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19:カフェ『陽だまり』にて(3)
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「君を失うのは惜しいなあ。二学期に入っても働いてよ」
「いえ、おれは新作ゲームが買えればそれでいいんで」
「冬に『デビルクライシス』が出るけど、それは買わなくていいの? オルバ作ってる会社の新作アクションRPGだよ?」
駆先輩の言葉に、ぴく、と影山くんの耳が動いた。
「1月にはステラとロードも出るよー? 本当にうちのバイト辞めちゃっていいのかなー? やっぱりまた金を稼ぎたいと思ったとき、コミュ障ボーイはバイトの面接を乗り切れるかなー心配だなー?」
影山くんの肩に手を置き、顔を寄せ、頬を人差し指でぐりぐりする駆先輩。
「………………。引き続き働きます」
コミュ障の自覚はあるらしく、影山くんは負けを認めた。
「ありがとう影山くんっ!!」
店長が影山くんに抱き着く一方、駆先輩は「ちょろいなー」なんて笑っていた。
「ひなちゃんはどう? 夏休みが終わったらやっぱり辞めちゃう? シフトは相談に乗るよ? 週に二回とかでもいいよ? ひなちゃんもよく働いてくれるからさ、いなくなったら困るんだよね」
無表情の影山くんをぬいぐるみのように抱きしめたまま、店長が私に顔を向けた。
「そうですね。私もそう思います」
バイト開始当時から優しく指導してくれた伊藤さんも微笑んで頷いた。
緩やかに巻かれた茶色の髪が細い肩の上でふわりと揺れる。
「気が利くし、頑張り屋さんだからな。俺も冗談抜きでここにいて欲しい」
駆先輩も、戸惑うくらいの真剣な目で私を見た。
ここにいて欲しい――その言葉が、真剣な目が、私の胸を震わせる。
……どうしよう、嬉しい。
目頭が熱くなり、私は強く手を握った。
ここで働くスタッフはどういうわけか――ひょっとしたら面食いの店長が厳選してるのかもしれない――美男美女ばかりだから、容姿の劣る私は誰よりも働いてお店に貢献しなくちゃと、メモを取り、わからないことは質問し、早く業務を覚えようと必死にやってきたんだけれど、どうやらその頑張りはちゃんと評価されていたみたいだ。
「ありがとうございます。実は私も夏休み限定で働くのはもったいないなと思ってました。スタッフさんも優しい方ばかりですし。帰ったら親に相談してみますね」
「うん。良い返事を期待してるね!」
店長は笑顔でそう言ってくれた。
「……そろそろ解放してもらっていいですか」
置物みたいにおとなしかった影山くんもそろそろ限界らしく、店長の腕の中で自我を主張した。
「あ、ごめんごめん」
「店長、そろそろ11時でーす。お店開けますよ」
駆先輩が看板を片手で持ち上げ、口調を息子からスタッフへと切り替えた。
「はい。それじゃ皆、今日もよろしくお願いします!」
『よろしくお願いします!』
そして私たちはそれぞれの持ち場につき、働き始めたのだった。
「いえ、おれは新作ゲームが買えればそれでいいんで」
「冬に『デビルクライシス』が出るけど、それは買わなくていいの? オルバ作ってる会社の新作アクションRPGだよ?」
駆先輩の言葉に、ぴく、と影山くんの耳が動いた。
「1月にはステラとロードも出るよー? 本当にうちのバイト辞めちゃっていいのかなー? やっぱりまた金を稼ぎたいと思ったとき、コミュ障ボーイはバイトの面接を乗り切れるかなー心配だなー?」
影山くんの肩に手を置き、顔を寄せ、頬を人差し指でぐりぐりする駆先輩。
「………………。引き続き働きます」
コミュ障の自覚はあるらしく、影山くんは負けを認めた。
「ありがとう影山くんっ!!」
店長が影山くんに抱き着く一方、駆先輩は「ちょろいなー」なんて笑っていた。
「ひなちゃんはどう? 夏休みが終わったらやっぱり辞めちゃう? シフトは相談に乗るよ? 週に二回とかでもいいよ? ひなちゃんもよく働いてくれるからさ、いなくなったら困るんだよね」
無表情の影山くんをぬいぐるみのように抱きしめたまま、店長が私に顔を向けた。
「そうですね。私もそう思います」
バイト開始当時から優しく指導してくれた伊藤さんも微笑んで頷いた。
緩やかに巻かれた茶色の髪が細い肩の上でふわりと揺れる。
「気が利くし、頑張り屋さんだからな。俺も冗談抜きでここにいて欲しい」
駆先輩も、戸惑うくらいの真剣な目で私を見た。
ここにいて欲しい――その言葉が、真剣な目が、私の胸を震わせる。
……どうしよう、嬉しい。
目頭が熱くなり、私は強く手を握った。
ここで働くスタッフはどういうわけか――ひょっとしたら面食いの店長が厳選してるのかもしれない――美男美女ばかりだから、容姿の劣る私は誰よりも働いてお店に貢献しなくちゃと、メモを取り、わからないことは質問し、早く業務を覚えようと必死にやってきたんだけれど、どうやらその頑張りはちゃんと評価されていたみたいだ。
「ありがとうございます。実は私も夏休み限定で働くのはもったいないなと思ってました。スタッフさんも優しい方ばかりですし。帰ったら親に相談してみますね」
「うん。良い返事を期待してるね!」
店長は笑顔でそう言ってくれた。
「……そろそろ解放してもらっていいですか」
置物みたいにおとなしかった影山くんもそろそろ限界らしく、店長の腕の中で自我を主張した。
「あ、ごめんごめん」
「店長、そろそろ11時でーす。お店開けますよ」
駆先輩が看板を片手で持ち上げ、口調を息子からスタッフへと切り替えた。
「はい。それじゃ皆、今日もよろしくお願いします!」
『よろしくお願いします!』
そして私たちはそれぞれの持ち場につき、働き始めたのだった。
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