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05:1年2組の光と影(1)
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影山くんは『オルガバーストⅣ』のサウンドトラックを持っているらしい。
でも、簡単な曲ならともかく、私には複雑な音楽を聴いて耳コピし、ピアノで完全再現できるほどの才能はない。
曲を弾くには楽譜がいる。
大手通販サイトで検索したところ、『オルガバーストⅣ ピアノ・コレクション』は2000円。
……2000円。学生の身分では結構な値段である。
ぶっちゃけて言うと、ふた月分の小遣いが飛ぶ。
これは気軽に『ぽちっとな』とはいかない……!
「楽譜はおれが買うから気にしないで。今日、近くの書店や楽器店を回ってみる。なかったら通販サイトで注文しとく」
どうやら私は凄い顔でスマホを見つめていたらしく、影山くんが気遣うように横からそう言った。
「いいの?」
「いいも何も、おれが頼んでるんだから当たり前。楽譜を買うより弾くほうがずっと大変だろ。我儘言って、付き合わせて、ごめん」
「ううん、全然。私も『蒼の歌』ってどんな曲なのか興味あるし、気にしないで」
また頭を下げられそうだったので、私は急いで手を振った。
「そう言ってもらえると助かる。明日サントラ持ってくるから」
「うん、よろしく。じゃあそろそろ教室に戻ろうか――」
扉のほうに身体を向けて、私は瞠目した。
扉の前に一人の男子生徒――同じクラスの光畑景都《みつはたけいと》くんが立っている。
明るい栗色の髪に同色の瞳。すっと通った鼻筋。
影山くんに匹敵するほど見目麗しい光畑くんは、何故か感極まったように口を手で覆っていた。
「何だあいつ」
影山くんが無感情に呟いた。
二人は幼馴染の間柄だとクラスメイトから聞いたことがある。
「何してるんだ、景都」
影山くんは歩いていって、扉を開けた。
少し遅れて、私も影山くんの傍に立つ。
「『リバース・ファンタジー』の戦闘曲が聞こえてきたから、誰が弾いてんだろうと思って見に来たんだよ。そしたらまさか伊織が女子と二人で話してるなんて……もう三次元の女なんて信用しないとか言ってた伊織がなあ……やっとこの日がきたか……」
光畑くんは芝居がかった動作で目元を拭い、私の手を取った。
三次元の女は信用しない?
何のことなのかと追及する暇などなく、光畑くんは喋り続けた。
「ありがとう茅島さんありがとう。めちゃくちゃ面倒くさい奴だけど、根はいい奴なんで! これからも伊織をよろしくお願いします!」
「え、え、えーと?」
勢いよく手を上下に振られて、私はひたすら困惑するしかない。
「変な勘違いをするな。茅島さんの迷惑だ」
影山くんは光畑くんの脳天にビシッと手刀を入れた。
か、影山くんがツッコんだ!
でも、簡単な曲ならともかく、私には複雑な音楽を聴いて耳コピし、ピアノで完全再現できるほどの才能はない。
曲を弾くには楽譜がいる。
大手通販サイトで検索したところ、『オルガバーストⅣ ピアノ・コレクション』は2000円。
……2000円。学生の身分では結構な値段である。
ぶっちゃけて言うと、ふた月分の小遣いが飛ぶ。
これは気軽に『ぽちっとな』とはいかない……!
「楽譜はおれが買うから気にしないで。今日、近くの書店や楽器店を回ってみる。なかったら通販サイトで注文しとく」
どうやら私は凄い顔でスマホを見つめていたらしく、影山くんが気遣うように横からそう言った。
「いいの?」
「いいも何も、おれが頼んでるんだから当たり前。楽譜を買うより弾くほうがずっと大変だろ。我儘言って、付き合わせて、ごめん」
「ううん、全然。私も『蒼の歌』ってどんな曲なのか興味あるし、気にしないで」
また頭を下げられそうだったので、私は急いで手を振った。
「そう言ってもらえると助かる。明日サントラ持ってくるから」
「うん、よろしく。じゃあそろそろ教室に戻ろうか――」
扉のほうに身体を向けて、私は瞠目した。
扉の前に一人の男子生徒――同じクラスの光畑景都《みつはたけいと》くんが立っている。
明るい栗色の髪に同色の瞳。すっと通った鼻筋。
影山くんに匹敵するほど見目麗しい光畑くんは、何故か感極まったように口を手で覆っていた。
「何だあいつ」
影山くんが無感情に呟いた。
二人は幼馴染の間柄だとクラスメイトから聞いたことがある。
「何してるんだ、景都」
影山くんは歩いていって、扉を開けた。
少し遅れて、私も影山くんの傍に立つ。
「『リバース・ファンタジー』の戦闘曲が聞こえてきたから、誰が弾いてんだろうと思って見に来たんだよ。そしたらまさか伊織が女子と二人で話してるなんて……もう三次元の女なんて信用しないとか言ってた伊織がなあ……やっとこの日がきたか……」
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「え、え、えーと?」
勢いよく手を上下に振られて、私はひたすら困惑するしかない。
「変な勘違いをするな。茅島さんの迷惑だ」
影山くんは光畑くんの脳天にビシッと手刀を入れた。
か、影山くんがツッコんだ!
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