私のピアノは君を呼ぶ

星名柚花

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10:さらに二人の先輩が釣られたようです(1)

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 曲を弾くにあたって、私は参考のために『オルガバーストⅣ』のゲーム実況動画を通しで見た。

 オルガバーストは架空のファンタジー世界を舞台とする王道RPGで、『蒼の歌』は魔王城の奥深くに幽閉された王女が遠く離れた故郷を想って歌う歌だ。

 暗い地下牢の壁にもたれかかり、天井近くの小さな明かり窓を見上げ、鳥のように可憐な声で、王女は歌を口ずさむ。
 そのメロディーはどこか懐かしく、聞く者の郷愁を掻き立てるように切ない。

 曲の出だしはゆっくりと、優しく。
 一音一音を大切に、繊細なガラス細工を扱うような丁寧さで私の指は鍵盤を叩く。

 何故私はこんな目に遭わなければならないのか。
 いつ虜囚の日々は終わるのか。

 千々に乱れる王女の心を表すように、旋律にも悲壮感が混じる。

 あの人は助けに来てくれるだろうか――いいえ、きっと来てくれる。
 私はその日を信じて待ち続ける。

 揺らいでいた王女の瞳に力が戻ったことを示すように曲は転調し、最後には美しい和音で締めくくられる。

 音が聞こえなくなるまで鍵盤に指を置き、そっと手を離して膝に乗せると、私は二人分の拍手に包まれた。

「すげー! ピアノのことはよくわかんねーけど上手だった! 完璧だった!」
「素晴らしかった。茅島さんに頼んで良かった」
「そ、それはどうも」
 手放しに称賛されて、私は照れ笑いを浮かべた。

 いまは期末テストから約一週間後、七月十六日の昼休憩中。
 三人とも昼休憩に入ってすぐ音楽室に来たので、昼ご飯はまだ食べていない。

「二人とも、まだご飯食べなくて大丈夫なら、あと二曲付き合ってくれる?」
「他にも弾けるのか?」
 表情に出ないからわかりにくいけれど、影山くんは驚いているようだ。
 私は光畑くんと目を合わせて笑った。

 さすがにコンサートで弾かれた曲全部をマスターするのは無理だったけれど、その中でも特に影山くんが好きな曲を光畑くんにリサーチしてもらって、密かに練習していたのだ。

「うん。オルガバーストⅢの『遥かなる夢』とオルガバーストⅤの『限界突破』」
 影山くんは目を見開き、納得したように呟いた。

「……ああ、だから景都が『どの曲が聞きたかった?』って聞いてきたんだな」
「そうそう。コンサート曲の中で、お前が特に聞きたかった二曲だろ?」
 光畑くんはニヤリと笑って、腰に手を当てた。

「ああ。凄いな。『限界突破』って、すごく難しい曲だと思うのに、弾けるんだ」
『限界突破』はゲームのボス戦曲。

 ハイテンポな上にメロディーの音域が広く、スムーズなポジション移動を要求されるため、三曲の中では最も難しい。

「うん、弾きこなせるようになるまで苦労したけど。頑張った成果をお見せできればと思います」

 影山くんが買ってくれた分厚い楽譜をめくる。
 影山くんは私が見ていた楽譜ではなく、『オルガバースト ベスト・コレクション』を渡してきた。
 これまで発売されたシリーズⅠからⅤまでの名曲を集めたベスト版。
 だからシリーズを越えての演奏ができるというわけ。
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