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61:友達とショッピングモール(3)

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「良かったわね。私、意外と脈ありだと思うんだけれど?」
 有紗は桜貝のような桃色の唇を持ち上げて微笑んだ。

「それはないよ。千影くんはるるかに夢中だもん。私はただの友達です」
「家庭教師をしてるときは部屋に二人きりでしょう? いい雰囲気になったりしたことないの?」
「ないです」
「……。これまで一度も?」
「ええ。何度部屋で二人きりになろうと、私たちの関係はあくまで教師と生徒、良い友達。至って健全そのものです。お疑いなら部屋に監視カメラを仕掛けてくださっても構いませんよ? ただ家庭教師をしてるだけですから」
「……そう……」
「ちなみに昨日は古代ローマの歴史、五賢帝時代を中心に教えました。化学では物質の三態とエネルギーについて講義しました。千影くんは大真面目に授業を受けてくれます。あの厳粛な空気のどこに恋愛要素を挟む余地があるというのでしょう。ご存じならば是非ご教授お願い致します」
「……あの……なんというか、ごめんなさい……」
 しばらく雑談しながら雑貨店を見て回り、オブジェが置いてある広いスペースに差し掛かったとき、有紗が急に立ち止まった。

「ねえ、ちょっとそこに立って。写真を撮らせてほしいの」
 有紗は通路の端を指さした。
 ちょうど人通りが途切れ、写真を撮るなら絶好のチャンスと言えるタイミングだ。

「写真? なんで?」
「いいからいいから。ポーズ取って」
「ポーズと言われても……」
「適当でいいから。5、4、3……」
 スマホを構えてカウントされては棒立ちしているわけにもいかず、菜乃花は慌てて右手でピースした。
 ピロリン、と間抜けなスマホのシャッター音がする。

「ありがとう。これでいいわ」
 スマホに何度か指を走らせた後、有紗はスマホを鞄に入れた。

「なんで写真なんて撮る必要が?」
「あら、一枚くらい友達の写真が欲しいと思うのは自然なことじゃないかしら」
 友達。
 その甘美な響きは、入学して長いことぼっちだった菜乃花の胸を強く打った。

「……じゃあ、私も有紗の写真欲しい!」
「私の写真なんてたくさん持ってるじゃない」
 有紗は乗り気ではないらしく、柳眉をひそめた。

「雑誌じゃなくて、私のスマホの中に欲しいの! そうだ、プリクラ撮ろう! ゲームコーナーに行こう! 私、これまで同級生とプリクラを撮ったことないの! プリクラって別人になれるんでしょ? 目を大きくして宇宙人になるの楽しみ!」
「楽しみ方が違うような……」
 菜乃花は嬉々として有紗と腕を絡ませ、ゲームコーナーに向かった。
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