まあ、全部憶測だから一旦我が宮に来てくれないかい? 勿論君の神気を抑えてね。巫女が怯えるかもしれないから』
騰蛇が舌打ちすると指を鳴らした。瞬く間に神気の眩い光が包み込んでいく。やがて神気の中から、秋也程の年の姿になった騰蛇が姿を現した。
「これでいいか龍神よ」
『まあ及第点かな。さあ皆此方に来てくれ』
三人で龍神の神域に入る。いまだに騰蛇を警戒しているのか、影縄が私の肩に手を添えると自分の方に引寄せる。心配してくれることはありがたいものだが、過保護なのではないだろうか。絆を深めても影縄には未熟者だと思われているから、仕方がないのだろうか。秋也は苦笑しながらも、影縄の方に身を寄せた。
重傷を負った際に運ばれた宮に来ると巫女の前に正座するように言われた。
「秋也殿、目を瞑ってください」
言われるままに目を瞑ると巫女が私の頭に手を添える。優しい手つきであるが、少し嫌な予感がするのは気のせいか。巫女の霊力が直接頭に流れ込んで来たとき、唐突に意識が闇に沈んだ。
巫女が手を添えた途端、主が崩れるように倒れる。床に主が叩きつけられる寸前、私は主を支えた。
「巫女殿何を……!」
「意識があるままで、記憶を探るのは拷問のようなものです。なので眠ってもらいました」
巫女が騰蛇を手招きすると、騰蛇はゆっくりと巫女の元に来た。
「陰陽師の式神であるのならば同調の仕方は分かりますね? 私と同調してください」
同調とは呼吸、鼓動の速度を合わせて霊気の波動を合わせることであるらしい。私はしたことがなかったので、それが何の意味を持つのかなど知りもしない。
「同調して何をする気だ」
「記憶を探る為に必要なのです。ほら早く」
巫女に手を掴まれ嫌そうな顔をしていたが、騰蛇は巫女の霊気との同調を始める。巫女の霊気が騰蛇の神気と寸分違わぬ波動になると、巫女は再び主の額に触れる。怯えたような顔で身動ぎする主様を私は抱き締めた。
どれくらい経ったであろうか。巫女が手を離した途端、主様が苦しそうに咳をした。背を擦っていると、主様の口元に血が付いているのに気づく。
「巫女殿……これは一体……!」
巫女殿とはなるべく敵対はしたくないが、主様を傷つけるものは許しておけない。私が睨むと、巫女が困ったような顔をした。
「安心してください。この宮では身体の負担はすぐに癒えます。ですが……思ったより負担が重かったようですね。影縄殿すみません。そしてこの子が目覚めたら謝罪しましょう」
巫女は憂い気に主様を見つめると顔を上げた。
「はっきり言いますが、秋也殿は呪詛か何かで騰蛇殿に関する記憶を消されています。いや、消されたというより墨で塗りつぶされたが如く隠蔽をされています」
騰蛇は目を大きく見開くと、拳を握り締めた。
「その呪詛を取り除こうと少し試しましたが、血を吐くほどの負担がかかっているようですね。全部の記憶をここで取り戻そうとすれば、この子は死ぬでしょう」
「ならば……蛍火は俺に関する記憶を失ったままなのか」
巫女は首を横に振った。
「分かりません。時間経過やこの子が術者として腕を上げれば取り戻すかもしれません。……それと呪詛の影響で、もしこの子と貴方が契約をして貴方がずっと本性のままでいた場合も、この子は血を吐いて死ぬでしょうね」
騰蛇の握り締めている拳から、血がぽたぽたと伝った。
思った以上に負担が重かったようで、主は半日経っても目覚めなかった。主の頭を己の膝に乗せて手を握る。騰蛇は黙ってそれを眺めていたが、三刻経ってから口を開いた。
「お前……名前は」
「影縄です。主様が付けてくださいました」
「あの子の呪か」
「はい」
名前というのは短い呪であるそうで、術者は式神に名前を付けることで縛るそうだ。私が「影縄」を名乗ることで、主の式神でいられる。最初は嫌だったのだが、今ではこの名前が好きだと思えるようになった。
「どうしてあの子の傍にいる?」
「どうしてでしょうね。最初は利害関係の一致でした。ですが今は離れたくないのです。あの人が成長する姿を間近で見ていたい。ただそれだけです」
騰蛇は目を細めると口元に笑みを浮かべた。
「お前がいるなら少しは安心だな。……秋也もお前のことを信頼している。俺はもうそんな信頼などされないだろうが」
寂しげな顔をする騰蛇からは驚恐の字が浮かばない。慰めて良いものかも。ただ……
「主様は…己の貴方への言動を悔やんでいたようでしたよ。ですから……今後信頼するかどうかは貴方次第かと」
騰蛇ははっと目を見開くと主の顔を見つめる。主はまだ寝息を立てていた。
「そうか……。そうかもな……」
騰蛇はぽつりと呟いた。
『がっ……あああああっ────!!!』
背中に煮えたぎった液体を掛けられて、幼い私は叫んだ。あまりにも酷く半月生死をさ迷い、1ヶ月程の意識は朦朧としていた。
「蛍火……すまない……守れなくて……」
父ではなく颯月殿でもない男が、幼い私の手を握り締めていた。その温かな手が私をこの世に引き留めているような心地がしたのだ。
『■■■……、ききょう……ごめんなさい……わたしがうまれてこなければ……ちちはおそろしいひとにならなかったのに……』
男は首を横に振る。幼い私の顔に男の涙が落ちた。
『そんなことはない。俺はお前が生まれてくれて良かったと思うし生きていてほしいと思う。だから蛍火……生きてくれ』
男の言葉に救われたのに、男の顔が思い出せない。声が誰なのかも分からない。きっと夢から目覚めればこの事も忘れるかもしれない。
「騰蛇……すまない」
秋也の胸がつきりと痛んだ。
目が覚めると影縄の姿があったが、騰蛇はどこにもいなかった。それに寂しさを覚えた時には、秋也は夢の内容を忘れてしまった。
0
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
いい加減観念して結婚してください
彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話
元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。
2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。
作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる