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74:テスト前の勉強会(3)
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「いやいや、いいことだと思うぜ? 菜乃花ちゃんのおかげで千影、だいぶ変わったもん。以前のあいつはおとなしくて陰気で空気だったんだよ。『あ、いたの?』って感じで、幽霊みたいに気配がなかった。いつだって死んだような無表情だったのに、いまは感情をあらわにするようになった」
「同意見です」
頷いたのは有紗だった。
顔を向けると、有紗はほんの少しだけ気まずそうに笑った。
「私、ずっと孤立してたから。いつも一人でいる天坂くんにシンパシーを感じてたの。寮でも彼は誰とも親しくなろうとせず、部屋に引きこもってばかりだった。天坂先輩とも仲が悪いみたいで、お互い無視し合ってて、一緒に食卓を囲むたびになんともいえない気分になってたのよね。まだぎくしゃくしてるけど、でも、兄弟がそれなりに話すようになったのは菜乃花が働きかけたからなんでしょう? 菜乃花は凄いわ。天坂くんだけじゃなく、先輩まで変えたんだから」
「そんな。私はしたいようにしただけだし、褒められるようなことじゃないよ」
菜乃花は慌てて手を振った。
「それで済ませられるのが菜乃花の凄いところなのよ。うまくいくといいわね」
有紗が屈託なく笑う。
「……ありがとう」
本心から恋を応援してくれているのがわかり、菜乃花ははにかみながら微笑んだ。
会話が一区切りしたところで、守屋が飲み物を勧めてきた。
アイスココアを頼んで、皆と一緒に勉強に励む。
「ねえ、この問題わかる?」
シャーペンの先端を顎に押し当て、数秒動かなかった有紗が横から数学の問題集を差し出してきた。
問いの横に大学名が書いてあるから、入試に出題された問題なのだろう。
こういった難問を平気で織り交ぜてくるのが五桜学園の実力テストだ。
どれだけ勉強しても足りることはない。
「これはね――」
ノートに解法を書きながら解説すると、有紗は「なるほど、ありがとう」と頷いた。
「前から思ってたんだけど、菜乃花って勉強教えるのうまいわよね」
「そう?」
と言いつつ、思い当たる節はある。
千影の家庭教師をしているからだ。
落ちこぼれの千影は勉強を教えようにも『そもそも何がわからないのかがわからない』レベルだった。
何故そうなるのかを1からわかりやすく説明できるようになるため、菜乃花は参考書や教科書と睨み合い、ときには職員室に赴いて教師に質問し、日々己の学力向上に努めてきた。
「教師に向いてるんじゃないかしら」
何気なくの発言だったのだろうが、その言葉は菜乃花の心に響いた。
(教師か……)
家庭教師の時間中、正解を導いた千影を褒めると、千影は得意げな顔をする。
そのドヤ顔が見たいあまり、菜乃花が大げさに褒めていることに果たして彼は気づいているかどうか。
(……うん。進路としてありかもしれない)
真っ白な進路希望調査票になにを書こうかずっと悩んでいたが、第一候補に教育学部と書いてみよう。
まだ一年の一学期、進路を変えることはいくらだってできるのだから。
「同意見です」
頷いたのは有紗だった。
顔を向けると、有紗はほんの少しだけ気まずそうに笑った。
「私、ずっと孤立してたから。いつも一人でいる天坂くんにシンパシーを感じてたの。寮でも彼は誰とも親しくなろうとせず、部屋に引きこもってばかりだった。天坂先輩とも仲が悪いみたいで、お互い無視し合ってて、一緒に食卓を囲むたびになんともいえない気分になってたのよね。まだぎくしゃくしてるけど、でも、兄弟がそれなりに話すようになったのは菜乃花が働きかけたからなんでしょう? 菜乃花は凄いわ。天坂くんだけじゃなく、先輩まで変えたんだから」
「そんな。私はしたいようにしただけだし、褒められるようなことじゃないよ」
菜乃花は慌てて手を振った。
「それで済ませられるのが菜乃花の凄いところなのよ。うまくいくといいわね」
有紗が屈託なく笑う。
「……ありがとう」
本心から恋を応援してくれているのがわかり、菜乃花ははにかみながら微笑んだ。
会話が一区切りしたところで、守屋が飲み物を勧めてきた。
アイスココアを頼んで、皆と一緒に勉強に励む。
「ねえ、この問題わかる?」
シャーペンの先端を顎に押し当て、数秒動かなかった有紗が横から数学の問題集を差し出してきた。
問いの横に大学名が書いてあるから、入試に出題された問題なのだろう。
こういった難問を平気で織り交ぜてくるのが五桜学園の実力テストだ。
どれだけ勉強しても足りることはない。
「これはね――」
ノートに解法を書きながら解説すると、有紗は「なるほど、ありがとう」と頷いた。
「前から思ってたんだけど、菜乃花って勉強教えるのうまいわよね」
「そう?」
と言いつつ、思い当たる節はある。
千影の家庭教師をしているからだ。
落ちこぼれの千影は勉強を教えようにも『そもそも何がわからないのかがわからない』レベルだった。
何故そうなるのかを1からわかりやすく説明できるようになるため、菜乃花は参考書や教科書と睨み合い、ときには職員室に赴いて教師に質問し、日々己の学力向上に努めてきた。
「教師に向いてるんじゃないかしら」
何気なくの発言だったのだろうが、その言葉は菜乃花の心に響いた。
(教師か……)
家庭教師の時間中、正解を導いた千影を褒めると、千影は得意げな顔をする。
そのドヤ顔が見たいあまり、菜乃花が大げさに褒めていることに果たして彼は気づいているかどうか。
(……うん。進路としてありかもしれない)
真っ白な進路希望調査票になにを書こうかずっと悩んでいたが、第一候補に教育学部と書いてみよう。
まだ一年の一学期、進路を変えることはいくらだってできるのだから。
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