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04:ピアノに釣られた残念イケメン(4)
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「茅島さんもゲーム好きなの?」
「ううん、私はしないけど。お兄ちゃんがゲーム好きで、たまに『これ弾いて』って楽譜をプレゼントしてくることがあって」
今年大学生になったお兄ちゃんはバイト代をほとんどゲームにつぎ込むほどのゲーマーだ。
私がゲーム好きになったのはお兄ちゃんの影響。
「そっか。『リバース・ファンタジー』は知ってる?」
影山くんは私の目を見つめた。
いつも俯きがちな彼が、まっすぐに私を見ている。
窓の外から女子の甲高い笑い声が聞こえた。
昼休憩中の学校は相変わらず賑やかで、生徒たちの声がひっきりなしに届いている。
でも、私たちがいる音楽室だけは別空間のように静かだ。
影山くんと二人きりで音楽室にいる――この現実がとても不思議。
ほんの五分前まで、こんなことが起きるなんて夢にも思わなかった。
「うん、知ってる」
「ほんと?」
影山くんの顔が明るくなった――いや、目が少し大きくなった程度の微妙な変化ではあるけれど、彼の場合は些細なものであっても劇的なのだ。
ほとんど感情値がゼロで固定されているのだから。
「なんか弾ける? 『ラスティアの祈り』とか弾けたら最高なんだけど」
「あ、わかる。お兄ちゃんが一番好きな曲だから、一番最初に弾かされたよ」
私がピアノに向き直って曲を奏で始めると、影山くんはぴたりと口をつぐんだ。
彼は真剣な表情で曲に聞き入っている。
本当にゲームが好きなんだなぁ。
私は内心で笑いながら一曲を弾き切った。
その後も次々と彼のリクエストに応え、三曲を弾き終わると、影山くんはこんなことを聞いてきた。
「オルバ……『オルガバーストⅣ』の『蒼の歌』って知ってる?」
「? ごめん、オルガバーストっていうゲーム自体、知らない」
私が首を振った途端。
「……………………」
影山くんは、ほんのわずかに眉尻を下げ、この世の終わりみたいな顔をした。
身体全体をどんよりとした暗黒の空気が覆い、悲壮感が漂っている。
どうやら『蒼の歌』という曲こそが一番聞きたかった曲らしい。
「ご、ごめん! お兄ちゃんなら知ってるかもしれないから聞いてみるね!?」
表情の乏しい人に、そんなあからさまに絶望されると物凄く悪いことをした気分になる!
「いや、いいよ。無理言ってごめん。茅島さんの演奏があまりにも素晴らしいから、ついあの神曲も弾いて貰えないかなって期待してしまった」
「……!」
あまりにもストレートな誉め言葉に、ドキリと胸が鳴る。
「色々弾いてくれてありがとう。楽しかった。今日、学校に来て良かった」
影山くんが微笑んだ。
ああああもう止めて超激レア笑顔見せないでクラスで笑ったことなんてないくせにーー!!
私は内心で顔を覆い、悶えた。
そこまで言われたらもう弾くしかないじゃない!!
ええ、どんな曲だろうと弾いてみせましょうとも!!
超絶技巧練習曲だって挑戦してやるわよ――いや絶対無理だろうけど!
「じゃあ」
「ちょっと待って!」
私は去ろうとする影山くんの腕を掴んだ。
いきなり腕を掴まれたのだから、目を剥いて驚いてもいいくらいなのに、彼の反応はといえば、ただ、足を止めて私を見る。それだけだった。
「練習するから時間をちょうだい! そうだな、二週間くらい……ああでも、もうすぐ期末テストか……」
私は目を落とし、思考を巡らせた。
7月の初めには期末テストがあり、それが終わったら学校はしばらく休みで、通常授業に戻るのは海の日の翌日、16日。
うん、三週間もあれば十分だ。
期末テスト期間を含んでいるとはいえ、テストが終わって一週間近くも練習する時間があるし、ばっちり!
「16日に弾くよ! 昼休憩に入ったらすぐピアノ確保するから、来て!」
「ううん、私はしないけど。お兄ちゃんがゲーム好きで、たまに『これ弾いて』って楽譜をプレゼントしてくることがあって」
今年大学生になったお兄ちゃんはバイト代をほとんどゲームにつぎ込むほどのゲーマーだ。
私がゲーム好きになったのはお兄ちゃんの影響。
「そっか。『リバース・ファンタジー』は知ってる?」
影山くんは私の目を見つめた。
いつも俯きがちな彼が、まっすぐに私を見ている。
窓の外から女子の甲高い笑い声が聞こえた。
昼休憩中の学校は相変わらず賑やかで、生徒たちの声がひっきりなしに届いている。
でも、私たちがいる音楽室だけは別空間のように静かだ。
影山くんと二人きりで音楽室にいる――この現実がとても不思議。
ほんの五分前まで、こんなことが起きるなんて夢にも思わなかった。
「うん、知ってる」
「ほんと?」
影山くんの顔が明るくなった――いや、目が少し大きくなった程度の微妙な変化ではあるけれど、彼の場合は些細なものであっても劇的なのだ。
ほとんど感情値がゼロで固定されているのだから。
「なんか弾ける? 『ラスティアの祈り』とか弾けたら最高なんだけど」
「あ、わかる。お兄ちゃんが一番好きな曲だから、一番最初に弾かされたよ」
私がピアノに向き直って曲を奏で始めると、影山くんはぴたりと口をつぐんだ。
彼は真剣な表情で曲に聞き入っている。
本当にゲームが好きなんだなぁ。
私は内心で笑いながら一曲を弾き切った。
その後も次々と彼のリクエストに応え、三曲を弾き終わると、影山くんはこんなことを聞いてきた。
「オルバ……『オルガバーストⅣ』の『蒼の歌』って知ってる?」
「? ごめん、オルガバーストっていうゲーム自体、知らない」
私が首を振った途端。
「……………………」
影山くんは、ほんのわずかに眉尻を下げ、この世の終わりみたいな顔をした。
身体全体をどんよりとした暗黒の空気が覆い、悲壮感が漂っている。
どうやら『蒼の歌』という曲こそが一番聞きたかった曲らしい。
「ご、ごめん! お兄ちゃんなら知ってるかもしれないから聞いてみるね!?」
表情の乏しい人に、そんなあからさまに絶望されると物凄く悪いことをした気分になる!
「いや、いいよ。無理言ってごめん。茅島さんの演奏があまりにも素晴らしいから、ついあの神曲も弾いて貰えないかなって期待してしまった」
「……!」
あまりにもストレートな誉め言葉に、ドキリと胸が鳴る。
「色々弾いてくれてありがとう。楽しかった。今日、学校に来て良かった」
影山くんが微笑んだ。
ああああもう止めて超激レア笑顔見せないでクラスで笑ったことなんてないくせにーー!!
私は内心で顔を覆い、悶えた。
そこまで言われたらもう弾くしかないじゃない!!
ええ、どんな曲だろうと弾いてみせましょうとも!!
超絶技巧練習曲だって挑戦してやるわよ――いや絶対無理だろうけど!
「じゃあ」
「ちょっと待って!」
私は去ろうとする影山くんの腕を掴んだ。
いきなり腕を掴まれたのだから、目を剥いて驚いてもいいくらいなのに、彼の反応はといえば、ただ、足を止めて私を見る。それだけだった。
「練習するから時間をちょうだい! そうだな、二週間くらい……ああでも、もうすぐ期末テストか……」
私は目を落とし、思考を巡らせた。
7月の初めには期末テストがあり、それが終わったら学校はしばらく休みで、通常授業に戻るのは海の日の翌日、16日。
うん、三週間もあれば十分だ。
期末テスト期間を含んでいるとはいえ、テストが終わって一週間近くも練習する時間があるし、ばっちり!
「16日に弾くよ! 昼休憩に入ったらすぐピアノ確保するから、来て!」
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