18 / 31
18:カフェ『陽だまり』にて(2)
しおりを挟む
「いえ、暇なので。働きます。影山くんも働いてますし」
カレーを煮込んでいる店長の傍で、物凄い勢いでサンドイッチ用らしき野菜を切っているのは影山くんだ。
彼もまた私に遅れること一週間、『陽だまり』でバイトを始めた。
店長から「新人さんです。よろしくね」と紹介されたときは心底びっくりした。
不愛想な彼はどう考えても接客向きじゃないし、大丈夫だろうか……などという心配はすぐに露と消えた。
彼はホールスタッフとしては落第でも、キッチンスタッフとしては最高で、素晴らしく料理上手だった。
いまも全自動野菜切りマシーンもかくやという動きで野菜を切っている。
バイト面接のとき、試しに店長がキャベツの千切りを任せてみたところ、あっという間に処理してみせたそうだ。
なんでも彼は小学生の頃に両親が離婚していて、いない母親と仕事で忙しい父親の代わりに家事は自分でやっていたらしい。
光畑くんは「ゲームしか取り柄がない」なんて言ってたけど、とんでもない特技を隠し持っていた。
「頑張ってるね」
近づいて声をかけると、影山くんは手を止め、静かな目で私を見た。
「今日のランチのCセットのメインはサンドイッチだからな。いまのうちに切っとかないと戦争になる。何事も準備は大事だ。オルバⅣのチャプタ7でも開始と同時にいきなりアニラが発狂して戦闘になったけど、事前に光魔法をストックしてたおかげで勝てた」
「ちょっと何言ってるかわからないけど、うん。準備は大事だよね」
慣れたことなので笑顔でスルーし、ダスターを持ってホール内のテーブルを拭いていく。
『陽だまり』は全席禁煙で、テーブル席とカウンター席合わせて40席ほど。
窓を大きく取っているため、店内はとても明るい。
椅子やテーブルは木製。
木製の椅子の座面には柔らかいクッションが敷かれていて、壁際にはソファ席もある。
トイレは清潔を保つため、一時間に一度スタッフがチェックするようにしている。
私の提案でトイレに爽やかなフルーツの香りがする芳香を置くようになったんだけど、一人の女性客がアンケート用紙にそれを書いてくれて、とても嬉しかった。
ダスターを片付けて、カウンター周りの備品を補充し、綺麗に整頓する。
その間に45分になったらしく、ランチタイム限定で働いているアルバイトの女性スタッフ、伊藤さんがホールに出てきた。
大学生の伊藤さんは、背の高いモデル風の美女。
伊藤さんに挨拶してからカウンターに戻り、今日のメニューをチェックして、表に出す店の看板にカラフルなチョークで今日のメニューを書き込む。
Aセットはカレー、Bセットはナポリタン、Cセットはサンドイッチ。
店長は丸っこい私の字が気に入ったみたいで、働き出してからは私が店の看板を書くようになった。
空いたスペースもイラストか文字でなるべく埋めて欲しいと言われている。
今日は何を描こうかな。
そうだな、暑いし、夏の定番の向日葵にしよう。
黄色とオレンジと緑のチョークを駆使して二本の向日葵を描いた私は、グラスを磨いている店長の元へ行った。
「店長、看板チェックお願いします」
「うん、いいね。駆、モップ掛け終わった?」
「おう、ばっちり」
駆先輩が伊藤さんと一緒にカウンターの中に入ってきた。
「開店まであと10分もあるね。いやー優秀なスタッフが二人も入ってくれておじさん嬉しいよ」
「夏休み限定ですけど」
影山くんは切った野菜を業務用の大型冷蔵庫に入れて、淡々と言った。
カレーを煮込んでいる店長の傍で、物凄い勢いでサンドイッチ用らしき野菜を切っているのは影山くんだ。
彼もまた私に遅れること一週間、『陽だまり』でバイトを始めた。
店長から「新人さんです。よろしくね」と紹介されたときは心底びっくりした。
不愛想な彼はどう考えても接客向きじゃないし、大丈夫だろうか……などという心配はすぐに露と消えた。
彼はホールスタッフとしては落第でも、キッチンスタッフとしては最高で、素晴らしく料理上手だった。
いまも全自動野菜切りマシーンもかくやという動きで野菜を切っている。
バイト面接のとき、試しに店長がキャベツの千切りを任せてみたところ、あっという間に処理してみせたそうだ。
なんでも彼は小学生の頃に両親が離婚していて、いない母親と仕事で忙しい父親の代わりに家事は自分でやっていたらしい。
光畑くんは「ゲームしか取り柄がない」なんて言ってたけど、とんでもない特技を隠し持っていた。
「頑張ってるね」
近づいて声をかけると、影山くんは手を止め、静かな目で私を見た。
「今日のランチのCセットのメインはサンドイッチだからな。いまのうちに切っとかないと戦争になる。何事も準備は大事だ。オルバⅣのチャプタ7でも開始と同時にいきなりアニラが発狂して戦闘になったけど、事前に光魔法をストックしてたおかげで勝てた」
「ちょっと何言ってるかわからないけど、うん。準備は大事だよね」
慣れたことなので笑顔でスルーし、ダスターを持ってホール内のテーブルを拭いていく。
『陽だまり』は全席禁煙で、テーブル席とカウンター席合わせて40席ほど。
窓を大きく取っているため、店内はとても明るい。
椅子やテーブルは木製。
木製の椅子の座面には柔らかいクッションが敷かれていて、壁際にはソファ席もある。
トイレは清潔を保つため、一時間に一度スタッフがチェックするようにしている。
私の提案でトイレに爽やかなフルーツの香りがする芳香を置くようになったんだけど、一人の女性客がアンケート用紙にそれを書いてくれて、とても嬉しかった。
ダスターを片付けて、カウンター周りの備品を補充し、綺麗に整頓する。
その間に45分になったらしく、ランチタイム限定で働いているアルバイトの女性スタッフ、伊藤さんがホールに出てきた。
大学生の伊藤さんは、背の高いモデル風の美女。
伊藤さんに挨拶してからカウンターに戻り、今日のメニューをチェックして、表に出す店の看板にカラフルなチョークで今日のメニューを書き込む。
Aセットはカレー、Bセットはナポリタン、Cセットはサンドイッチ。
店長は丸っこい私の字が気に入ったみたいで、働き出してからは私が店の看板を書くようになった。
空いたスペースもイラストか文字でなるべく埋めて欲しいと言われている。
今日は何を描こうかな。
そうだな、暑いし、夏の定番の向日葵にしよう。
黄色とオレンジと緑のチョークを駆使して二本の向日葵を描いた私は、グラスを磨いている店長の元へ行った。
「店長、看板チェックお願いします」
「うん、いいね。駆、モップ掛け終わった?」
「おう、ばっちり」
駆先輩が伊藤さんと一緒にカウンターの中に入ってきた。
「開店まであと10分もあるね。いやー優秀なスタッフが二人も入ってくれておじさん嬉しいよ」
「夏休み限定ですけど」
影山くんは切った野菜を業務用の大型冷蔵庫に入れて、淡々と言った。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
放課後はネットで待ち合わせ
星名柚花(恋愛小説大賞参加中)
青春
【カクヨム×魔法のiらんどコンテスト特別賞受賞作】
高校入学を控えた前日、山科萌はいつものメンバーとオンラインゲームで遊んでいた。
何気なく「明日入学式だ」と言ったことから、ゲーム友達「ルビー」も同じ高校に通うことが判明。
翌日、萌はルビーと出会う。
女性アバターを使っていたルビーの正体は、ゲーム好きな美少年だった。
彼から女子避けのために「彼女のふりをしてほしい」と頼まれた萌。
初めはただのフリだったけれど、だんだん彼のことが気になるようになり…?
無敵のイエスマン
春海
青春
主人公の赤崎智也は、イエスマンを貫いて人間関係を完璧に築き上げ、他生徒の誰からも敵視されることなく高校生活を送っていた。敵がいない、敵無し、つまり無敵のイエスマンだ。赤崎は小学生の頃に、いじめられていた初恋の女の子をかばったことで、代わりに自分がいじめられ、二度とあんな目に遭いたくないと思い、無敵のイエスマンという人格を作り上げた。しかし、赤崎は自分がかばった女の子と再会し、彼女は赤崎の人格を変えようとする。そして、赤崎と彼女の勝負が始まる。赤崎が無敵のイエスマンを続けられるか、彼女が無敵のイエスマンである赤崎を変えられるか。これは、無敵のイエスマンの悲哀と恋と救いの物語。
拝啓、お姉さまへ
一華
青春
この春再婚したお母さんによって出来た、新しい家族
いつもにこにこのオトウサン
驚くくらいキレイなお姉さんの志奈さん
志奈さんは、突然妹になった私を本当に可愛がってくれるんだけど
私「柚鈴」は、一般的平均的なんです。
そんなに可愛がられるのは、想定外なんですが…?
「再婚」には正直戸惑い気味の私は
寮付きの高校に進学して
家族とは距離を置き、ゆっくり気持ちを整理するつもりだった。
なのに姉になる志奈さんはとっても「姉妹」したがる人で…
入学した高校は、都内屈指の進学校だけど、歴史ある女子校だからか
おかしな風習があった。
それは助言者制度。以前は姉妹制度と呼ばれていたそうで、上級生と下級生が一対一の関係での指導制度。
学園側に認められた助言者が、メンティと呼ばれる相手をペアを組む、柚鈴にとっては馴染みのない話。
そもそも義姉になる志奈さんは、そこの卒業生で
しかもなにやら有名人…?
どうやら想像していた高校生活とは少し違うものになりそうで、先々が思いやられるのだけど…
そんなこんなで、不器用な女の子が、毎日を自分なりに一生懸命過ごすお話しです
11月下旬より、小説家になろう、の方でも更新開始予定です
アルファポリスでの方が先行更新になります
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
約束へと続くストローク
葛城騰成
青春
競泳のオリンピック選手を目指している双子の幼馴染に誘われてスイミングスクールに通うようになった少女、金井紗希(かないさき)は、小学五年生になったある日、二人が転校してしまうことを知る。紗希は転校当日に双子の兄である橘柊一(たちばなしゅういち)に告白して両想いになった。
凄い選手になって紗希を迎えに来ることを誓った柊一と、柊一より先に凄い選手になって柊一を迎えに行くことを誓った紗希。その約束を胸に、二人は文通をして励まし合いながら、日々を過ごしていく。
時が経ち、水泳の名門校である立清学園(りっせいがくえん)に入学して高校生になった紗希は、女子100m自由形でインターハイで優勝することを決意する。
長年勝つことができないライバル、湾内璃子(わんないりこ)や、平泳ぎを得意とする中條彩乃(なかじょうあやの)、柊一と同じ学校に通う兄を持つ三島夕(みしまゆう)など、多くの仲間たちと関わる中で、紗希は選手としても人間としても成長していく。
絶好調かに思えたある日、紗希の下に「紗希と話がしたい」と書かれた柊一からの手紙が届く。柊一はかつて交わした約束を忘れてしまったのか? 数年ぶりの再会を果たした時、運命の歯車が大きく動き出す。
※表示画像は、SKIMAを通じて知様に描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる