私のピアノは君を呼ぶ

星名柚花

文字の大きさ
上 下
4 / 31

04:ピアノに釣られた残念イケメン(4)

しおりを挟む
「茅島さんもゲーム好きなの?」
「ううん、私はしないけど。お兄ちゃんがゲーム好きで、たまに『これ弾いて』って楽譜をプレゼントしてくることがあって」
 今年大学生になったお兄ちゃんはバイト代をほとんどゲームにつぎ込むほどのゲーマーだ。
 私がゲーム好きになったのはお兄ちゃんの影響。

「そっか。『リバース・ファンタジー』は知ってる?」
 影山くんは私の目を見つめた。
 いつも俯きがちな彼が、まっすぐに私を見ている。

 窓の外から女子の甲高い笑い声が聞こえた。
 昼休憩中の学校は相変わらず賑やかで、生徒たちの声がひっきりなしに届いている。

 でも、私たちがいる音楽室だけは別空間のように静かだ。
 影山くんと二人きりで音楽室にいる――この現実がとても不思議。
 ほんの五分前まで、こんなことが起きるなんて夢にも思わなかった。

「うん、知ってる」
「ほんと?」
 影山くんの顔が明るくなった――いや、目が少し大きくなった程度の微妙な変化ではあるけれど、彼の場合は些細なものであっても劇的なのだ。
 ほとんど感情値がゼロで固定されているのだから。

「なんか弾ける? 『ラスティアの祈り』とか弾けたら最高なんだけど」
「あ、わかる。お兄ちゃんが一番好きな曲だから、一番最初に弾かされたよ」
 私がピアノに向き直って曲を奏で始めると、影山くんはぴたりと口をつぐんだ。

 彼は真剣な表情で曲に聞き入っている。

 本当にゲームが好きなんだなぁ。
 私は内心で笑いながら一曲を弾き切った。

 その後も次々と彼のリクエストに応え、三曲を弾き終わると、影山くんはこんなことを聞いてきた。

「オルバ……『オルガバーストⅣ』の『蒼の歌』って知ってる?」
「? ごめん、オルガバーストっていうゲーム自体、知らない」
 私が首を振った途端。

「……………………」
 影山くんは、ほんのわずかに眉尻を下げ、この世の終わりみたいな顔をした。
 身体全体をどんよりとした暗黒の空気が覆い、悲壮感が漂っている。

 どうやら『蒼の歌』という曲こそが一番聞きたかった曲らしい。

「ご、ごめん! お兄ちゃんなら知ってるかもしれないから聞いてみるね!?」
 表情の乏しい人に、そんなあからさまに絶望されると物凄く悪いことをした気分になる!

「いや、いいよ。無理言ってごめん。茅島さんの演奏があまりにも素晴らしいから、ついあの神曲も弾いて貰えないかなって期待してしまった」
「……!」
 あまりにもストレートな誉め言葉に、ドキリと胸が鳴る。

「色々弾いてくれてありがとう。楽しかった。今日、学校に来て良かった」
 影山くんが微笑んだ。

 ああああもう止めて超激レア笑顔見せないでクラスで笑ったことなんてないくせにーー!!
 私は内心で顔を覆い、悶えた。

 そこまで言われたらもう弾くしかないじゃない!!
 ええ、どんな曲だろうと弾いてみせましょうとも!!
 超絶技巧練習曲だって挑戦してやるわよ――いや絶対無理だろうけど!

「じゃあ」
「ちょっと待って!」
 私は去ろうとする影山くんの腕を掴んだ。
 いきなり腕を掴まれたのだから、目を剥いて驚いてもいいくらいなのに、彼の反応はといえば、ただ、足を止めて私を見る。それだけだった。

「練習するから時間をちょうだい! そうだな、二週間くらい……ああでも、もうすぐ期末テストか……」
 私は目を落とし、思考を巡らせた。
 7月の初めには期末テストがあり、それが終わったら学校はしばらく休みで、通常授業に戻るのは海の日の翌日、16日。

 うん、三週間もあれば十分だ。
 期末テスト期間を含んでいるとはいえ、テストが終わって一週間近くも練習する時間があるし、ばっちり!

「16日に弾くよ! 昼休憩に入ったらすぐピアノ確保するから、来て!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

全体的にどうしようもない高校生日記

天平 楓
青春
ある年の春、高校生になった僕、金沢籘華(かなざわとうか)は念願の玉津高校に入学することができた。そこで出会ったのは中学時代からの友人北見奏輝と喜多方楓の二人。喜多方のどうしようもない性格に奔放されつつも、北見の秘められた性格、そして自身では気づくことのなかった能力に気づいていき…。  ブラックジョーク要素が含まれていますが、決して特定の民族並びに集団を侮蔑、攻撃、または礼賛する意図はありません。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

雨上がりに僕らは駆けていく Part2

平木明日香
青春
学校の帰り道に突如現れた謎の女 彼女は、遠い未来から来たと言った。 「甲子園に行くで」 そんなこと言っても、俺たち、初対面だよな? グラウンドに誘われ、彼女はマウンドに立つ。 ひらりとスカートが舞い、パンツが見えた。 しかしそれとは裏腹に、とんでもないボールを投げてきたんだ。

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

百合の一幕 涼香と涼音の緩い日常

坂餅
青春
毎日更新 一話一話が短いのでサクッと読める作品です。 水原涼香(みずはらりょうか) 黒髪ロングに左目尻ほくろのスレンダーなクールビューティー。下級生を中心に、クールで美人な先輩という認識を持たれている。同級生達からは問題児扱い。涼音の可愛さは全人類が知るべきことだと思っている。 檜山涼音(ひやますずね) 茶色に染められた長い髪をおさげにしており、クリっとした目はとても可愛らしい。その愛らしい見た目は、この学校で可愛い子は? と言えばすぐ名前が上がる程の可愛さ。涼香がいればそれでいいと思っている節がある。 柏木菜々美(かしわぎななみ) 肩口まで伸びてた赤毛の少し釣り目な女子生徒。ここねが世界で一可愛い。 自分がここねといちゃついているのに、他の人がいちゃついているのを見ると顔を真っ赤にして照れたり逃げ出したり爆発する。 基本的にいちゃついているところを見られても真っ赤になったり爆発したりする。 残念美人。 芹澤ここね(せりざわここね) 黒のサイドテールの小柄な体躯に真面目な生徒。目が大きく、小動物のような思わず守ってあげたくなる雰囲気がある。可愛い。ここねの頭を撫でるために今日も争いが繰り広げられているとかいないとか。菜々美が大好き。人前でもいちゃつける人。 綾瀬彩(あやせあや) ウェーブがかったベージュの髪。セミロング。 成績優秀。可愛い顔をしているのだが、常に機嫌が悪そうな顔をしている、決して菜々美と涼香のせいで機嫌が悪い顔をしているわけではない。決して涼香のせいではない。なぜかフルネームで呼ばれる。夏美とよく一緒にいる。 伊藤夏美(いとうなつみ) 彩の真似をして髪の毛をベージュに染めている。髪型まで同じにしたら彩が怒るからボブヘアーにパーマをあててウェーブさせている 彩と同じ中学出身。彩を追ってこの高校に入学した。 元々は引っ込み思案な性格だったが、堂々としている彩に憧れて、彩の隣に立てるようにと頑張っている。 綺麗な顔立ちの子。 春田若菜(はるたわかな) 黒髪ショートカットのバスケ部。涼香と三年間同じクラスの猛者。 なんとなくの雰囲気でそれっぽいことを言える。涼香と三年間同じクラスで過ごしただけのことはある。 涼香が躓いて放った宙を舞う割れ物は若菜がキャッチする。 チャリ通。

処理中です...