70 / 87
70:晴れた秋空の下(3)
しおりを挟む
「放せ!!」
「暴れるな! 無駄な抵抗は止めろ!」
「貴様は完全に護衛されている!」
「そこは『包囲されてる』じゃないのか!?」
三人がかりで押さえつけられ、半ば引きずられるようにこちらへ連れ戻されながらも、律儀に突っ込む漣里くん。
「放せって言ってるだろうが!!」
漣里くんは暴れながら吠えた。
けれど、二人の生徒が加勢し、さらに後ろから羽交い絞めにされたため、逃げるどころか、ろくに動けなくなる。
「はっはっは。漣里は本当に照れ屋だな。素直にありがとうと言ってくれて良いんだぞ?」
悠然とした足取りで漣里くんの前に立ち、再び白い歯を煌かせる元サッカー部部長。
「ありがた迷惑だっ!!」
珍しく感情全開で叫ぶ漣里くんに、聞き分けのない子供を諭す親のような口調でみーこが言う。
「成瀬くん、せっかく守ってあげるって言ってるんだから張り切って守られようよ。遠慮しなくていいんだよ? 先輩の言う通り、成瀬先輩の弟は私たちの弟だもの」
横に手を広げ、大げさなポーズを取ってみせるみーこ。
うんうん、と頷いて同意を示す鉢巻軍団。
「……先輩まで敵なのか……」
元々人より少ないエネルギーを使い果たしたのか、漣里くんはぐったりした。
「心外だなぁ、味方に決まってるじゃない。私たちは一致団結して成瀬くんを野田の魔の手から守ろうとしてるんだよ? これを味方と呼ばずになんと呼ぶ」
至って大真面目な顔をするみーこ。
漣里くんはもはや何も言わず、深くうなだれた。
笑い声が聞こえる。
慎ましやかな、それでいて不思議と誰の耳にも届く笑い声。
振り返れば、そこには口元に手をやり、お腹を抱え、さもおかしそうに笑う葵先輩が立っていた。
「成瀬先輩!」
この場に居合わせた他の生徒たちと同様、みーこがぽっと頬を赤らめる。
「おお、成瀬、おはよう! 弟が野田の蛮行にすっかり怯えて泣いていると言っていたが、だいぶ元気を取り戻したようだぞ! 数人がかりで捕獲したときなんて、陸揚げされた魚のように活きが良かった!」
「うん、これも皆のおかげだね、ありがとう。これから弟をよろしく頼むよ」
にこやかな葵先輩の台詞に、ついにつもり積もった憤懣が爆発したらしく、漣里くんは羽交い絞めから力ずくで脱出した。
葵先輩に詰め寄るや否や、胸倉を掴む。
あくまで掴んだだけで、そのまま掴み上げなかったのは最後の理性なのだろう。
「いつ俺が怯えて泣いたって? 何がよろしくだ、お前、絶対楽しんでるだろ楽しんでるよな……?」
さっきまでの状況はやはり相当にストレスだったらしく、葵先輩の胸倉を掴む手はわなわなと震えていた。
「暴れるな! 無駄な抵抗は止めろ!」
「貴様は完全に護衛されている!」
「そこは『包囲されてる』じゃないのか!?」
三人がかりで押さえつけられ、半ば引きずられるようにこちらへ連れ戻されながらも、律儀に突っ込む漣里くん。
「放せって言ってるだろうが!!」
漣里くんは暴れながら吠えた。
けれど、二人の生徒が加勢し、さらに後ろから羽交い絞めにされたため、逃げるどころか、ろくに動けなくなる。
「はっはっは。漣里は本当に照れ屋だな。素直にありがとうと言ってくれて良いんだぞ?」
悠然とした足取りで漣里くんの前に立ち、再び白い歯を煌かせる元サッカー部部長。
「ありがた迷惑だっ!!」
珍しく感情全開で叫ぶ漣里くんに、聞き分けのない子供を諭す親のような口調でみーこが言う。
「成瀬くん、せっかく守ってあげるって言ってるんだから張り切って守られようよ。遠慮しなくていいんだよ? 先輩の言う通り、成瀬先輩の弟は私たちの弟だもの」
横に手を広げ、大げさなポーズを取ってみせるみーこ。
うんうん、と頷いて同意を示す鉢巻軍団。
「……先輩まで敵なのか……」
元々人より少ないエネルギーを使い果たしたのか、漣里くんはぐったりした。
「心外だなぁ、味方に決まってるじゃない。私たちは一致団結して成瀬くんを野田の魔の手から守ろうとしてるんだよ? これを味方と呼ばずになんと呼ぶ」
至って大真面目な顔をするみーこ。
漣里くんはもはや何も言わず、深くうなだれた。
笑い声が聞こえる。
慎ましやかな、それでいて不思議と誰の耳にも届く笑い声。
振り返れば、そこには口元に手をやり、お腹を抱え、さもおかしそうに笑う葵先輩が立っていた。
「成瀬先輩!」
この場に居合わせた他の生徒たちと同様、みーこがぽっと頬を赤らめる。
「おお、成瀬、おはよう! 弟が野田の蛮行にすっかり怯えて泣いていると言っていたが、だいぶ元気を取り戻したようだぞ! 数人がかりで捕獲したときなんて、陸揚げされた魚のように活きが良かった!」
「うん、これも皆のおかげだね、ありがとう。これから弟をよろしく頼むよ」
にこやかな葵先輩の台詞に、ついにつもり積もった憤懣が爆発したらしく、漣里くんは羽交い絞めから力ずくで脱出した。
葵先輩に詰め寄るや否や、胸倉を掴む。
あくまで掴んだだけで、そのまま掴み上げなかったのは最後の理性なのだろう。
「いつ俺が怯えて泣いたって? 何がよろしくだ、お前、絶対楽しんでるだろ楽しんでるよな……?」
さっきまでの状況はやはり相当にストレスだったらしく、葵先輩の胸倉を掴む手はわなわなと震えていた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
姉らぶるっ!!
藍染惣右介兵衛
青春
俺には二人の容姿端麗な姉がいる。
自慢そうに聞こえただろうか?
それは少しばかり誤解だ。
この二人の姉、どちらも重大な欠陥があるのだ……
次女の青山花穂は高校二年で生徒会長。
外見上はすべて完璧に見える花穂姉ちゃん……
「花穂姉ちゃん! 下着でウロウロするのやめろよなっ!」
「んじゃ、裸ならいいってことねっ!」
▼物語概要
【恋愛感情欠落、解離性健忘というトラウマを抱えながら、姉やヒロインに囲まれて成長していく話です】
47万字以上の大長編になります。(2020年11月現在)
【※不健全ラブコメの注意事項】
この作品は通常のラブコメより下品下劣この上なく、ドン引き、ドシモ、変態、マニアック、陰謀と陰毛渦巻くご都合主義のオンパレードです。
それをウリにして、ギャグなどをミックスした作品です。一話(1部分)1800~3000字と短く、四コマ漫画感覚で手軽に読めます。
全編47万字前後となります。読みごたえも初期より増し、ガッツリ読みたい方にもお勧めです。
また、執筆・原作・草案者が男性と女性両方なので、主人公が男にもかかわらず、男性目線からややずれている部分があります。
【元々、小説家になろうで連載していたものを大幅改訂して連載します】
【なろう版から一部、ストーリー展開と主要キャラの名前が変更になりました】
【2017年4月、本幕が完結しました】
序幕・本幕であらかたの謎が解け、メインヒロインが確定します。
【2018年1月、真幕を開始しました】
ここから読み始めると盛大なネタバレになります(汗)
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる