11 / 31
11:さらに二人の先輩が釣られたようです(2)
しおりを挟む
「ではいきます」
私は息を吐いてから、再び鍵盤に指を走らせた。
二曲続けての演奏が終わると、再び二人は拍手し、褒め称えてくれた。
「茅島さんって本当に凄いな。プロになれるんじゃね?」
「控えめに言って天才だと思う」
「あはは、それ全然控えめじゃないよ。でもありがとう。嬉しい」
興奮に上気した光畑くんの顔と、大真面目に私を讃える影山くんを見て、自然と頬が緩む。
大変だったけど、頑張って練習して良かった。
昨日なんて、お母さんに「近所迷惑になるからもう止めなさい」って言われるまでずーっとピアノに齧りついてたもんね。
ここまで練習したのって、中学の合唱コンクールで伴奏を任されたとき以来だわ。
晴れやかな気持ちで笑っていると、不意に影山くんが扉を見やった。
「?」
つられて扉を見るけれど、誰もいない。
窓ガラス部分からは廊下の風景が見えるだけだ。
でも、影山くんは何かが引っ掛かったらしく、無言でそちらへ行き、扉を引き開けた。
「何してるんですか」
扉の陰に向かって影山くんが言った。
誰かいるらしい。
光畑くんと顔を見合わせてから後を追うと、廊下に二人の男子生徒がいた。
二人とも抜群の美少年だった。
ただしタイプは真逆だ。清楚系とワイルド系。
ワイルド系の男子は知らないけれど、清楚系の男子には見覚えがある。
まさかこの高校で知らない生徒はいないだろう。
先日行われた生徒会選挙で、誰より多くの注目を浴びながら、凛と講堂の壇上に立っていた人なのだから。
「古上《こがみ》先輩?」
古上誠一郎。
一つ年上の先輩で、赤咲高校の理事長の孫。
イケメン好きの女子から聞いた情報によれば、家は大金持ちで、実家は豪邸だとかなんとか。
彼は生徒の模範たる生徒会長に相応しく、艶やかな髪を整え、夏服のシャツのボタンもきっちり締めていた。
そんな彼の隣にいるのは派手に制服を着崩した男子だ。
髪は無造作に跳ね、耳には校則違反のピアスまでつけている。
品行方正そうな古上先輩と、見るからに軽薄そうな先輩という正反対の組み合わせ……謎だ。
「邪魔してごめんねー? 上のパソコン室にいたんだけど、ゲームの曲が聞こえたからつられて来ちゃった。入っていーい?」
制服を着崩した男子が明るく言った。
「どうぞ」
何を考えているのか、何も考えていないのか判然としない無表情で、影山くんは上級生らしき男子と古上先輩を音楽室に招き入れ、後ろ手に扉を閉めた。
「君たち、1年?」
「はい」
「じゃあ自己紹介しよう。俺は2年3組の真渕駆《まぶちかける》、こっちはご存じ、我らが赤咲の生徒会長古上誠一郎くんです! ちなみに俺と同じクラスです!」
「……そうですか」
影山くんは静かに相槌を打った。
一拍間が空いたのは、真渕先輩のノリについていけないからかもしれない。
私は息を吐いてから、再び鍵盤に指を走らせた。
二曲続けての演奏が終わると、再び二人は拍手し、褒め称えてくれた。
「茅島さんって本当に凄いな。プロになれるんじゃね?」
「控えめに言って天才だと思う」
「あはは、それ全然控えめじゃないよ。でもありがとう。嬉しい」
興奮に上気した光畑くんの顔と、大真面目に私を讃える影山くんを見て、自然と頬が緩む。
大変だったけど、頑張って練習して良かった。
昨日なんて、お母さんに「近所迷惑になるからもう止めなさい」って言われるまでずーっとピアノに齧りついてたもんね。
ここまで練習したのって、中学の合唱コンクールで伴奏を任されたとき以来だわ。
晴れやかな気持ちで笑っていると、不意に影山くんが扉を見やった。
「?」
つられて扉を見るけれど、誰もいない。
窓ガラス部分からは廊下の風景が見えるだけだ。
でも、影山くんは何かが引っ掛かったらしく、無言でそちらへ行き、扉を引き開けた。
「何してるんですか」
扉の陰に向かって影山くんが言った。
誰かいるらしい。
光畑くんと顔を見合わせてから後を追うと、廊下に二人の男子生徒がいた。
二人とも抜群の美少年だった。
ただしタイプは真逆だ。清楚系とワイルド系。
ワイルド系の男子は知らないけれど、清楚系の男子には見覚えがある。
まさかこの高校で知らない生徒はいないだろう。
先日行われた生徒会選挙で、誰より多くの注目を浴びながら、凛と講堂の壇上に立っていた人なのだから。
「古上《こがみ》先輩?」
古上誠一郎。
一つ年上の先輩で、赤咲高校の理事長の孫。
イケメン好きの女子から聞いた情報によれば、家は大金持ちで、実家は豪邸だとかなんとか。
彼は生徒の模範たる生徒会長に相応しく、艶やかな髪を整え、夏服のシャツのボタンもきっちり締めていた。
そんな彼の隣にいるのは派手に制服を着崩した男子だ。
髪は無造作に跳ね、耳には校則違反のピアスまでつけている。
品行方正そうな古上先輩と、見るからに軽薄そうな先輩という正反対の組み合わせ……謎だ。
「邪魔してごめんねー? 上のパソコン室にいたんだけど、ゲームの曲が聞こえたからつられて来ちゃった。入っていーい?」
制服を着崩した男子が明るく言った。
「どうぞ」
何を考えているのか、何も考えていないのか判然としない無表情で、影山くんは上級生らしき男子と古上先輩を音楽室に招き入れ、後ろ手に扉を閉めた。
「君たち、1年?」
「はい」
「じゃあ自己紹介しよう。俺は2年3組の真渕駆《まぶちかける》、こっちはご存じ、我らが赤咲の生徒会長古上誠一郎くんです! ちなみに俺と同じクラスです!」
「……そうですか」
影山くんは静かに相槌を打った。
一拍間が空いたのは、真渕先輩のノリについていけないからかもしれない。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
ネットで出会った最強ゲーマーは人見知りなコミュ障で俺だけに懐いてくる美少女でした
黒足袋
青春
インターネット上で†吸血鬼†を自称する最強ゲーマー・ヴァンピィ。
日向太陽はそんなヴァンピィとネット越しに交流する日々を楽しみながら、いつかリアルで会ってみたいと思っていた。
ある日彼はヴァンピィの正体が引きこもり不登校のクラスメイトの少女・月詠夜宵だと知ることになる。
人気コンシューマーゲームである魔法人形(マドール)の実力者として君臨し、ネットの世界で称賛されていた夜宵だが、リアルでは友達もおらず初対面の相手とまともに喋れない人見知りのコミュ障だった。
そんな夜宵はネット上で仲の良かった太陽にだけは心を開き、外の世界へ一緒に出かけようという彼の誘いを受け、不器用ながら交流を始めていく。
太陽も世間知らずで危なっかしい夜宵を守りながら二人の距離は徐々に近づいていく。
青春インターネットラブコメ! ここに開幕!
※表紙イラストは佐倉ツバメ様(@sakura_tsubame)に描いていただきました。
飛ぶことと見つけたり
ぴよ太郎
青春
学生時代に青春し忘れていた国語教師、押井。
受験前だというのにやる気がみえない生徒たち、奇妙な同僚教師、犬ばかり構う妻。満たされない日々を送っていたある日の帰り道、押井はある二人組と出会う。彼らはオランダの伝統スポーツ、フィーエルヤッペンの選手であり、大会に向けて練習中だった。
押井は青春を取り戻そうとフィーエルヤッペンに夢中になり、やがて大会に臨むことになる。そこで出会ったのは、因縁深きライバル校の社会教師、山下だった。
大人になっても青春ができる、そんなお話です。
ちょっと眺めの3万文字です(笑)
女子高生のワタクシが、母になるまで。
あおみなみ
青春
優しくて、物知りで、頼れるカレシ求む!
「私は河野五月。高3で、好きな男性がいて、もう一押しでいい感じになれそう。
なのに、いいところでちょいちょい担任の桐本先生が絡んでくる。
桐本先生は常識人なので、生徒である私にちょっかいを出すとかじゃなくて、
こっちが勝手に意識しているだけではあるんだけれど…
桐本先生は私のこと、一体どう思っているんだろう?」
などと妄想する、少しいい気になっている女子高生のお話です。
タイトルは映画『6才のボクが、大人になるまで。』のもじり。
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる