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59:みーこ、陥落
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「むう……」
「松枝先生、まずいですよ。成瀬はカリスマ的人気を誇る生徒なんです。不当に処罰すれば暴動が起きかねません。それに、成瀬は学年トップの成績優秀者で、ほぼ確実に鷹城高校に受かると言われているんです。転校なんてされたら……」
小声で道長先生が松枝先生に何かボソボソ言っている。
「それは困るな……」
先生たちは打算に満ちた会話を行った後、固唾を飲んで見守っている生徒たちに言った。
「ああ、わかった! お前らも成瀬も不問に付す! ただし今回限りだ、二度とこんなことはするなよ!?」
「はい、わかりましたっ!」
「松枝先生、大好きー!」
生徒たちのテンションは最高潮。
その騒音で目を覚ましたのか、野田が音もなく、ゆらりと幽鬼のように立ち上がった。
彼の制服は、生徒たちが容赦なく踏みつけ、蹴飛ばしたおかげで泥だらけだ。
凶悪な目つきで彼が睨むのは、葵先輩の背中。
「葵先輩!」
警告を発するよりも早く、野田が動き、問答無用で葵先輩に殴りかかった。
葵先輩はまだ振り返ったばかりで、不意打ちに対処しようがないように思えた。
漣里くんが野田を止めようとしたけど間に合わない。
間に合う距離じゃない!
体温が奪われる感覚に襲われた直後、横からみーこが飛び出した。
彼女は野田の腕を掴み、
「せいっ!」
掛け声とともに、豪快な一本背負いを決めた。
鈍い音を立てて野田が撃沈する。
今度こそ気絶した野田を見下ろし、みーこは獲物を仕留めたとばかりに、腰に手を当てて鼻を鳴らした。
おおおおお、とギャラリーが沸き、拍手まで起きた。
悪を倒した勇者のように、大きく手を振ってギャラリーの歓声に応えているみーこに、葵先輩が歩み寄る。
「中村さん、だよね?」
「えっ。どうして私の名前を?」
みーこは手を下ろし、目を瞬いた。
「深森さんから君のことは聞いてたから。助かったよ、ありがとう。でも、今のは僕も間に合った」
「……余計なことでしたか?」
みーこが不安そうな顔をする。
「そうだね、守ろうとしてくれた気持ちはもちろん嬉しいけど、女の子に守られるのは僕の本意じゃないな。立場が逆だ。女の子を守るのが男の仕事でしょう?」
「いえ、でも、私、柔道部ですし……強いですよ? 見たでしょう?」
「ううん。柔道部だろうと、いくら強かろうと、関係ないよ」
葵先輩は頭を振って、優しく微笑んだ。
「可愛い顔に、傷でも作ったらどうするの。女の子なんだから、無茶はしちゃだめだよ。もっと自分を大事にして」
光り輝くような葵先輩の笑顔に、みーこの顔が真っ赤になる。
「は、はいぃっ……!」
みーこの周囲に花が乱舞する幻影が見える。
「さあ、後は任せて保健室に行っておいで」
葵先輩は一人の女子を陥落させた事実に気づくことなく、こちらを見てそう言った。
「松枝先生、まずいですよ。成瀬はカリスマ的人気を誇る生徒なんです。不当に処罰すれば暴動が起きかねません。それに、成瀬は学年トップの成績優秀者で、ほぼ確実に鷹城高校に受かると言われているんです。転校なんてされたら……」
小声で道長先生が松枝先生に何かボソボソ言っている。
「それは困るな……」
先生たちは打算に満ちた会話を行った後、固唾を飲んで見守っている生徒たちに言った。
「ああ、わかった! お前らも成瀬も不問に付す! ただし今回限りだ、二度とこんなことはするなよ!?」
「はい、わかりましたっ!」
「松枝先生、大好きー!」
生徒たちのテンションは最高潮。
その騒音で目を覚ましたのか、野田が音もなく、ゆらりと幽鬼のように立ち上がった。
彼の制服は、生徒たちが容赦なく踏みつけ、蹴飛ばしたおかげで泥だらけだ。
凶悪な目つきで彼が睨むのは、葵先輩の背中。
「葵先輩!」
警告を発するよりも早く、野田が動き、問答無用で葵先輩に殴りかかった。
葵先輩はまだ振り返ったばかりで、不意打ちに対処しようがないように思えた。
漣里くんが野田を止めようとしたけど間に合わない。
間に合う距離じゃない!
体温が奪われる感覚に襲われた直後、横からみーこが飛び出した。
彼女は野田の腕を掴み、
「せいっ!」
掛け声とともに、豪快な一本背負いを決めた。
鈍い音を立てて野田が撃沈する。
今度こそ気絶した野田を見下ろし、みーこは獲物を仕留めたとばかりに、腰に手を当てて鼻を鳴らした。
おおおおお、とギャラリーが沸き、拍手まで起きた。
悪を倒した勇者のように、大きく手を振ってギャラリーの歓声に応えているみーこに、葵先輩が歩み寄る。
「中村さん、だよね?」
「えっ。どうして私の名前を?」
みーこは手を下ろし、目を瞬いた。
「深森さんから君のことは聞いてたから。助かったよ、ありがとう。でも、今のは僕も間に合った」
「……余計なことでしたか?」
みーこが不安そうな顔をする。
「そうだね、守ろうとしてくれた気持ちはもちろん嬉しいけど、女の子に守られるのは僕の本意じゃないな。立場が逆だ。女の子を守るのが男の仕事でしょう?」
「いえ、でも、私、柔道部ですし……強いですよ? 見たでしょう?」
「ううん。柔道部だろうと、いくら強かろうと、関係ないよ」
葵先輩は頭を振って、優しく微笑んだ。
「可愛い顔に、傷でも作ったらどうするの。女の子なんだから、無茶はしちゃだめだよ。もっと自分を大事にして」
光り輝くような葵先輩の笑顔に、みーこの顔が真っ赤になる。
「は、はいぃっ……!」
みーこの周囲に花が乱舞する幻影が見える。
「さあ、後は任せて保健室に行っておいで」
葵先輩は一人の女子を陥落させた事実に気づくことなく、こちらを見てそう言った。
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