45 / 87
45:縁を紡いで(1)
しおりを挟む
「あなたは確かに優秀だと思う。この前のテストも五十鈴に次いで学年二位だったもんね。その努力は素直に凄いと思うよ。尊敬する」
「当然だろう」
小金井くんは得意げに笑ったけれど、私は笑い返したりはしなかった。
ただ、思いのままを何の感情も挟まず告げた。
「あなたはとても優秀だけど、とても可哀想な人。自分の立場を悪くしてでもあなたを庇った漣里くんの思いがわからないなら、人の心がわからないなら、あなたの傍にはきっと誰もいられない」
少し言い過ぎただろうか。
時間の経過と共に冷静さを取り戻した私は、悶々とした気持ちを抱えながら昇降口を出た。
昇降口から校門までは少々距離がある。
その間を歩く生徒たちは、不良と名高い漣里くんはもちろん、その隣を歩く私にも、多少の好奇を含んだ視線を注いでいる。
でもいまの私は、その人たちの視線も、ひそひそと囁き合う声も、構う余裕がない。
「……小金井は何か色々言ってたけど、ひねくれてるだけで、根はそんなに悪い奴じゃないと思うから」
沈黙の果てに聞こえてきた声に、私は唖然とした。
漣里くんは微妙に気まずそうな顔をしている。
あれだけ言われたのに、漣里くんは小金井くんを庇うんだ。
私が知らないだけで、何か庇うに足る理由があるの?
いや、それでも……。
「……漣里くんは人が良すぎるよ」
私は唇を尖らせた。
私だってちょっとは言い過ぎたかもしれないけど、でも、彼氏を悪く言われて怒るな、なんて無理な話だ。
「なんであれだけ言われて怒らないの。クラスメイトにも邪魔だとか言われたんでしょ。ちゃんと怒ったの?」
「……いや」
漣里くんは逃げるように目を逸らした。
「もー! 自分のことなのになんでそんなに他人事なの? 漣里くんはもっと自分の感情を表に出すべきだよ。ずーっと庇ってた相手にあんなこと言われて悔しくないの? 私は怒鳴りつけてやりたかったよ! クラスメイトに邪魔だって言われたときだって、もし私がそこにいたらきっと怒ってたよ」
「……。怒るとか、面倒くさくて」
一拍の無言を挟んで、漣里くんは言った。酷く、平坦な口調で。
「空気読んで笑ったりとか。周りの意見に合わせて、自分の意見を殺したりとか。面倒くさいんだ。社会に出たならともかく、学生でいる間は学校を卒業するまで、いや、もっと短い奴はクラスが替わるまでの付き合いだろ。小学校ではそれなりに付き合ってた奴だって、クラスが違ったいまはもうろくに話さないただの他人だ」
夕闇が下りて、辺りは薄暗い。
「小学生の時から、もっと協調性を大事にしろって通信簿にも書かれてたけど。協調性って、そんなに大事なものかな。人付き合いなんてただ煩わしいだけじゃないか」
空には紺色とオレンジ色のグラデーションがかかっている。
「当然だろう」
小金井くんは得意げに笑ったけれど、私は笑い返したりはしなかった。
ただ、思いのままを何の感情も挟まず告げた。
「あなたはとても優秀だけど、とても可哀想な人。自分の立場を悪くしてでもあなたを庇った漣里くんの思いがわからないなら、人の心がわからないなら、あなたの傍にはきっと誰もいられない」
少し言い過ぎただろうか。
時間の経過と共に冷静さを取り戻した私は、悶々とした気持ちを抱えながら昇降口を出た。
昇降口から校門までは少々距離がある。
その間を歩く生徒たちは、不良と名高い漣里くんはもちろん、その隣を歩く私にも、多少の好奇を含んだ視線を注いでいる。
でもいまの私は、その人たちの視線も、ひそひそと囁き合う声も、構う余裕がない。
「……小金井は何か色々言ってたけど、ひねくれてるだけで、根はそんなに悪い奴じゃないと思うから」
沈黙の果てに聞こえてきた声に、私は唖然とした。
漣里くんは微妙に気まずそうな顔をしている。
あれだけ言われたのに、漣里くんは小金井くんを庇うんだ。
私が知らないだけで、何か庇うに足る理由があるの?
いや、それでも……。
「……漣里くんは人が良すぎるよ」
私は唇を尖らせた。
私だってちょっとは言い過ぎたかもしれないけど、でも、彼氏を悪く言われて怒るな、なんて無理な話だ。
「なんであれだけ言われて怒らないの。クラスメイトにも邪魔だとか言われたんでしょ。ちゃんと怒ったの?」
「……いや」
漣里くんは逃げるように目を逸らした。
「もー! 自分のことなのになんでそんなに他人事なの? 漣里くんはもっと自分の感情を表に出すべきだよ。ずーっと庇ってた相手にあんなこと言われて悔しくないの? 私は怒鳴りつけてやりたかったよ! クラスメイトに邪魔だって言われたときだって、もし私がそこにいたらきっと怒ってたよ」
「……。怒るとか、面倒くさくて」
一拍の無言を挟んで、漣里くんは言った。酷く、平坦な口調で。
「空気読んで笑ったりとか。周りの意見に合わせて、自分の意見を殺したりとか。面倒くさいんだ。社会に出たならともかく、学生でいる間は学校を卒業するまで、いや、もっと短い奴はクラスが替わるまでの付き合いだろ。小学校ではそれなりに付き合ってた奴だって、クラスが違ったいまはもうろくに話さないただの他人だ」
夕闇が下りて、辺りは薄暗い。
「小学生の時から、もっと協調性を大事にしろって通信簿にも書かれてたけど。協調性って、そんなに大事なものかな。人付き合いなんてただ煩わしいだけじゃないか」
空には紺色とオレンジ色のグラデーションがかかっている。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
姉らぶるっ!!
藍染惣右介兵衛
青春
俺には二人の容姿端麗な姉がいる。
自慢そうに聞こえただろうか?
それは少しばかり誤解だ。
この二人の姉、どちらも重大な欠陥があるのだ……
次女の青山花穂は高校二年で生徒会長。
外見上はすべて完璧に見える花穂姉ちゃん……
「花穂姉ちゃん! 下着でウロウロするのやめろよなっ!」
「んじゃ、裸ならいいってことねっ!」
▼物語概要
【恋愛感情欠落、解離性健忘というトラウマを抱えながら、姉やヒロインに囲まれて成長していく話です】
47万字以上の大長編になります。(2020年11月現在)
【※不健全ラブコメの注意事項】
この作品は通常のラブコメより下品下劣この上なく、ドン引き、ドシモ、変態、マニアック、陰謀と陰毛渦巻くご都合主義のオンパレードです。
それをウリにして、ギャグなどをミックスした作品です。一話(1部分)1800~3000字と短く、四コマ漫画感覚で手軽に読めます。
全編47万字前後となります。読みごたえも初期より増し、ガッツリ読みたい方にもお勧めです。
また、執筆・原作・草案者が男性と女性両方なので、主人公が男にもかかわらず、男性目線からややずれている部分があります。
【元々、小説家になろうで連載していたものを大幅改訂して連載します】
【なろう版から一部、ストーリー展開と主要キャラの名前が変更になりました】
【2017年4月、本幕が完結しました】
序幕・本幕であらかたの謎が解け、メインヒロインが確定します。
【2018年1月、真幕を開始しました】
ここから読み始めると盛大なネタバレになります(汗)
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる