上 下
16 / 87

16:ただの知り合い

しおりを挟む
「お待たせしました」
 話が途切れたタイミングで、注文していたパンケーキとシナモンロールが届いた。
 私が注文したシナモンロールは丸いお皿に載っていて、他のお店で出されるものと見た目に大きな違いはない。

 けれど、パンケーキは衝撃的。
 漣里くんの前に置かれた正方形のお皿には、四枚のパンケーキと、フルーツとホイップクリームがこれでもかと盛られている。

 店員さんは四つのシロップを持ってきた。
 二種類のメープルシロップと、ストロベリーとブルーベリーのシロップ。

「……確かにこれは凄いボリュームだな」
 店員さんが立ち去った後で、漣里くんが呟いた。

「写真撮る?」
「いや、いい。インスタとかやってないし、写真を撮る趣味もない」
「私も。シナモンロールの味見してみない? このお店はシナモンロールも絶品なんだって」
「……食べる。パンケーキも切るから、味見して」
「うん」
 私はシナモンロールを切り分け、漣里くんのお皿にのせた。
 お返しとばかりに、漣里くんも小さく切ったパンケーキを私のお皿にのせた。

「おいしい」
 漣里くんはシナモンロールを一口食べて、小さく笑った。

「そっか、良かった」
「…………」
 漣里くんは何故か、じっと私を見つめた。

「どうかしたの?」
「先輩は俺が喜ぶと笑うな」
「? それって普通のことじゃないの?」

 誰かが喜んでいるのを見ると、嬉しくなって自然に笑顔が浮かぶものじゃないんだろうか。
 好意を抱いている相手ならなおさら――あ、いや、特別な『好き』という意味じゃなくて、あくまで友人として、ね。

 漣里くんはシロップを見た。
 どれにしようか迷った様子の後で、色が濃いほうのメープルシロップを手に取ってクリームにかけた。

 ナイフとフォークを使ってパンケーキを切り、クリームをつけて一口。
 うん、というように軽く頷いて、また食べる。

「………………」
 やばい、何この人、可愛い。
 無表情なのに、背後に花が咲いているのがわかって、私は必死で笑いをこらえた。

 会話の合間にシナモンロールを口に運ぶ。
 それからしばらくして、片手に水を持ったウェイトレスさんがやってきた。

「お水のお代わりはいかがでしょうか?」
「あ、お願いします。漣里くんは?」
「いい」
 私の水を注ぎ足した後、ウェイトレスさんは私たちを交互に見て笑った。

「羨ましいですねぇ。夏休みにカップルでデートなんて」
「そんな……」
「カップルじゃないです。俺たちはただの知り合いなので」
 頭を思いっきり殴られたようなショックを受けた。

 ただの知り合い。
 彼ははっきりとそう言った。

「あ、そう……なんですか」
 私はいまどんな表情をしているんだろう。
 わからないけれど、ウェイトレスさんは私を見て、困ったような愛想笑いを浮かべた。

「それでは、何かありましたらお呼びください」
 ウェイトレスさんはそそくさと退散していった。
 漣里くんは何事もなかったように、再びパンケーキを食べ始めた。
 私もシナモンロールを口に運ぶ。

「…………」
 どうしてだろう。
 おいしいはずなのに、味を感じなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

俺がカノジョに寝取られた理由

下城米雪
ライト文芸
その夜、知らない男の上に半裸で跨る幼馴染の姿を見た俺は…… ※完結。予約投稿済。最終話は6月27日公開

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

姉らぶるっ!!

藍染惣右介兵衛
青春
 俺には二人の容姿端麗な姉がいる。 自慢そうに聞こえただろうか?  それは少しばかり誤解だ。 この二人の姉、どちらも重大な欠陥があるのだ…… 次女の青山花穂は高校二年で生徒会長。 外見上はすべて完璧に見える花穂姉ちゃん…… 「花穂姉ちゃん! 下着でウロウロするのやめろよなっ!」 「んじゃ、裸ならいいってことねっ!」 ▼物語概要 【恋愛感情欠落、解離性健忘というトラウマを抱えながら、姉やヒロインに囲まれて成長していく話です】 47万字以上の大長編になります。(2020年11月現在) 【※不健全ラブコメの注意事項】  この作品は通常のラブコメより下品下劣この上なく、ドン引き、ドシモ、変態、マニアック、陰謀と陰毛渦巻くご都合主義のオンパレードです。  それをウリにして、ギャグなどをミックスした作品です。一話(1部分)1800~3000字と短く、四コマ漫画感覚で手軽に読めます。  全編47万字前後となります。読みごたえも初期より増し、ガッツリ読みたい方にもお勧めです。  また、執筆・原作・草案者が男性と女性両方なので、主人公が男にもかかわらず、男性目線からややずれている部分があります。 【元々、小説家になろうで連載していたものを大幅改訂して連載します】 【なろう版から一部、ストーリー展開と主要キャラの名前が変更になりました】 【2017年4月、本幕が完結しました】 序幕・本幕であらかたの謎が解け、メインヒロインが確定します。 【2018年1月、真幕を開始しました】 ここから読み始めると盛大なネタバレになります(汗)

処理中です...