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79:完全無欠な兄の話(3)

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 廊下で花瓶の埃を払っていた使用人に尋ねてみると、二年生組は三十分ほど前に帰ってきたそうだ。
 総司なら昼食を終えて大広間にいるはずだと聞いて、菜乃花は千影と共に一階へ下りた。

 千影が大広間の扉を開ける。

 期末テスト終了に伴い、大広間にあった勉強用の特別スペースはなくなり、家具の配置も元に戻っている。

 細かな模様が入った薄いベージュの壁紙、大画面の薄型テレビ、アンティークの家具とソファ、季節の花が活けられた花瓶、全てはもう見慣れたものだが――

 扉を開けるなり千影が動きを止めたのは、ソファで総司が寝ているからだった。

(……寝てる……?)
 それは、あまりにも意外な光景だった。

 彼の親友の大河が寝ていることは割とよくある。

 この前も新作ゲームが出たと言って完徹でゲームをし、そのまま持参した毛布を被って朝まで爆睡していた。

 しかし、総司が寝ている姿を見るのは初めてだ。

 猫被りモード中の総司はいつでもどこでも完璧で、眠そうな顔などいまだかつて見せたことがない。

 けれどいま、彼はエアコンの効いた涼しい大広間で薄い毛布を被り、横たわって目を閉じている。

「ようこそお二人さん」
 総司の隣でテレビを見ていた大河が片手をあげた。

 大河の斜め前、一人掛けのソファに座る要は微笑み、頭を下げてきた。
 明日から使用人に戻るつもりらしく、要はボーダーが入ったTシャツに黒のパンツを履いていた。

「突っ立ってないでおいでよ。あ、総司が寝てるからって声量とか気にしなくても大丈夫よ? こいつ、エネルギー切れ起こして完全に落ちてるから。よっぽどのことがない限り目ぇ覚まさねー」

「……そうなのか」
 千影は戸惑ったような表情のまま、大河たちの対面のソファに座った。
 菜乃花も彼の隣に腰掛ける。

「もしかして総司に用事? 急用なら叩き起こそうか?」
 大河が再び片手をあげるのと同時、テレビの中でタレントたちが大笑いした。

 大河が好むのはバラエティーだ。
 総司のようにニュースや株価をチェックしていたことなど知る限り一度もないが、それでも総司と同じ難関大学志望のAクラスで成績も良いというのだから不思議である。

「いや。急いでないし、起こさなくてもいいよ。兄貴が寝てる姿を見るなんて何年ぶりだろうな……」
 眠る兄を見つめて、千影が呟く。

「そうなの?」
 園田家では同じ部屋で姉妹が布団を並べ、一緒に寝ることは普通だった。
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