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93:姉のような私の親友(3)

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「それで? いい雰囲気だけど、夏休みはどうするの? 千影様と出かけたりする予定は?」
「……それが」
 菜乃花は枕を抱えたまま起き上がった。

「地元の花火大会に行かないかって誘ったんだけど。千影くんは海外で過ごすんだって。レセプションパーティーとかホームパーティーとかに行かなきゃいけない総司先輩についていくんだって。やっと兄弟で普通に話せるようになったんだから、親睦を深めて欲しいと心から思ってるよ。でも、千影くんと花火を見に行きたかったなー、残念だなーと思う気持ちも無きにしも非ず……」

 抱えた枕に顎を埋める。
 夏休みが近づくにつれ、頭の中で妄想していたあれやこれやは、千影に現実を突きつけられたことで儚く消えた。

「花火大会がダメなら、海でも山でも良かったの。せっかくの夏休み、どこでもいいから一緒に過ごしたかったな、なんて……我儘だよね……」
「いいえ。好きな人と一緒にいたいと思うのは当然でしょう。残念だったわね」
 杏は左の三つ編みも解き、二つの黒いヘアゴムをエプロンのポケットに入れた。

 そして菜乃花の傍に腰を下ろし、頭を撫でてくる。

 大河に頭を撫でられたことはあるが、それとは違う、柔らかい女性の手だ。

「……杏ちゃんってお姉ちゃんみたいだね」
 菜乃花は彼女の行動に驚いたものの、すぐに頬を緩めた。

「まあ私は四月生まれだし、姉と言われれば姉になるんでしょうけれど。菜乃花が妹だったら手がかかって大変でしょうね」
「! いま菜乃花って」
 思わず枕を落とした菜乃花に対し、杏は照れもせず、無表情で言った。

「今日のメイド業は終わったし、他人行儀に振る舞わなくたっていいでしょ。どうやら私とあなたは友達のようだし」
「どうやら、じゃなくて本当に友達だよ! 親友だよ!」
「はいはい。そういうことにしといてあげる」
 菜乃花の抗議が面白かったらしく、杏が微かに笑い、すぐにその笑みを消した。

「それはさておき。私で良かったら花火大会、一緒に行ってもいいわよ?」
「! うん、行こう! 有紗も誘っていい!?」

「ええ、もちろん。女子三人で楽しもうじゃない」
「よーし、千影くんがいなくたって夏を満喫してやるぞー、おー!」

 一人で拳を高く掲げてもクールな杏が乗ってこないのはわかっていたので、菜乃花は台詞に合わせて杏の手首を掴み、高く上げた。
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