私のピアノは君を呼ぶ

星名柚花

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06:1年2組の光と影(2)

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「ピアノが上手だから色んな曲を弾いて貰ってただけだ。『オルガバースト』シリーズは知らないのに、おれが楽譜を買ったら16日に弾くって言ってくれた」
「えっマジで!? 『オルガバースト』弾いてくれんの!? 良かったなー伊織、念願叶ったじゃん!!」
 光畑くんは笑顔で元気よくバシバシ影山くんの肩を叩いた。

「痛い」
 辟易したように影山くんが光畑くんの手を掴んで下ろす。
 本当に対照的な二人だなあと、私は苦笑した。

 影山くんがその名の通りに『影』で『静』なら光畑くんは『光』にして『動』――太陽のように明るく、愛嬌たっぷりな、クラスの中心的存在だ。

「念願って、そんなにピアノで聞きたかったの?」
「そうそう」
 と、光畑くんが私に向き直って説明してくれた。

「『オルガバースト15周年記念イベント』の一環として、今年の二月に都内でピアノコンサートがあったんだ。普段はアイドルのコンサートとか全く興味を示さない奴だけど、このときばかりは違ってな。大好きなゲームのコンサートがある! 行く!! って、光の速さで申し込んでたよ。抽選結果が出るまでずーっとソワソワしてたなあ。幼馴染の健気な姿に心を打たれて、どーか当たりますようにって、神社でお参りしたりもしたなあ。正月に高校受験の合格祈願をしたときと同じくらい真面目に祈ったわ……」
 光畑くんは顎に手を当て、当時を回想するような、遠い目をした。

「チケットが当選したときは、そりゃーもう、大はしゃぎよ。この通りの性格だから、わかりやすく『やったー』なんて飛び跳ねたりはしなかったけど、頭にしばらく花が咲いてた」
 影山くんの頭に赤いチューリップを咲かせてみる。
 あ、可愛いかも。

「でも、指折り数えて当日を待ってたのに、結局コンサートには行けなかったんだ。インフルエンザにかかってな」
「え……」
 物凄く楽しみにしてたコンサートに行けないなんて、悲しすぎる。
 同情の眼差しを向けても、影山くんは鉄壁の無表情で私の視線を跳ね返してきたけれど。

「伊織はほんっと昔から、なーんかタイミング悪いんだよなー」
 光畑くんは腰に手を当て、ため息をついた。

「楽しみにしてた料理店も、ちゃんとネットで開店を確認してから行ったのに『水道管破裂のため臨時休業』とか、『店主の都合により臨時休業』とか、そんなんばっかで。中学から三年続けて体育祭の日に雨が降ったのもお前のせいだとオレは思っている」
 何気にスポーツ万能の光畑くんは手を下ろし、ジト目で影山くんを見つめた。
 確かに、今年の六月上旬に行われる予定だった赤咲高校体育祭の日は雨が降って、開催が数日遅れたのは事実だ。でも。
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