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81:文化祭当日(2)

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「100円でキャンディー三つと交換してもらうんです。トランプやUNO、または麻雀で勝ってキャンディー数を増やしてもらって、獲得した数に応じて景品と交換してもらうシステムです」
「ふーん」
 葵先輩は教室の後方に設置されている景品交換所の景品と、交換するのに必要なキャンディー数を見て、即座に純利益を計算したらしく、笑った。

「カジノって胴元が儲かる仕組みになってるよね」
「……あはは」
 はい、正直、普通に買ったほうが安いです。
 でも、一応それなりに勝てば元は取れますよ?

「僕が勝ったらキャンディーはいらない代わりに、30分だけ深森さんの時間をもらうっていうのはダメかな?」
「え」
「シンデレラの魔法が解けちゃうと、弟が残念がるから。写真だけでも撮ってあげてほしいなって」
「何言い出すんだよ」
 漣里くんが困惑したように兄を見た。

「深森さんのこんな格好が見られるのはいまだけだよ? 惜しくないの?」
「それは……」
「いいから任せて」

 黙り込んだ漣里くんから視線を外して、再び葵先輩は私と目を合わせる。
「どうかな?」
「いえ、でも……」
 私の一存で決められることじゃない。
 困って辺りを見回すと、近くにいた女子が私の肩を叩いた。

「先輩のお願いを断れる人間なんて時海にいるわけないじゃないですか」
 他のクラスメイトも概ね似たような反応だった。
 どんな我儘だろうと、葵先輩なら仕方ない――そんな空気だ。これぞカリスマである。

「どうぞどうぞ。勝負なんてしなくて良いです。ちょうどいまお客さんも少ないですし、貸出時間は三十分と言わず一時間でいいですよ」
「ぶっちゃけると必要なのは真白当人じゃなくて衣装なんで」
「遠慮せず持ってっちゃってください」
「不束なクラスメイトですがよろしくお願いします」
「え、あの、ちょっと?」
 悪ノリしたクラスメイトたちにぐいぐいと背中を押され、つんのめりそうになる。

 そんな私の肩を漣里くんが掴み、引き寄せた。

「ありがとうございます。じゃあ遠慮せずもらっていきます」
 堂々とした漣里くんの態度に、ひゅー、と口笛があがる。

 え、え、もらうって。
 ぱくぱくと真っ赤な顔で口を動かしている私を無視して、漣里くんは私の手を引いた。

「あ、じゃあ、これだけ」
 出かけるならせめてうさぎの耳は外そうと思い、カチューシャに手をかけると。

「駄目」
 漣里くんに手を掴んで止められた。

 どうやらうさぎの耳は外してはいけないらしい。
 もはや何も言えなくなる。

 笑顔の葵先輩に手を振られ、背中にクラスメイトからの冷やかしの声を受けながら、私は漣里くんに手を引かれるまま教室を後にした。
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