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39:そんなのってない

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「ええ。クラス分けのために行われた実力テストでもほとんど満点だったんじゃないかしら。でも、私はテストの結果にかかわらず、千影様と同じクラスになることが決定していた。天坂家に仕えるメイドとして、千影様を影から見守る。それが私の仕事だもの。もし千影様がA組だったら、私もA組だったでしょうね」
「……実力テストの結果でクラス分けされるって言ってたのに、天坂家は権力でルールすら覆しちゃうんだね……」
「天坂家だもの。なんでもありよ」
 杏は頷いてみせた。

「それはともかく、江波様の話でしょう? 江波様は苦労なさったから、人との間に高い壁を作っておられるのよ。壁を壊したいなら、積極的にアタックするしかないわね」
「アタックしまくってもことごとく撃沈させられてるんですがそれは……。……苦労って何?」
 気を取り直して、菜乃花は姿勢を正した。

「江波様は飛び抜けて美人でしょう。アヒルの中に一匹、白鳥が混ざっているようなものね。あれだけ美人だと羨望と同時に嫉妬の念を集めてしまうのよ、どうしても。友達は周りの生徒から『引き立て役』と囁かれ、耐えられなくなって江波様から離れていく。同性の醜い嫉妬に辟易して異性と話せば『男に媚びてる』と陰口を叩かれる。優れた容姿を褒められたらいちいち愛想笑いを返し、謙遜しなければならない。少しでも対応を誤れば『生意気』『調子に乗ってる』。人間関係に疲れ果てて、全てが煩わしくなって、孤独を愛するようになるのも道理でしょう?」
「…………」

 有紗はクラスで孤立している。
 休憩時間は本を読むか寝ているかのどちらかで、彼女に話しかける生徒はいない。
 たまに話しかける生徒がいても、彼女は一言、二言で会話を打ち切ろうとする。

 徹底して他人を拒絶するクールビューティー。

 そういう人なのだと思っていた。
 彼女は菜乃花が、他人が嫌いなのだと。

(でも、他人が嫌いなんじゃなくて、他人を嫌わざるを得なかったんだとしたら――それが自分の心を守るための処世術だとしたら、そんなの、あまりにも悲しすぎる)

「……そんなのってない」
 無意識に、菜乃花は呟いた。

「そうね。で? どうする?」
 杏は面白がるような目で菜乃花を見た。
 まるで、この後、菜乃花がどういう対応を取るかを予想し、それを歓迎しているかのよう。

「――江波さんと話してくる」
 菜乃花はすっくと立ち上がった。

「この時間帯なら、まだ起きておられるはずよ。行ってらっしゃい」
 一週間前、菜乃花を総司の元へ送り出したときのように、杏は笑った。
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